メインPCとして使っているDell XPS 8940(Intel Core i7-10700)のCPUクーラーを交換し、実効性ある結果を得た件については既に述べた。今回は「その後」の話だ。
CPUクーラー交換後に気になったのがファン音だ。特にCPU出力100Wを超えたあたりから聞こえ始めるブーンといった音が大きく、かつ聞いていて落ち着かなかった。遠心式ポンプやスクリューコンプレッサと言った高速回転機器と仕事上長く付き合ってきたためか、回転軸のブレや潤滑不良を想起させるこの種の音はとにかく苦手なのだ。CPUクーラーの交換で、60Wを超えるCPU出力でもCPU温度をほぼ気にせずに長時間・連続運転できるようになったからこそ生じた問題だ。
そこでケースの側面板を外して様々なCPU出力で運転してみたところ、件の音の源がケースのリア排気ファン(以下、ケースファン)であることが分かった。出荷時のケースファンはFOXCONN PVA080F12Hで、ファン径80mm、最大4200rpmという高回転数によって最大風量45FCNを叩き出すちょっと癖のある製品だ。ファン回転数は4-pin PWM制御で、低負荷時には回転数を抑えて文字通りの静音運転を実現する。が、高回転運転で風量を稼ぐ仕様なので、高負荷時には色々と音を立ててしまうのは避けられない。ブーンといった音もその一つだ。悪い製品ではないとは思うのだが、積極的に使いたいCPU出力域で五月蠅いのは頂けない。
と言う訳で、ケースファンをnoctua NF-A9 PWMに交換した。ファン径は一回り大きい92mmだが、最大回転数が2000rpmなので最大風量は約45CFNで交換前と変わらない。静音化のみを目的とした割切った選択だが、選択理由は「ピンと来てしまったから」としか説明できない。公開スペック並べてみると、noctua NF-A9は同径ファンを用いた他製品と比べて最も低ノイズという訳でもなく、正直価格は高めだ。なおDell XPS 8940のケースには80mmケースファン用の取り付け穴だけでなく92mmケースファン用の取り付け穴も用意されているので、noctua NF-A9への交換には何の障害もなかった。
交換結果を簡単に言えば、CPUの使用可能範囲全域(CPU出力174W以下=CPUの100%性能動作時の出力以下)で、ケースファン音はCPUクーラーのファン音よりも常に小さくなった。当然、ブーンといった不安感を誘う音は無くなった。
ファン購入費を十二分に取り返したぞ、これは。
「ファン音が五月蠅い、ファンが壊れるんじゃないかと不安になる」という理由でCPU出力を敢えて抑えて運用する、という選択肢は、睡眠時の連続・全力運転時を除いてもはや無くなった。
ケースファン交換前はCPU出力120Wでもその音からファンが壊れないか不安になったものだったが、今や170Wでも「廻ってんなぁ」ぐらいにしか思わなくなった。実際、CPU出力120W時のファン音は、半開きのドアを通して隣接するキッチンから聞こえる電子レンジの作動音よりも小さくなってしまったぐらいだ、なんともはや。しかも、CPUパッケージ温度が72℃に達する110Wを超えると、ファン回転数が最大値に達しているようでファン音の大きさはもうCPU出力を上げても変わらない。
ファン音が静かになったので、取り合えず普段使い時のCPUのターボブースト最大出力を75Wから95Wに上げた。ここで普段使いとは「3DCGIアプリのリアルタイムプレビューが常に動作しており、作業時間の1/3以上でCPU使用率が100%」といった使い方だ。典型的な動作クロックは4.1GHz、CPUコアパッケージ温度は基本的に68℃未満が維持され、CINEBENCH R23のマルチCPUスコアは10169と10000を越える。
なお、ベンチのベストスコアは12245@ワット数無制限・・・CPUパッケージ温度が90℃にいっちゃうので長時間連続運転には敢えて使わない。が、爆音とまでは言えないレベルのファン音でCPUの性能が100%出せる冷却性能が得られたことは、PCとしては別物になったと言える。CPUクーラー交換前はCPUパッケージ温度が上限値の100℃に達するためCPU出力が110Wまでしか上がらず、CPUクーラー交換後はCPU出力無制限で運転できるようにはなったもののファン音は大きいわケースも共振するわで120W越えの運転はヒヤヒヤしながらだった。が、ケースファンの交換後はCPU出力無制限(実際には174W付近でフルパワーに到達)での運転でも「頑張って廻っとる、国内ブランド安物電子レンジよりは静か」な感じのファン音しかしなくなった。必要な物品の購入コストが約¥3600(CPUクーラー)+¥220(ネジ)+約¥2200(リアケースファン)でこれは安い、安くない?
では最後はおまけのおまけ。
- ケース側面板を外しただけで、ケースファン無しでもCPUパッケージ温度が6~7℃下がるCPU出力域があった。世間の評判通り、Dell XPS 8940のエアフロー設計を含む熱設計は余り褒められたものではなさそうだ。
- 海外の動画などを観ていると、Dell XPS 8940についてはフロントにケースファンを2個追加する例も珍しく無い。そんな中、フロントパネル裏のHDD(HDD自体の冷却を意図してか、ケースの吸気口の一部を実質的に塞ぐ形で設置されている)を外してまでその位置にケースファンを取り付ける理由が分からなった。実はこの位置のケースファンは、サイドフロー型CPUクーラー使用時にはそのファンと向かい合う。つまり、CPUクーラーに吸気したばかりの外気を直接吹き付けるような形となるのだ。なお、もう一つの追加ファンはグラボに吸気を直接吹き付けるためのものだ。
ケース側面板を外した方がCPUが良く冷える理由は明確ではないが、側面板が取り付けられている状態ではケース内に循環流が発生しており、CPUクーラーのファンの吸気にクーラー下流の高温の空気が混ざっている可能性などが考えられそうだ。今回のケースファン交換では風量は変えていないのでケース内エアフローへの影響は極めて小さいだろうから、CPUパッケージ温度に影響が見られなかったのは当然と思える。半面、ケース内エアフローに改善余地があるのは明らかだろう。
まずはHDDの位置、変えてみる?