2021/06/29

Windows11互換性 × Dell XPS 8700 = やっかい

 Windows11が公式発表され、互換性チェックプログラムなるものも公開された。互換性チェックプログラムによれば、現行のメインPCは「互換性に問題無し」、先代のメインPCは「互換性に問題あり」となった。この先代のメインPCがDell XPS 8700である。

 で、互換性チェックプログラムをマイクロソフトのサイトからダウンロードしたのは昨夜なのだが、今日の午前中にはダウンロード用のリンクは消滅、「準備中」となっていた。「DellやHPなどの多くのメーカーPCで、互換性が担保できなかったせいではないか」と邪推しているのだが、如何だろうか?実際、私のDell XPS 8700の状況はやっかいだ。

  Dell XPS 8700は2014年モデルで、CPUとして第4世代Intelコア、ハズウェル・リフレッシュ世代のコアを搭載している。私のPCではIntel i7-4790(4コア8スレッド)だ。現時点でこのCPUは対応プロセッサリストに含まれていないが、いやいやまだ切れんでしょうよと思うのだ。だから現時点では未対応でも気にしないことにしている。それに実際のところ、大ボスは別のところにいた。

 さて、Windows11は「UEFIによるセキュアブート」を要件としている。別の書き方をすると「トラステッド プラットフォーム モジュール (TPM) バージョン 2.0の実装」を必須としている。Dellは幅広いラインナップでTPMを採用しておらず、Intel PTTという安価な代替ソリューションをBIOSレベルで提供している。ここでまず引っかかる。

 ちなみにIntel PTTを採用している大手メーカーのPCは決して少なくなく、マイクロソフトが要件を緩めるか、或いは各メーカー独自でこの辺りの顧客対応をちゃんとしないと、次からそのメーカー製品を選んでもらえなくなる可能性も出てくるのではないかと思う。企業や官庁に自社製品を一括大量導入しているメーカーの中には、リアルタイムで頭抱えてるところもあるんじゃないかな?DELLのサポートは技術仕様書類を公開するだけでトラブルシューティングはもうユーザーコミュニティへ丸投げだから、一部の顧客は捨てることになるんだろう。が、「うちのやり方はDELLとは違います」なんてサポートについてDELLとの違いをアピールしてきたメーカーで「新しいのにWindows11互換性が無い製品が多数」なんてことになったら、技術も含め顧客に直接接する現場は目も当てられない。

 技術畑の人なら理想論としては分かってもらえると思うのだが、この種の要件の導入には1商品サイクルぐらいの移行期間がやっぱり必要だ。Windows10のサポート終了時期こそ、その種のサイクルに基づいて決めたものじゃないのかねぇ?

 閑話休題。

 現時点では「互換性で弾かれる」という意味で駄目なIntel PTTだが、将来的には分からない。上述の通り、この要件はメーカーに対して大きな負荷要因となり得る、つまり少なくとも歓迎はされない。それに特定の機能の有無が問題ならば、BIOSのアップデートは必要かもしれないにしてもPTTでTPMを代替し得る筈だからだ。機能を代替できる(ことになっていた)からこそPTTには意味があったのだ。が、Intel PTTはレガシーBIOSでは使えず、Windowsの起動をUEFIとしないといけない。XPS 8700はWindows7と8.1のプレインストール機が並売された最後の世代の製品であり、かく言う私も「最後のWindows7プレインストール機」故に購入したと言って良い。ここでDellは、Windows7プレインストール機をレガシーBIOS起動でセットアップして出荷した。従って、そのままWindows7からWindows10に無償アップデートしたXPS 8700はレガシーBIOS起動のままなのだ。つまり、Intel PTTすら使えない。

 「じゃあ起動をUEFIに変えれば良いじゃないか」と思うかもしれないが、そうは問屋が卸さない。起動ドライブ(普通はCドライブ)もUEFIに対応していなければならないからだ。具体的には、パーテションがMBRベースではなくGPTベースでなければならない。レガシーBIOSの場合がMBR、UEFIの場合がGPTだ。この点についてはWindows10自体が"mbr2gtp.exe"という変換プログラムを用意しているので、一見対応可能だ。通常は1分程度で変換される。が、Dell製品の多くで、起動ドライブのパーテション分割が独自のもの(OEMパーテションという表現が見られる)となっている。XPS 8700も然りだ。

 "mbr2gtp.exe"は独自のパーテション分割には自動で対応してくれないので、プログラム実行時にユーザーがパーテション情報をオプション(/map=・・・)として具体的に与える必要がある。とは言え、どうやってそのオプションの数値を手に入れるのかも分からんし、入力間違いなどしようものなら変換結果がどうなるかも分かったもんじゃない。OEMパーテションの情報と対応したオプションに関する情報は国内外で蓄積が進んでいるようだが、やっかいな問題であることには変わりなく、余りに建設的ではない作業に能力ある人間の労力が割かれるというのも悲しいばかりだ。

 ちなみに私のDell XPS 8700はこれまたイマイチ建設的ではない用途で24時間稼働中だが、とてもWindows10のサポート終了時まで運用することになるとは思えない。だから本来はWindows11との互換性なんてほっておけば良かったのだが、PCを自作していた10年以上前の気分がちょっと蘇ってしまっていじりだしたのが運の尽きだった。様々な困難や勘違いが生み出した結果に打ちのめされ、結局Windows10のクリーンインストール(ただしUEFI起動に変更)に至るのだが、その過程での知見は上述の通りである。散々調べ、考えて実行した結果、1文字のタイプミスのせいで取り返しのつかない事態を引き起こした・・・なんて醍醐味は久しぶりだなぁ(棒

 思えば最初の作業、BIOSのA13からA14へのアップデートが正常終了しなかった(インストールは終了したのだが、チェックプログラムがクラッシュした)時点で、その後の泥沼、やろうとしていることの筋の悪さを予見すべきだったのかもね。得たものの少なさは正直つれえ。

2021/06/28

レンダーファーム、使用料おいくら?

 最近、13~10年前にYouTubeに上げた3DCGI動画のリメイクに手を染めた。ざっくり10年でのCPUパワーの増加は10倍強で、20倍には届かないというのが実感だ。ただ、3DCGIで最も時間のかかるレンダリングは並列計算向きで、アプリ側もマルチコア/スレッドCPUの特性を最大限利用するように発展してきている。加えて、メモリやストレージの性能向上もレンダリング時間短縮に明らかに寄与しているよう見える。結果、CPUによるレンダリング速度は、20倍をやや超える程度までは向上したように思う。

 20倍強というと微妙な感じもする人もいるだろう。だが一般的なサラリーマンの1ヵ月あたりの出勤日が約22日であることを考えると、1日の出勤だけで給料一ヵ月分貰えるような「比率」ではある。3週間かかっていたレンダリングが1日で終わる。丸1日かかっていたレンダリングが1時間ちょっとで終わる。特に前者の場合は、私なら以前は絶対やろうとしない条件だ。とは言え、"Enough  is not enough"なのが人間だ。そんな人こそレンダーファーム・・・なのかな?

 レンダーファームとはレンダリングのためのCPUパワーのレンタルサービスや、そのためのハードウェア・ソフトウェア環境を指す。歴史をすっ飛ばして現状だけ見れば、クラウドコンピューティングサービスの一種と見做せるんじゃないかと思う。要は自分のPCの代わりに、レンタルした並列計算環境にレンダリング計算をしてもらうサービスだ。時間をプロダクションコストに含めなければならないプロフェッショナルの世界では、昔から必須のサービスだ。また、フリーランスの3DCGIアーティストが自己宣伝用デモリールを作る際に、仕上がりをプロフェッショナル級にするために使われることもあるようだ。

 で、いくつかのレンダーファームサービスの価格を調べてみた。結論から言うと、良くも悪くもサービス提供元による価格差はほとんど無かった。もう少しばかり定量的に書くと、円-ユーロ、円-ドルの為替レートの変化でどこのサービスが一番安いかが変動するレベルの差だ。と言う訳で、米国ベースのとあるサービスの簡単見積りページで価格を見積もってみた。条件は、私のメインPCでレンダリング実績のある以下の通りとした。

  • 600枚の静止画をレンダリング
  • Intel i7-10700で静止画1枚/分、総レンダリング時間は10時間
  • 200ノード並列
  • 優先度は普通

ここでは、CPUを特定し、そのCPUでのレンダリング時間を与えている。サービス提供元のノード又はCPUの計算能力と特定したCPUの計算能力との換算が妥当ならば、かなり正確な見積りになるのではないかと思う。ノード並列数には特に意味は無いが、レンダリング枚数を超える意味が無いことと、レンダリング枚数の約数であることは意識した。優先度というのはざっくり実行順で、お金を積んで「高」とか「最高」にすれば、「普通」の他ユーザーの計算を止めてでも先に計算してもらえるようになる。

