前段の話は先行するエントリで。大まかに流れをまとめると、
- Intel Core i7-10700搭載のDell XPS 8940では、CPUパッケージ温度がすぐ100℃まで上がる。要はCPUクーラーの除熱性能が足らない。
- CPUパッケージ温度をを下げるために、ターボブースト時の最大CPU出力の設定を120Wから60Wまで下げた。連続・高負荷時のCPUパッケージ温度は85℃以下となったが、CPUのピーク性能は2割ほど下がった。
- CPUクーラー交換を検討して候補を絞り込んだが、「85℃でいいっしょ」と高をくくって暫く放置。連続・高負荷運転30時間など、長時間の85℃運転を10回程度繰り返した。
- Intelの技術文書を改めて丁寧に読むと、制限最高温度の一つであるケース温度はIntel Core i7-10700でも72℃前後であることが分かった。つまり「85℃運転はヤバい」。以前の検討に基づいて、CPUクーラーとしてID-COOLING SE-914-XTの導入を決心するに至った。ファン径92mmが決め手、120mmだともうミニタワーケースには収まらない。これが8/9の夜。
となる。
で、翌8/10は都内の病院への月一の通院日だったので、その帰りに秋葉原に寄った。「こんな時期になんだ」と言われそうだが、中途半端な田舎住まいには逃し難い機会だ。その規模故に密になりにくそうな大店舗を選び、ID-COOLING SE-914-XTとM3×20mmネジを購入して早々に帰宅した。
元々付いているCPUクーラーはネジ4本を緩めるだけであっさり取り外せた。かつて動画で観た「AMD CPUのすっぽん」の光景が頭をちらついてやや恐る恐るの作業となったが、ネジを緩める過程でネジ部のバネの力だけでCPUとは分離した(私がPCを盛んに自作、改良していた時代は、CPUクーラー無し~リテールクーラーで十分なころ。つまりCPUクーラーをCPUから外すのは生まれて初めて)。グリスは乾いておらず、接触面全体に広がっていたため、CPUクーラーの性能は十分に発揮できていたと思われる。CPUクーラー自体は、少し昔風の言い方をすると「リテール品よりもヒートシンクが厚いトップフロー型」とでも言えようか。埃の付着はファンの最先端部に僅かにある程度で、ヒートシンク内も綺麗だった。
SE-914-XTの取り付けについては特に述べないが、CPUクーラー固定用のステーとステーとマザーボード基盤との間に挟む樹脂製スペーサを固定するネジは、マザーボード基盤高さにあるネジ穴が全く見えない状態で、上から挿入して締めることになる。私の場合はネジの代わりにつまようじを使って仮組みし、つまようじを1本