 見積り結果は以下の通り。

  • 実効計算時間は約80秒
  • 価格は約¥1,300-

実効計算時間はノードの性能から妥当な感じ、使うとしても全く文句は無い。データのアップロード、ダウンロードを含めたターン・アラウンド・タイムは15分ぐらいだろうか。生成され、ダウンロードするデータの量は多いが、これらデータの一時保存などのコストは見積りに含まれていなかった。まぁ大抵はそのためのネットワークストレージサービスを別途契約しておいて、レンダリング結果はレンダーファーム側が適宜書き込む形にすべきなのだろうけれども。

  対して価格だが、これが微妙。趣味かつ作成動画からの収益無し、という条件下ではやはり高値感がある。せめて半分、ただ¥300+消費税なら使うかもしれない。ちなみにCPUの最大TDP60WでメインPCを10時間全力駆動した場合の電気代の「増分」は約¥16-で、計算する前の予想よりは安かった。結局のところ、レンダリング時間である10時間が「睡眠時間+アルファ」又は「出勤で部屋のPCに触れられない時間以下」なので、金を払ってでも取り返したい時間になかなかならないのが高値感の原因だろう。

 レンダリング時間が更に100倍になる辺り・・・価格¥13万-以上・・・からがレンダーファーム利用の本領発揮ラインだろう、というのが今回の感覚的な結論かな?200並列ならば「40日後の結果を今日の午後に得られる」となるが、こうだとさすがに価格の見え方も変わってくる。場合によっては「40日後に得られる予定だった結果を見ることで、40日後に得る筈だった新アイディアを今日の午後に得られる」なんてこともあるかもしれない。後者の場合、本来無かった筈の40日も別途購入したようにも考えられなくもなくない?

2021/06/27

グラボの値段、下がるのか?

 某YouTuberさんによると、明らかに下がり始めているらしい。高騰の原因とされる事項に結構歪な感じのするものが多いので、基本的には良いことだろうね。ここでの「良い」のニュアンスは、「製品が本来の目的通り、最適化されている用途で使われる」だ。別用途でも使えるとは言っても電力効率が半端無く悪いとかって話になると、少なくとも「良くはない」でしょうよ。

 さて、

 価格高騰の一原因として、暗号通貨のマイニング需要による製品供給不足が良く挙げられていた。このため、マイニング機能を無効化したと言うか、マイニング用途で使用しにくいグラボも製品化されたりしたようなのだが、ものの数日でその手の小細工は突破されたとの報があった・・・まずは中華人民共和国方面から。

 で、本題。中国共産党(中共)は基本的に暗号通貨がお好きではない。デジタル人民元構想とのバッティングもあるし、香港経由の資産流出経路を潰した今となっては恐らく最大の国内資産の流出口だろう。1ヵ月ほど前の某報道における中共の暗号通貨に対するスタンスは、「マイニングは許容するが、国内外を問わず取引してはいけない」つまり「資産を生み出せ、国内に貯めろ」だった。が、この1、2週間程の間にこのスタンスが大変化したらしい。

 まず、ある程度見逃していた暗号通貨取引を明確に禁止、取引所を閉鎖した。マイニングも禁止とし、大規模マイニングファームへの送電も停止されて事実上の操業停止状態となっているらしい。マイニング関連のインターネット通信に関する金盾の設定も、おそらく変更されたと思われる。

 一般に中国南部や人口密度の低い辺境部は電気料金が安いため、大量の電力を消費する大規模マイニングファームが多数存在していると聞く。そして真偽のほどは不明ながら、新疆ウィグル自治区もそんな感じらしい。少なくとも安い労働力、電力故にドイツや日本の大手企業の生産工場が多く進出したのは事実だ。ただ、三峡ダムの発電量低下(発電効率低下)、高品質石炭の不足(セルフ経済制裁)、原子力発電設備のトラブル(?)など、昨今の情勢を見るに電力価格的には逆風な要素が多い。実際、電力不足が噂されるようになって久しい。

 私の見立てでは、おそらく中共の一部の潤っている層はマイニングは禁止したくない。でもペーさんは禁止したい、きっと良く分からないからだ。そこへ電力不足、ペーさんにとっては渡りに船である。まぁ、某メジャー暗号通貨のトランザクション(決済処理)は直近では4.2秒/1件ぐらいと耳にしたのだが、これじゃ信用はめっちゃ高いけど通貨としては機能しないよね。デジタル人民元の正体はイマイチ判然としないのだが、開口一番に挙げる利点が「トランザクションが圧倒的に早い」なので、少なくとも技術的視点から既存の暗号通貨の「通貨として欠点」をどこに見出しているかの手掛かりにはなる。信用を捨てる、信用レベルを下げるってのは近視眼に過ぎる気はするんだけどね。デジタル人民元はSWIFT体制からの独立を志向している筈だから、国家などの特定の権威による集中管理とは別の信用システムを備えなければならない。言うまでも無く、暗号通貨の信用システムは実に反権威主義的なものだ。だが、もうしそうだと中共のシステムとの相性は最悪だ。

 んで、ここに来ていきなり評判が上がって来た「日の丸量子コンピューティング」が本物(real)で、デジタル人民元がそれでも暗号通貨に似たような信用システムに依拠するならば、既存の暗号通貨のマイニング需要もデジタル人民元そのものも量子コンピューティング実装開始時点でワンラ(終~了~)ですな。ワット・パー・トランザクションが高い(効率が悪い)からこそ信用とマイニング需要がある訳だし、デジタル人民元の早いトランザクションの秘密こそが取り敢えずのクラッキングの攻め所、脆弱点のひとつの可能性なのは疑いようがない。あと通貨をデジタル化すると市場の通貨流通量が調整できなくなるので、一般論として伝統的な国内向け財政政策が実質的に封印される。これ、中共として大丈夫なのかな?通貨のデジタル化「だけ」を導入した状態では、官製バブルなんて絶対演出できないよ?

 閑話休題。

 で、中共の実効支配地域内の大規模マイニングファームの停止は、これすなわちグラボ需要の大規模な喪失だ。これが、疑問形で提示したエントリタイトルの具体的な答えかも知れないと見ている。昨今の暗号通貨の相場の動きは、以前に増して中共の動きをよく見ている印象を受ける。

 ちなみに地震でもないのに揺れる高層ビルの話が最近中国であったが、揺れ始めた原因が上層階の数フロアがマイニングファームとなったからだなんて話があった。これまた真偽不明だが、まぁ、グラボは1枚でもハイエンド品は十分重いよね。

2021/06/25

TDP60Wの力、2010年と2021年のCPU対決

 長時間駆動を前提としたCPUダウンクロックが良い感じとなった勢いそのままに、2010年に一度レンダリングしたシーンを再レンダリングした。今度のネタは米国TVシリーズのBSG(Battlestar Galactica)だ。

 同一のLightWave3D用シーンファイル(一世代前)を用い、睡眠時間中も含めた約10時間で600イメージをレンダリングするという、記憶通りであれば2010年の際と全く同じ条件を課しての実行となった。暗算に抵抗無い人なら直ぐに分かるように、平均1分で1イメージをレンダリングするということだ。

 2010年の際のCPUはIntel Core 2 Duo E6850で、ウェブ上のいくつかのベンチマークデータを参考にすると、総計算パワーは現行メインPCのCPUであるIntel i7-10700の約1/10~1/12だった。改めて調べて分かったのはE6850のTDPが60Wだと言うことで、この値は長時間駆動用にダウンクロックした現行CPUの最大TDPと同じだ。

 70Wまで低減した過程は先行するエントリで触れたが、その後、主に気温の上昇(28~29℃)が原因で、それでもCPUパッケージ最高温度を85℃以下に保つために60Wまで更にTDPを下げることとした。日当たりの良い締め切ったワンルームでは、日中の室内温度が急激に上昇している昨今では致し方ない。コアの最大クロックは3.6GHzから3.4GHz付近まで下がり、コア1/2個分の計算パワーを更に捨てたことになる。つまり全力かつ連続駆動時の計算パワーは、6.5コア、13スレッド相当となる。

 TDPはあくまで熱設計用のパワーだが、実用上は計算に要するパワーに近い値とされる。ならば、1イメージのレンダリングに要するパワーは2010年と今回とでほぼ同じとなる。しかしここ10年のCPUの発展の歴史では、省電力化が大きな位置を占める。では、レンダリングの設定がどれだけ変わったか、これすなわちこの約10年の省電力化+周辺機器の性能向上の恩恵は如何ほどだったか?結果から言うと結構凄かったのだが、さすが10年と言うべきか、されど10年と言うべきかはなかなかに難しい。あ、あとソフトウェアであるレンダラーもマルチコア前提で変わっているんだよなぁ。

  • レンダリング画面は16:9だが、高さ(9の側)は360ドットから1440ドットへと4倍まで増やせた。つまりイメージサイズは16(=4×4)倍になった。この点は結構ビックリだが、3DCGIのレンダリング作業は典型的なマルチコア向き作業だ。
  • メモリサイズは2010年時は16GB、今回が32GBだ。レンダラーが表示したメモリ使用量は約20GBなので、2010年時は完全なオンメモリでレンダリング計算ができていなかった可能性、すなわちHDを用いた仮想メモリ機能を用いていた可能性が高い。
  • 船体表面のライトの数を増やすと、レンダリング時間がてきめんに伸びる。2010年時はライトをあきらめた(配置したがOFFとした)が、今回は最小限のライト(約30個)をONにした。
  • アンチエイリアス、ノイズフィルタの設定は「感覚的に」同等とした。これはレンダラー間でアンチエイリアスやノイズフィルタ手法が基本的な考え方からして違うためで、比較の基準となる客観的な数字が無いためだ。結局のところ、出来上がりのイメージを見て「趣味のプロダクションとしては、まぁ許容レベル」 と自分として言えるかどうかで判断するしかなかった。当然、こんなんじゃ金は取れないっつーか、解像度がまず足りていないのは言わずもがな。
    なお、先行して似たことをやったVF-1Aの場合には、ノイズフィルタの適用量が「趣味のプロダクション」だとしても不足していると判断した。故に「テスト」止まりな訳だが、そもそものレンダリング設定がテスト用のそれでしかないのだから当然と言える。

 なお、動画作成は前回も今回もAdobe After Effects CS5を使った。ここだけは10年以上を経ても変わっていない。音声は2010年版のYouTube動画から抜いたものをDAW上で軽く手を入れて用いた。モコモコした感じが若干抜けて、音がややクリアになっているのではないかと思う。ちなみにYouTubeにアップロードする前の2010年版動画は、ハードディスククラッシュで他の多くのデータとともに未来永劫失われている。

 で、2010年版。

 と、2021年版。

2021/06/23

4K解像度アニメ、テストレンダー

 ターボブースト時の最大TDPを抑えることで、メインPCの長時間全力稼働にも現実味が得られた。内蔵HDやSSD、メモリの温度も大丈夫そうだし、冷却ファン音もさして気にならない。と言う訳で、早速既存のデータを用いてLightWave3D 2020での動画用連続レンダリングを試みた。条件は、夜間も含めた24時間以内で終わること、解像度はせっかくだから4Kとすることだ。その代わり画質やフレームレートは捨てる。そして全力稼働中のPCと同じ部屋で寝る(=夜間がレンダリング時間として使える)。

 ちなみに2011年に使っていたPCのCPUはCore2 Duoではなかったかな。ラジオシティで4K解像度とか、静止画1枚でもできる気がしなかったねぇ。

 全360枚、レンダリング時間は約18時間。レンダリング開始直後にCPUパッケージ温度が一瞬100℃となるが、後は88℃以下を全時間でキープ、終了時のSSD及内蔵HDの温度は49℃、36℃で想定内だった。なおレンダリング時の室温は25~28℃。

 動画自体はノイズがちらちらしてかなり落ち着かない仕上がりとはなった。十分なノイズ除去には、やはり最低4倍のレンダリング時間が必要だ。また、非平面に対するレンダラーのトレランスが以前のバージョンより更に厳しくなっているので、レンダリングエラーが幾つか発生していた。モデルの方はもう手を入れるつもりも無いフリーズしたものなので、明らかに対応すべき非平面ポリゴンを3分ほどの作業で全て三角分割した。一方、現行のメインPCでどこまでやれるか、と言うあたりの現実的なラインはちょっと見えた気がする。こればっかりはベンチマークだけやってても全然分からない。

 あと、古いも良いところのAdobe After Effects CS5に4K解像度のプロジェクトのテンプレが無いのは当然とは言え草。

2021/06/18

メインPC、CPUのダウンクロック(その3)

 クロックダウンかアンダークロックといった表現が普通で、ダウンクロックとは今は言わんらしい。仕事でつきあいのあったDECとか日本SGIの人は・・・20世紀の話だし、まぁいいか。かつてのGoogle検索では、「内蔵ハードディスク」よりも「内臓ハードディスク」の方がヒット数が多かった期間が結構長かったんだよねぇ・・・主犯はおそらくMS-IMEだが。

 同名エントリ、初夏の最終回です。文体は気分次第で変わるのでその点はご容赦を。これまではCinebench R23のベンチマーク計算結果に基づく話でしたが、私の使っている3DCGIアプリであるLightWave3D 2020のレンダリングでも同じ結論となるか確認しました。レンダリングには全16スレッドを割り当てたので、Cinebenchのマルチコア測定時と同じっちゃ同じ条件です。

 複数のターボブースト最大TDP設定に対して、レンダリングに要した時間、CPUコア最大クロック及びCPUパッケージ最高温度を調べました。上図は、右下に示されているようにターボブースト時最大TDPを70W(デフォルトは120W)まで低減した際のレンダリング中の画面です。

 まず出荷時設定、ターボブースト時最大TDPが120Wの場合です。

 レンダリング時間:170.2秒(基準)
 CPUコア最大クロック:4.1GHz(基準)
 CPUパッケージ最大温度:100℃(基準)
 スロットリング有無:サーマルスロットリング

レンダリング開始直後からサーマルスロットリング(CPUパッケージ最大温度を100℃以下に制限)により、ターボブースト時のTDPは105~108Wでした。つまり、120Wに設定しても、冷却力不足からそのワット数では動作できないことが分かります。

 そこで、ターボブースト時最大TDPを108Wに設定してみました。

 レンダリング時間:170.5秒(+0.1%未満)
 CPUコア最大クロック:4.1GHz(±0%)
 CPUパッケージ最大温度:99℃(-1℃)
 スロットリング有無:無

案の上、レンダリング時間は最大TDP120Wの場合と実質的に変わりませんでした。これはCPUコア最大クロックが変わっていないので妥当な結果でしょう。CPUパッケージ温度がぎりぎり100℃に達しないので、サーマルスロットリングは発生しませんでした。

 ターボブースト時最大TDPを70Wまで下げると・・・

 レンダリング時間:192.6秒(+12.9%)
 CPUコア最大クロック:3.6GHz(-12.2%)
 CPUパッケージ最大温度:85℃(-15℃)
 スロットリング有無:無

やはりほぼ1コア分(~12.5%)の計算パワーを棄てた形になりました。CPUコア最大クロックの低下幅とレンダリング時間の伸び幅とが良く一致しています。最後にターボブースト時最大TDPを100Wにしてみました。なお、100Wという数値自体には、「108Wより低い切りの良い値」以外の意味はありません。

 レンダリング時間:175.1秒(+2.7%)
 CPUコア最大クロック:4.0GHz(-2.6%)
 CPUパッケージ最大温度:98℃(-2℃)
 スロットリング有無:無

当然のように、CPUコア最大クロックの低下幅とレンダリング時間の伸び幅の一致は良好です。

 今回の追加のテストで、新たに分かったことがありました。現行のCPUクーラーでは、ターボブースト時の最大TDPとして108Wを超える値を設定することに意味が無いと言うことです。サーマルスロットリングによって最大TDPが108Wを超えることが無いからですね。逆に最大TDPを108Wと下げても、全コア/スレッドの100%負荷時のマルチコア計算能力の低下は120Wに対して実質的にありません。

 なんともはや、少なくともこのモデルではDellやっちまったなぁ・・・って感じですね。と言うか、今時はそういう設計が一般的なかなぁ・・・。

 Dellは電源がかつかつだとか後から手を入れにくい製品を出しますが、IFやメモリ規格などは最新のものを一早く、リーズナブルな価格で取り入れる面もあります。そのため、高価格帯製品(と言っても、20万円ぐらいの構成をベースにメモリを増設したりグラボのランクを上げたりして、セール時に18万円ぐらいで買う感じ、要はXPSの最上級モデルかその手前のモデル構成に手を入れたもの)を選んで買っておけば、そのまま4~5年は普段使いには十分性能的に通用したりしてきました。ただIntel i7-10700や11700などの発熱は、従来の製品設計の流儀ではいなせなかったみたいですね。

 カタログスペックでのIntel i7-10700のターボブースト時クロックは4.8GHz、一方出荷時の構成では冷却力不足によるサーマルスロットリングでターボブースト時クロックは4.1GHzまで低減、更に現在の私の設定では3.6GHzまで下げています。性能がクロックに比例すると仮定すると、出荷時で既に17%程度のCPUパワーが活用できていないことになります。私の現行設定では-25%程度、実に3/4程度のCPUパワーしか使えないことになります。

 ただし私の現行設定であっても、CPUをフルパワーで動かす場合以外でのCPUパワーのロスは限定的です。先行するエントリで触れたように、単一のコアやスレッドのみが高パワーを出すような場合・・・普段使いでの条件はたいていこちら・・・では、該当するコアは4.1GHzやそれ以上で駆動できるため、この場合のロスは17%以下どころか実用上はほぼ0と見做せる場合も多いようです。

 例えばDAWであるCubase Pro 11使用時には、特定のスレッドやコアに負荷が連続集中しないようにCPUが制御されています。その結果、DAW上のCPU負荷表示が50%程度のプロジェクトで楽曲を再生しても、各コアの温度上昇が抑えられているので、最大クロックは4.6GHzを余裕で維持します(=最大TDP70W設定でもサーマルスロットリングは作動しない)。

 また最大TDPが70WでのCPU冷却ファン音だったら、ターボブースト動作時でも既存の吸音材を張り付けた段ボール紙を寝具とPCの間に置くだけで問題無く寝られそうです。ダイソンの送風ファンの方が五月蠅いぐらいなんですよ。つまり私が寝ている間もPCにきっちり働いてもらうことができます。3DCGでアニメーションを作ろうとしたら、レンダリングに時間をかけなければなりませんからね、夜間の時間が使えるとなれば実はダウンクロックは良いコトづくし?要はアウトプット完了までの効率が最重要で、時間は失われることしかないやっかいなコストですから。

2021/06/17

メインPC、CPUのダウンクロック(その2)

 先行するエントリで、Intel i7-10700を搭載したメインPCのCPUをダウンクロックしたことについて述べた。 全力動作時にCPUパッケージ温度が100℃に達することを嫌い、TDP最大値を120Wから80Wに下げたのだ。そもそもの原因はCPUクーラーの冷却能力不足なので対処療法に過ぎないのは悲しいことだが、最大パワーを約10%捨てる(最大クロック4.1GHz→3.6~3.7GHz)ことで、CPUパッケージの最大温度を90℃以下とし、CPU冷却ファン作動音の1ランクの低下を得た。

 が、その後更にTDP最大値を70Wまで下げることにした。これはIntel i7-4790を搭載した先代のメインPCではパッケージ温度が85℃を越えなかった結果を受け、CPUパッケージの最大温度ターゲットを85℃以下に見直したことによる。結果、最大クロックは3.5GHzとなって更に4%弱パワーを捨てたことになるが、全力動作時のCPU冷却ファン作動音は更に低下した。Cinebench R23(マルチコア9296)を信じるなら、それでもマルチコア性能はIntel i9 9880H(マルチコア9087)を超える。

 まぁ全力動作時のパワーとして、ついに1コア分を捨てたことになった。

 アプリによっては使用スレッド数やコア数を制限できるものもある。しかしCPU温度制限によるサーマルスロットリングで最大パワーが決まる今回の状況下では、アプリで使用コア数やスレッド数を減らすよりも各々のコアのパワーを若干削ってでも全コア或いは全スレッドを使った方がより大きなパワーを確保できる。同時にCPU温度も下げられるし、PCの静音化もできる。

 あと用途によって大事なことは、これらのクロックダウンはTDP制限を下げた結果に過ぎないことだ。これは、TDP制限やデフォルトのCPU温度制限(100℃以下)に引っかからない場合、コア単体の最大能力は下がらないということを意味する。Cinebench R23のシングルコア性能測定時は、次々と使用するコアを切り替えながら常に単一のコアしか全力では動作させない。このようなコアの使い方をした場合、CPUパッケージのTDPはせいぜい40W程度だし、パッケージ温度も80℃すら越えない。換言すればスロットリングは一切行われない。結果としてベンチマーク中のコアクロックは4.6~4.7GHzに維持され、ベンチマークスコア(1230前後)も基本的にTDP制限が120Wでも70Wでも変わらない。MS比は7.5だったので、現行設定では0.5コア分のパワーを捨てていると評価されたような感じだ。

 ただマルチコア/スレッドとシングルコア/スレッドとにおける単一コア/スレッドの計算パワーの関係は、単一コア/スレッドに割り当てられる計算量(所謂、粒度)や同時に使うコア/スレッドの総数、更に各種レイテンシによって変わるので単純ではない。この辺りの機微は、12~15年間に並列科学技術計算に関わった経験がある人には良く分かるのではないかと思う。

 以下雑談。

 当時の議論対象は、①そこそこの大きさのメモリと高速なCPUを組み合わせたものを多数並列化したシステム(分散メモリシステム)と、②大きな単一のメモリにそこそこの計算速度のCPUを可能な限り多数接続したシステム(共有メモリシステム)の2つのシステムの利点・欠点だったものだが、もはやこの種の議論に意味は無くなっている。①はPCクラスターを経て、②はGPGPUとニーズに合わせて並列共存する形で、計算機技術としてはともにクラウドコンピューティングに収れんしてしまった。計算速度特化と言う意味でスパコンは未だ特殊だが、傍目からの素人目線では、とにかくデータ転送・通信のレイテンシの低減、隠ぺい(物理的には分散メモリだが、動作は限りなく共有メモリに近くする)にコストがかけられる最後の技術分野と言ったところだろう。クラウドコンピューティングではレイテンシ低減の代わりに闘いは数だよ兄貴!数にコストをかけ、併せて冗長性も確保する。 

 なお①はDAWや3DCGIのモデリング向け、②は3DCGIやあらゆるコンポジット(合成)プロセスのレンダリング向けだ。動画エンコーディングは②のほぼ最終のプロセスに当たる。

 爺さんになりつつ身の私から見ると、今のPCは色んな意味で①と②のキメラになってしまった。マルチコアCPUを搭載したシステム概念として既に①と②のキメラであり、グラフィックス機能のCPUへの内蔵は物理的にも①への②の内蔵だ(Intelのララビー・アーキテクチャを覚えている人はいるかな?)。グラフィックボードの導入は①+②のシステムの具体的な実装であり、①と②のどちらを選ぶべきかと言ったかつての真面目な議論をあざ笑うかのような状況以外の何物でもない。DAWやCGI、そしてグラフィックリッチだったり最善手を常に追い続けるような対戦ゲームのためのハードウェアだ。だから現在のPCはとても「皆のもの」と呼ばれるものではなくなった。だからPCを使えない、触ったことが無い若者が居るなんて話を聞いても驚かない。要らん人には要らんでしょ、こんなもん。だからと言ってChromebookはセンス無さすぎでしょ。

2021/06/16

電話世論調査会社、ついに「番号非通知」で呼び出しを始める

 約1年前に生活に関わるとある手続きをした直後から、迷惑なメールや電話が突然増えた。迷惑メールに至っては、それまで2~3件/日のところが一時的に150件以上/日にもなった・・・ん?Amazonの会員更新に失敗?その本屋使ったのは20世紀が最後やぞ。手続きと言うのは別段変なものではない。既に口座を持っている銀行の個人情報に、新たに携帯電話番号を追加登録するレベルの些細なものだ。

 ちなみに私が契約しているプロバイダではかなりの数のメールアドレスが無料で使えるので、この種の手続きには専用のメールアドレスを用意して使うことがある。この方法の利点は、①少なくとも迷惑メールが増えた原因、つまりメールアドレスの漏洩がどの手続きの結果で起きたかが確実に特定できる、②そのメールアドレスを破棄すればそのアドレス宛ての迷惑メールはもう来ない、といったところだ。①は漏洩した具体的な情報の推定に重要だ。

 で、迷惑メールや電話は3ヵ月ほどでほぼピタッと無くなったのだが、未だに迷惑な電話で残っているものがある。合成音声を使った世論調査と言うやつだ。とにかく設問の日本語がどうとでも解釈できるものであるため、答えようがない。答えたくても答えられない。正しい或いは適切な調査結果は、正しい或いは適切な質問と正しい或いは適切な選択肢との組み合わせからしか得られない、最初の設問を聞いた瞬間に調査自体の意味の有無が十分に判断できる内容のお粗末さはお寒い限りだ。

 こう言っては申し訳ないかも知れないが、電話世論調査なんてのは「何を生み出すのか」と言う観点からは虚業スレスレだ。そして、合成音声による低コストが売りとの謳い文句の裏返しは、極力人を雇っていないと言うことだ。世論調査の設問や回答を作るAIを誰かが作るまでも無く、アレクサやコルタナ、或いは彼らの後裔たちがユーザーと雑談を始めるようになれば、現在はかろうじて世論調査とやらで収入を得ている人々の収入源も絶たれ、世論調査自体が完全に虚業化してしまうだろう。

 世論調査会社の無くなった世界はローウェル的ではないかだって?現在を「ローウェル的ではないことを装ったローウェル的世界の賭場口に居る」と見做す私からは、世論調査会社の無くなった世界を一概に良いとは見做せないものの、より良い世界を我々自身が手繰り寄せたり作り上げたりできる「可能性」は増した世界になるのではとしか今は言えない。マスコミの発表する世論調査の調査母数は小さく、年齢層や回答者の思想に片寄りがあり、発表される数値が結局鉛筆を舐めた結果でひずんでいることを、私達はもう疑っていない。

 マスコミが発表する世論調査とやらの内容や結果も頭をかしげるものが多いが、 調査自体がこんな調子では察するところもある。頻繁に調査電話がかかってくるあたり、調査対象の選定過程にも疑義が生まれる。ランダムな選定でこんな高頻度は有り得ない。固定電話も含めて電話番号は電話帳含めて一切公開したことが無いから、そもそもどういう経緯で調査対象の選択肢に含まれるようになったかも怪しい。特に固定電話の番号は寮生活時に入った部屋の外線番号を引継いだものなので、私が使用する以前にも電話帳などに掲載された可能性は全く無い。企業の社内内線電話に紐づけられた外線番号が電話帳に掲載された筈が無いからだ。20年以上使ってきた電話番号だが、1年程前から突然ランダムに選ばれる調査対象に頻繁に選ばれるようになった、と言う状況自体はもはや奇跡を超えたファンタジーだ。ならば日々懸命に現実を生きる、もはやファンタジーを必要としなくなった一個人としては、そんなもの最初から相手にしなければならない道理が無い。そこに現実として存在する路傍の石の生まれから現在の位置に至るまでの経緯に思いを馳せることの方が、よっぽど意味があると言い切ってしまおう。

 別エントリに書いたことがある筈だが、職業柄とうつ病罹患の経験から私は非論理性や非合理性に極めて敏感でほぼ確実に拒絶反応が出る。とある人に言わせると表情が一瞬で無くなるそうだ。やはりうつ病の経験がある同僚の一人は、目だけが笑っていないなんとも微妙な表情になり、語気が急に強くなる。一見攻撃的になったように見えるが、実際は緊張と自己防御のための反応であろうと同じ病気をやった私は想像する。うつ病の原因として度重なる他者からの非合理的な要求が挙げられる場合、そうなってしまうのは当然とも思う。自分は自分でしか守れない。心の伴わない「忙しいところ申し訳ありません」という合成音声による言葉を最後まで聞くまでも無く、私は電話を切らざるを得ない。それに続く非論理的、非合理的で、時に背後にある筈の知性の存在を疑わせるような言葉の羅列から、私は私を守らんければならない。

 古いSFファンなら分かると思うが、人工知能やアンドロイドが開口一番に「まことにすみません」とか「申し訳ありません」と口にしたりそれらの言葉を繰り返すと言う小説内や映画内の描写は、かつては定番のギャグだった。だからそこを論理的に外してきたHAL9000の描写は、基本不気味で時に酷く恐ろしい。

 閑話休題。

 最初の調査の電話は固定電話にかかってきた。恐らく在宅時間を狙ったものだろうが、休日の昼食前、夕食前の時間にしぶとくかかってくる。休日の食事は基本的に自分で作るので、ちょうど火を使っている時間になる。慌てて一時的な火の始末をして出た電話がこれではがっくりする。できあがった食事も、途中でいったん火を止めたせいで食感がイマイチになることもある。このため、この時間の固定電話には出なくなった。そもそも生活上必要な電話連絡は携帯電話をデフォルトにして久しく、特に親しい人には「固定電話には基本出ない」と伝えてある。実際、10年近く電話がかかってきたことはなかった。

 半年ほど経って、ついに固定電話ではなく携帯電話にかかり始めた。偶然とは恐ろしい(棒、固定電話が調査対象から外れたタイミングで携帯電話が調査対象となった。なお携帯電話の番号は各種の契約に関わる事案以外では完全非公開で、間違い電話を除くと取得して20年以上にわたって面識の無い人間から電話がかかってきたことは無い。かかってくる時間は平日20時台とかで、帰宅途中や直後だったり、今からくつろごうかとか考え始める時間だ。通知される電話番号は複数有り、インターネット上の口コミ情報や調査を実施している会社のウェブページも参考に一つ一つ着信拒否を設定していった。そして今日、ついに「番号非通知」でいつもの合成音声の電話がかかって来た。

 「番号非通知」なら出なければ良い、と言う考えは正しいと思う。リスク管理の観点から、今時「番号非通知の電話に出てもらおう」などと言う考えは甘い。ただ親戚などに古い固定電話しか使っていない高齢者も居るため、「番号非通知」だからと言って無下にはできない事情がある。つい昨日までは、「番号非通知」の電話こそ重要用件の可能性が高い電話だったのだ。全くもって迷惑千万な状態の出来と言える。

 携帯への「番号非通知」の呼び出しにはとにかく出るけど、いつもの合成音声が聞こえれば即切る、そんなことが暫く続くかも知れない。これ。迷惑防止条例とかの対象にならないの?

 あと、これは明言しておく。正しい或いは適切な質問と正しい或いは適切な選択肢との組み合わせを提供するなら、電話世論調査だからと言って無下な対応はしないよ。

2021/06/15

メインPC、CPUのダウンクロック

  ここ10年程は何も考えずDell社の特定の製品、価格のPCを乗り換えて来た。安く買えるタイミングを狙って購入してきたし、幸いにか外れと思った製品に当たることも無かった。現在のメインPCは昨年秋に購入した2020年前期型で、CPUはコアシリーズ第10世代のIntel i7-10700(8C16T@2.91GHz)だ。先代機よりケースが2周りぐらい小さくなったのにちょっと驚かされたが、まぁ、改造する事もあるまいと思ってそこはその時は流した。如何にも安そうなケースの高級感の喪失具合もちょっと凄いが同様に流した。

 事はYoutubeでとあるジャンク系PC動画を観たことで始まった。動画は第11世代のIntel i7-11700のベンチマークに関するものだったのだが、Cinebench R20実行時にコアパッケージ温度があっさりと100℃に達してしまったことに驚いた。原因は明らかに空冷CPUクーラーの冷却能力不足で、動画主さんは直ぐにクーラーを簡易水冷型に変更していた。

 翻って、私のメインPCはどうだったか。購入直後に一通りのベンチマークは実行していたが、CPU温度は気にしていなかった。早速Open Hardware Monitorを立ち上げ、改めてCinebench R23を実行したところ、なんとベンチ開始からものの2秒も経たずにCPUパッケージ温度が98~100℃をウロチョロし始めた。クロックもいったん4.6GHz程度まで上昇するが、サーマルスロットリング(CPUコアやパッケージの温度制限)で直ぐに4.1GHzまで下がることが分かった。ちなみにCinebench R23のマルチコア時のスコアは10591だった。

 さて、現実問題としてCPUを全力で動かすシチュエーションは限られる。しかし、DAWにしても3DCGIにしても、いったん高いCPU負荷が必要な作業に入るとその状態を維持する時間は長くなりがちだ。この種のニーズは動画のエンコードが典型的だが、私の場合はエンコードする動画が短かかったり、負荷の多くをGPU(nVIDIA RTX 2070 Super)等に分散しているので余り気にならない。さりとてCPUコアやパッケージが長時間100℃近くに維持されるのはやはり気持ち悪い、っつーかかなりマズいのではないかい?

 なおサブPCである先代機(Intel i7-4790, 4C8T、2014年ごろのハズウェル・リフレッシュ世代)のパッケージ温度は外気温26℃に対してCinebench R23マルチコア計測時ですら85℃は越えず、サーマルスロットリングもTDPスロットリングも発生しなかった。つまり、絶対性能はともかく、CPUの性能が100%発揮されていることになる。CPUパワーはメインPCのそれの40%程度ともはや高いとは言えないが、メモリは32GB、nVIDIA GTX 1070カードも積んでいるので、この辺りの特長を生かした利用方法を検討中だ。ただ最大出力時のファン音はCPU、GPUともに正直かなり五月蠅い。

 さて、

ここはクーラーの変更が王道だし、せめてグリスぐらいは塗りなおしたら?、と言う意見には全く異論はない。が、正直今は金銭的やらなんやらと辛い。PCのケース寸法も電源の余裕も小さい。なのでIntelからExtreme Turing Utilityをダウンロードし、当面はこのユーティリティ上からの設定変更で逃げることとした。目標はコア及びパッケージ温度を90℃以下に維持すること。ただし90℃と言う数字にはお気持ち以上の意味は無い。ちなみにアイドル時のCPUパッケージ温度は外気温26℃時に47~50℃とやや高めだ。

 上述したように、従来のクーラーとCPUのデフォルト設定との組み合わせでは、サーマルスロットリングにより高負荷時のクロックは4.1GHz程度が上限だ。短時間ブーストもサーマルスロットリングによって効果はスポイルされる。つまりターボブーストによる能力向上は割と早い段階でつっかえている。別の言い方をするとCPUの力を発揮できない酷い実装状況だとなるのだが、この点には頓着しないと割切るしかない。真冬のフィンランドの野外ならきっとつっかえない。CPU設定の変更方針は簡単、①短時間ブーストは無効化、②CPUパッケージの最大TDPをパッケージ温度の最大値が90℃以下となるまで下げる、だ。動作クロックの最大値はTDPスロットリングで決まる出来高とすることになる。

 そんなこんなで、設定変更は最大TDPの80W(デフォルト値120W)への低減とした。最大クロックは3.7GHz(従来サーマルスロットリング時4.1GHz)と10%程度ダウンし、CPUコア及びパッケージの最大温度は86~90℃となった。暫くはこの設定で運用していく予定だ。なお、Cinebench R23のマルチコア時のスコアは9530(対従来比-10.1%)と、予想通りと言うかクロック数低下にほぼ相当する低下となった。あと何かするならば、最大負荷時のファン動作音の大きさが1ランク下がったので、現行の最大負荷時のファン回転数を上げることぐらいだろうか、でもそもそも現環境でそれできるんかね?能力-10%だけど1ランク静か、と言うのも正直悪くはないのだが。

 やっぱり低TDPは大事、それは最大性能に転嫁可能だからね。

メモ:台山(タイシャン)原子力発電所の環境放出放射能の増大

[追記:6/15 12:15]キセノン(Xe)検出の話をまた聞き。原子炉の運転で燃料内で生成される放射性物質なので、少なくとも燃料ピンはアウトの可能性が拡大。原子炉の運転時に生成・蓄積され、原子炉の再起動の邪魔をする特性を持つ状態もあるため、放射性/非放射性キセノン量と半減期から生成時期も推定できるぐらいの知見がある物質。ここまで来ると5chにも「ちゃんとした知」が集まってくるでしょう。[追記ここまで]

 中華人民共和国の台山(タイシャン)原子力発電所の環境への放出放射能の増大に関する5chまとめ記事を読んでいて、発言に誤りと言うか勘違いというかが結構多かったので、CNNの報道などを元に私なりのメモをざっと作ることにした。

 まず大枠の流れ。下記内容の時期は5/30ごろから6/8が主。何が問題かって、明らかに異常が起きているのに、「異常かどうかを判定する基準を動かし続ける」ことで中華人民共和国なのか中国共産党なのか知らないが「異常ではない」と主張し続け、原子炉の運転を続けていること。基準を動かすとは、まるで韓国ではないか。なお、放出され続けているガス状放射性物質の量は、これら原子炉の許認可~運転に関わっているフランスの国内基準に従えば既に運転停止必須レベルを超えている模様。余りの状況にフランスはアメリカに助力を乞うているが、バイデン政権が余りに楽観的なのは解せぬ。うっかりことが起きたら、議会と違って親中色が依然抜けないバイデン政権も返り血浴びるぜ。

  • 台山発電所のサイト外(≒発電所の敷地の外)放射線量が上昇し始めたが、中華人民共和国の原子炉規制機関が原子炉の運転停止などの基準とする「サイト外放射線量の上限値を徐々に上げ続ける」ことで、原子炉の運転を(ある意味無理やりに)継続中。
  •  サイト外放射線量の上昇の原因は、原子炉一次系(原子炉から熱を奪い、タービンを回すための蒸気を発生させる熱交換器に熱を渡す水の循環系統)から原子炉運転中に回収、周辺環境に適宜放出している希ガス内の放射性物質の増加によるものと推定(=まず疑うべき、常識的な推定)。
  • 「サイト外放射性濃度の上限値」がフランス国内基準の原子炉停止レベルを明らかに超えたため、運転に関わるフランス企業体がフランス政府に連絡。フランスにとってはいわば「想定外の未知の状況」でもあったため、フランス政府及び企業体はアメリカ政府及び原子力規制機関に協力を要請した。フランスは、スリーマイル島原子力発電所事故相当の状況を想定しているのではないかと個人的に邪推する。このメモの作成時点で、バイデン政権は「crisis level(危機的レベル)ではない」との姿勢示し、これを維持中。
  • 希ガスへの放射性物質の混入の原因として、燃料ピン(燃料棒とも。より厳密には燃料被覆管と呼ばれる筒状の部品)の破損の可能性が挙げられている(=まず疑うべき、常識的な判断)。希ガスは燃料核反応で発生するため、燃料ピン内にはバッファなどと呼ばれる空間をあらかじめ設け、燃料ピン内で発した希ガスを貯めておけるよう設計が為される。燃料ピンの破損原因としては、燃料ピン又は燃料ピンと接する部品の振動による摩耗や、運転操作ミスなどにより原子炉内の一部燃料ピンが短時間で高出力、高温となったことによる燃料ピンの変形破損がまず考えられる。摩耗による損傷は、実績の無い最新設計の燃料集合体(燃料ピンを束ねたもの。束ねる燃料ピンの数の上限を決める要因は色々あるが、例えば原子炉の燃料集合体交換用クレーンで吊り下げられる重量以下でなければないないのは明らか)を使っての運転や、設計の異なる複数種の燃料集合体が混在しての運転で起きがちである。最新設計の原子炉であるEPRの燃料はまだ前者の域を完全には脱してはおらず(2年程度?燃料交換サイクルもまだ2サイクル目か?)、現運転サイクルではフランス企業が設計、製造した燃料集合体と(前のめり気味な)中華人民共和国企業が設計、製造した燃料集合体が原子炉内で混在している可能性も有る。なお、EPR用の燃料ピンは従来のフランス原子炉(N2)用の燃料ピンよりも若干長い。

 台山(タイシャン)発電所の概要。

  • 台山原子力発電所は2基のフランス製最新型原子炉(EPR=Evolutionary Power Reactor)を有し、2基とも運転中。海に面した南部の広東省に位置し、北緯は台湾島の南端からやや南。香港は広東省を代表する都市。
  • EPRはフィンランドのオルキルオト、フランスのフラマンヴィルにも建設されたが、台山1号が世界で最初に運転開始したEPR。
  • EPRは二重格納容器を持ち、事故時でも原子炉内の放射性物質をより放出しにくい設計となっている。が、今回問題となっている原子炉一次系からの希ガスの放出は日常的に実施するものであるため、結果的に格納容器などをバイパス。ただし、固体や大きな放射性物質の気体分子の環境への放出を防ぐフィルターは一般的に設置(希ガスはそもそも直径が小さく、フィルターでは除去できない)。
  • 台山原子力発電所は許認可、建設、運転をフランス企業と中華人民共和国企業との合弁企業体が担っており、出資比率は概略フランス企業30%、中華人民共和国企業が70%。
  • 2号機は最近オーバーホール、大規模整備をした旨の発表が中華人民共和国の運転企業体からあったが、オーバーホールの理由、内容は未発表で完全に不明。 

 5chまとめを眺めながら思ったこと。

  • 「臨界」や「再臨界」の意味を理解せず、或いは完全に誤解したまま使い、誤った知識や状況の理解の拡大再生産が若干起こっている。原子炉運転中とは「臨界状態を維持している」ことと等価だから、「臨界になると吹っ飛ぶ」とか「再臨界になると危ない」と言った言説が意味を持つには、あと2段階ぐらいの事故レベルの事象進展が必要。
    ただ、燃料ピン破損の原因が「制御棒誤引き抜き」と呼ばれる事故相当の操作ミスである場合は、過去形として「臨界になると吹っ飛ぶ」とか「再臨界になると危ない」は正確ではないけれど当たらずと言えども遠からずとは言える。原子炉停止(未臨界)の状態から、原子炉の制御棒が抜かれた部分だけは臨界になり得るからだ。
  • 「再臨界!」と騒ぐのは水素濃度の上昇まで待て。水素濃度の上昇は燃料ピンなどの原子炉内金属類の酸化、溶融の可能性を強く示すサインだ。
  • フランス側から「燃料被覆管の劣化」の可能性の見解が出たとの報道があるが、ここで「劣化」は英語の"degradation"の訳だ。"degradation"の意味は広く、燃料被覆管などの溶融による「崩落」にも実は使われる。仏語→英語も直接翻訳は無理なので、仏文情報にさかのぼるべきなのかも知れない。なお炉心溶融が発生して燃料を含む溶融金属が所謂メルトダウン中の状況は、"relocation"(≒位置変更)と表現されることが多い。

2021/06/14

YAMAHA HPH-MT8ヘッドフォン、視聴できず

 本日は月一の都内への通院。帰りの特急列車まで時間があったので、特急に乗る駅から2駅ほど移動して大手電機量販店へ。目的はとある経緯で知ったYAMAHA  HPH-MT8ヘッドフォンの視聴だ。

 商品の在庫が切れていても視聴用ヘッドフォンは置いてある店なので、視聴できない事態は全く想定していなかった。しかも上京時に携帯しているiPod touchには、こういうこともあろうかとヘッドフォン視聴専用プレイリストも入れてある。うっかり「これスゲーっ!」てなっても何とかなるだけの持ち合わせもある。

 結論から書こう。エントリタイトルの如く、視聴は叶わなかった。

 YAMAHA  HPH-MT5、MT7と視聴用機を辿っていったのだが、それらの隣にはMT8の視聴用機も商品ラベルも在庫カードも無かった。しかもポッカリと1商品分の空間が空いている。辺りを見回したが同様に空いている空間は無く。ちょっと不自然な感じだった。

 モデル数が多かったり専用スペースを確保していないメーカーの視聴用機は1ヶ所に固まって置かれていない可能性もあるので、視聴スペース全体を2、3周回ってみた。が、やはりHPH-MT8は見つからなかった。店員さんに聞いてみる、というのが筋なのだが、ピュアに視聴目的だったので今回はパスした。購入する気満々なら話は全く違う、またの機会を期待しよう。結局どの機器も視聴せずに店を後にしたのだが、今はMT8にしかホントに興味が無いんだよね。

 あと全くの別件なのだが、現在メインで使っているSennheiser HD599はフルオープン型だったのね。セミオープンかと勝手に思ってました。耳は楽なんだけど、周囲ノイズ入りまくりだし音漏れまくりなのは確か。

2021/06/08

AKは頑丈だぞ

 Kalashnikov Group(カラシニコフ・グループ)のYoutubeチャンネルで公開されているシリーズ動画、Gun Busters (Разрушители оружия)がYouTubeからレコメンドされた。Iraqveteran8888さんのULTIMATE MELTDOWN!シリーズ同様、銃が壊れたり動作しなくなるまでフルオートでひたすら撃ちまくる動画だ。

 観れば分かるが自社製品が対象でも内容は結構ガチ。樹脂部品が解けて融合しても、それが燃えながらぼろぼろと剥がれ落ちようとも撃ち続ける。コッキングレバーが動かなければ地面や机に叩きつけてでも無理やり動かす。「摂氏700度だね」とかさらっと言われてもねぇ。あ、PPShでもやってるよ。

実験計測屋の考えるヘッドフォンの原音再現性に関するうんたらかんたら

 本題は「さて、」以降です。初老者の独り語りなんか読みたくない人は「さて、」まで飛んでね。

 私はサラリーマン実験屋で、一時期水中の圧力変化測定を良くやっていた。背圧は大気圧から100気圧近く、取得しないといけない圧力振動の周波数範囲は数Hz~10kHzと広かった。ちなみに高圧用の検出器の価格は私の年収並みに高い・・・つまり実験も測定も失敗できない。敢えて測定結果に値段をつけようとするとかなりの額になるが、他社が持たないデータの取得は自社の競争力の源泉ともなるので一種の投資と見做される。許認可が絡む事項ならば、ワクチンの治験データに相当すると思ってもらって良い。データが無ければ認可が必要な市場には参入すらできない。

 私の属する企業の風土のひとつに「一人一芸」がある。これは予算の流れから見た場合の企業構造、「自分が一番働く社長+社員1名の中小企業の集まりみたいな組織」において自分が喰いっぱぐれない、干されないための差別戦略だ。信号処理に関わる知識の取得や実践、実装と実績や技術レベルのアピールは、文字通り「生活のため」な訳だ。このような文化下において、技術上の嘘、誤魔化し、実際を超えるアピールが発覚した際のダメージは深刻だ。厳しい文化とも言えるが、個人的には極めて公正な文化でもある点を強調したい。そして、ここは日本的としか言いようがないのだが、上記のダメージに対して浪花節がセーフティネット的に作動するため、当人が状況を正しく認識して適切に振る舞う限りにおいては職場の雰囲気は全く悪くならない。

 この文化、30年単位で見ると様々な制度変更を経て壊れかけては再興するを繰り返してきたが、そろそろ限界かもしれないとも思う。それは職場に百花繚乱の如く存在する「一芸」の源泉に「詰め込み教育」を見るからだ。新しい体験にあたって「あ~昔なんか聞いたことがある、やったことがある」といったフックは、それらを与えられたり、自ら得るような行動をしてきた人間の中にしか存在しない。実感としてあるのは、この種のフックの少なさは「ゆとり世代」に顕著であることだ。更に踏み込むと、フックをほぼ持たない者とそれでも従来世代並みにフックを持つ者とからそれぞれ構成されるクラス(階級)が実は形成されていて、両クラス間でのコミュニケーションは成立しないので完全に隔絶状態にある、と見ゆる。100%近い与えられたフックが使われないことの方が多かろうから確かに効率は悪いだろうが、「詰め込み教育」は「子供の将来の可能性を狭める方向には作用しない」までは言って良いと思う・・・って何の話してんのか。

 さて、

検出器だけでなく測定に関わる全ての機器の入力信号/出力信号の時間変化は相対的であっても一致しない。信号波形は変形する。これはそれぞれの機器が「反応遅れ」を持っているためで、最終的な測定結果は「反応遅れ」を補正したものとなる。補正に必要な計算量は大したことないが、それぞれの機器の「反応遅れ」は個別に自分たちで測定しておくか、他者の測定結果を買うかする必要がある。

 補正はデータ収集後に実施し、フーリエ変換を用いて周波数領域で行う。周波数領域と言うと難しく感じるかもしれないが、横軸が周波数のグラフは周波数領域で表示していることになる。だから大抵のDAWユーザーは、イコライザー操作やスペクトル分布を見たりすることで、周波数空間とは日常的に接している筈だ。計算手順自体はデコンボリューションやコンボリューションなどと呼ばれる周波数領域での掛け算、割り算操作である。リバーブプラグインが使っていたりする計算操作なので、これらの言葉自体はやはりDAWを触っている人なら耳にしたこともあるのではないかと思う。これらの操作は上記したように計算量は少なく、加えてデジタル計算でも丸め誤差の範囲で理論解と一致する結果が得られる精度の高いものだ。

 ただし、信号波形を直接追うような時間領域では、この種の補正は簡単ではない。別の言い方をすると、この種の信号処理のリアルタイム処理を精度良く実行するにはコストがかかる。音響機器の値段と音質にどうしても関係が出てしまう原因の一つは、まさにここにあろう。

 つい最近、ネット上でヘッドフォンの音質や性能に関わるやり取りを人とする機会を得た。私は信号処理の経験からとある個人的な仮定について簡単に述べたが、DAWとか触る割にはオーディオ機器やその周囲の知識が絶望的に無く、かつそもそも興味が全く無いので、文章だけのやり取りだけで正直話が嚙み合ったかははなはだ心もとない結果となった。あらためて書いておこう。ヘッドフォン、スピーカー、アンプなどは音響信号をリアルタイム処理する機器だ。

 以下では、件のやり取り内容のうち、もしそうだったら嫌だなと思うヘッドフォンの再生特性についての内容のみ、模式図を付して簡単に説明しておこうと思う。真面目なところ、ドローソフトを使ったり技術寄りの文章を書いてみたりと、病気休暇からの復帰を睨んだリハビリ作業の意図が強いんだけどね。

 いきなり音が立ち上がる波形(例えば、矩形波の立ち上がり部)の原音信号として、その信号を音響機器で再生する場合を考える。ここで音響機器が原音信号をそのまま再現できれば皆が幸せなだが、リアルタイムで処理しないといけないためにそうは問屋が卸さない。

  一般論として、漠然と組んだ(機能要求だけを満たした)再生用回路(アンプ→スピーカー/ヘッドフォン)では、再生信号に「時間遅れ」が生じる。この状態を模式的に示しているのが図(a)だ。再生信号は原音信号の急激な変化に追従できず、まず立ち上がりで遅れ、水平となるタイミングも遅れるのでオーバーシュートも発生している。すぐに分かる人も多いと思うが、これは勾配がめちゃくちゃ大きいローパスフィルタを適用した状態と等価だ。高周波数が失われ、音の立ち上がりは悪くなる。そこで回路に手を入れる。部品は増え、部品ひとつひとつの質も値段も上がる。コスト制限があるような条件下で頑張って達成したい再生信号と原音信号との関係を図(b)に模式的に示す。立ち上がりでの遅れ、オーバーシュートともに小さくなっている。が、実際のところ、このような結果が得られる機器の実現には、マニアな方々の支払い能力に相当するコストが要求される。

 で、とある技術者は考える、「いや、音の立ち上がりの良い再生機器を安価に実現してみせる!」 と。私でも思いつく方法の一つは、特定の周波数以上の高周波数成分の原因を大きくするような帯域強調フィルタ回路を付加することだ。上述のように立ち上がりの遅れを引き起こす「時間遅れ」は、ローパスフィルタ適用と実質的に等価な結果を与える。だからローパスフィルタで失われたりゲインが減らされる周波数をプリかポストで補ってやれば良い、という寸法だ。結論から言うと、音の立ち上がりの問題は比較的簡単に解決できる。前提は、時間遅れはあるものの遅れ時間自体が安定した(周囲環境などに影響されない)回路が設計・製作できる一定レベル以上の技術力があることだ。対象の特性が不安定で変化しまくるでは補償なんてできる筈も無く、補償回路自体もやはり安定していなければならない。

  しかしコスト制限が厳しい(安い)場合、立ち上がりを良くすることと引き換えに捨てなければならないものがある。上述した「勾配がめちゃくちゃ大きいローパスフィルタ」の「めちゃくちゃ」は文字通りの意味であり、勾配は-∞(db)が理想だ。シンセのローパスフィルタは基本-12~-24(db)なので、コストを考えると-∞が如何に非現実的な勾配であるかが分かる。だが貧乏には変えられず、補正回路の帯域強調フィルタの勾配を-36(db)とかのレベルに抑えるとどうなるか。これは着目しているフィルタ周波数の付近で、ゲインを保たなければならない低周波数側でゲインが下がり、ゲインを0としなければならない高周波数側でゲインが0まで下げられないないことを意味する。結果として、原音信号の立ち上がり時などに高周波数のスパイクが多数現れる。このような再生信号と現信号との比較を図(c)に模式的に示す。スパイクはまさに理想と現実の差が可視化されたものなのだ。

 このようなスパイクはシンセの発振過程でも見られることのあるもので(例えば、本ブログ内手元のソフトシンセ、矩形波対決!)、シンセでkick音を作る際にはアタック成分として利用しない手は無い。

 音の立ち上がりが良いのは素晴らしいのだが、安さ故に図(c)の再生信号の如く明確なスパイクが現れるの音響製品に対しては、やっぱり頭を抱えてしまう。そういうものだ、と分かっている人間以外には何も良いところがない(≒何を期待してそれを買うのか?)からだ。 図(d)に模式的に示すように、所謂スパイク部分は「原音には無い足された音」になる。故に原音再現性の観点からは駄目駄目だ。

 もしこのような特性を与えられた「ヘッドフォン」が有ったとすれば、ここでは「そんなものは嫌い」と言っておこう。「原音に無い音を足して平気な姿勢」が一技術屋として受け入れられないのだ。スパイク音が付加された方が良い用途?があってその用途に使う分には良かろうが、そういうものなら単なる「ヘッドフォン」ではなく「○○専用ヘッドフォン」と区別を明確にすべきだ。「○○専用ヘッドフォン」ならば、専用用途以外の使用で問題が有ったってかまわない、と言うか問題が有って当たり前だ。単なる「ヘッドフォン」を求める客は、「○○専用ヘッドフォン」を購入候補から外すだろう。これで誰か不幸になる?

 実際問題としてスパイク発生は避けられないが程度問題でもあり、音の立ち上がりを多少捨てれば同価格でも低減可能だし、コストを積めば実質的に立ち上がりの良さとも両立できる。昔からある製品ならともかく、昨今の製品はデジタル処理部分も多い筈なので、未だにこの辺りが問題になるのもどうかとは思うのだが、なかなかに解決は難しいのか実装レベルの話は無知ゆえに分からない。ポストでの信号処理の知識だけからでは、考察レベルでもここら辺が限界だ。

 話は逸れるが、Sonarworks ReferenceやSoundID Referenceといったソフトウェアの登場で、少なくともヘッドフォンについては個別製品の周波数応答特性の違いの意味は失われつつある。ヘッドフォンメーカーが苦労して、自身のポリシーなり美学に基づいて実現した周波数応答特性を、例えば私のようなユーザーは、PC画面上を数クリックするだけで何の躊躇も無く別物に変えてしまう。ここで露になったのは、周波数特性を合わせても低価格製品の音は高価格製品のそれとは違うという単純な事実だ。ならば価格差に見合う価値は、周波数特定には宿っていないことなる。これは経験的に知っている人も多かろう。これが、本エントリで対象とした時間領域での信号応答特性が価格差による音の違いを説明できる因子(しかも本丸?)かもしれないと思う所以である。つまり、周波数応答特性、位相特性と既に来た以上、そろそろインパルス応答特性にも踏み込まざるを得ないだろうと考えているということだ。

 インパルス応答を利用したリバーブは既に多くのDAWの標準プラグインに含まれている。コンボリューションリバーブなどと呼ばれているものがそうだ。使える計算能力が上がれば、DAW或いはDAW周辺技術においてインパルス応答の適用範囲の拡大は必至だろう。デコンボリューション(コンボリューションの逆操作)の計算コストがリアルタイム処理で許容されるレベルになればDAWにもそれ以外の分野にも影響は大きいと考えている、と言うか私自身にすらアイディアが複数ある。

 宗教論争は嫌いなのでちょっと触れるだけにするが、PC用のスピーカーとして10年以上にわたり長さ25cm級のタイムドメインスピーカーを使っている。選択理由はインパルス応答特性の良さで、音量による音の変化が無く音の通りも良いし、左右分離も良い。配置に関して距離はちょっとシビアだが、省スペースで向きも自由だ。東日本大震災にも耐えた。ちなみに私は「タイムドメイン**」の**部分は「手法(テクニック、メソッドロジー)」だと考えている。PCモニターもそうだが、「0(ゼロ音量、PCモニターでは「完全な黒」を指す)」がちゃんと出る仕組みとなっているかは大事、インパルス応答特性も大事だ。 もちろん実装も大事で、駄目なタイムドメインスピーカーは本当にすべてが駄目だった。

 低~中価格製品でも「その辺」をいなすなり誤魔化すなりしつつ時にプラスアルファの魅力を製品に与えてきたのが「味付け」なのだが、そもそも押しつけを嫌うタイプの私のような人間が上記のソフトに触れれば、「味付け」の全否定から入ってしまうのは致し方ない。だが、全否定のための操作ノブを逆に回せば途端に「味付け」が露わになることも自明であり、特定の共通の比較対象を持ってヘッドフォン毎の「味付け」を文字通り味わえることも付け加えておく。

 あと、なんでフィルタの勾配でスパイクが出たり出なかったりするのか、という問題の説明は面倒くさいの割愛する。ただ、この問題は「フィルタの作り方」と表裏一帯の関係にあるので、デジタルフィルターの作り方やその考え方が(アナログフィルターよりも相対的に)分かり易くて参考になる。興味があれば「デジタルフィルター 次数」でググってみて欲しい。「窓(窓関数)」まで理解すれば、EQやスペクトル表示といった周波数領域の手法をどうやって時間領域内で取り使っているかも理解できる。「次数」がミソで、アナログオンリーだったかつてのハードウェアでのフィルター回路実装では部品の数を介して価格に直結したはずだ。

 最後におまけだが、 SoundID Reference for HeadphoneとSoundID for Listenerの組み合わせの登場は個人的に一線を越えてきた感がある。向かっている先は「再生機器や場所や時間を問わずに自分好みにカスタマイズした同じ音で聴きましょう」ってことですからね。私はiPodうち1台をSONY WH-1000XM3(Bluetooth接続)で聴いているが、周波数特性は自作のSennheiser HD599に似せたものにしてある。SONY WH-1000XM3の味付け(周波数応答特性)を全否定し、ノイズキャンセリング機能付きSennheiser HD599の感覚で使っている訳だ。レイテンシの発生は問題と言えば問題だが、音楽を聞くだけなら特に気にもならない。例えばワンチップ構成USB接続って感じでハードウェア実装されるようになったら、みんなでハックして特定のヘッドフォンを別のヘッドフォンで直接シミュレートするためのデータベースを構築しようぜ。

2021/06/05

偶然について、メモ

  昨日の日本から台湾へのアストラゼネカワクチンの無償提供については、そのタイミングに関して早くから「偶然」が指摘されていた。さすがの私も「6/4に直接空輸」のニュース記事を読んだ瞬間に日付の偶然には気づいた。まぁ、5chまとめ記事を横目にしつつ偶然の話、無理筋こじつけ上等、とにかく全てを説明してしまう最大公約数的説明例、ざっとまとめておこう。

COVID-19ワクチン航空輸送提供
JL809       (輸送に使われた航空機のコールサイン)
6月4日 午後2:40  (輸送機の台湾の空港への到着日時)

までが事実。

 恣意的に数字を取り出し、更に恣意的解釈を加えて先頭の数字列を年次とみなすと

19809年 6月4日 午後2時40分。

茂木外相の発言内容の行間には「(友情を踏まえたもので)礼には及ばず」が有るかもしれんので、不自然な年数の数字列中の「"0(零)"は不要」とすると、

1989年 6月4日 午後2時40分。

 ちなみに所謂「六四天安門事件」、ブリンケン米国務長官の言う「六四天安門虐殺」と呼ばれる事案において、当時の台湾の新聞が報じた中国人民解放軍部隊のデモ隊への発砲開始時間は

1989年 6月4日 午前2時40分。

スゲー偶然!と思わせておいて実は12時間ズレている。やはり偶然、ただの偶然。どうせやるなら徹底しろよ!「そうでしたっけ?ウフフ」では済まない大失敗だよ、意図的ならさ。

 と言う訳で、ワクチンの到着日時は「六四天安門虐殺」の発生日時とは無関係のようだ、無関係だね、ね!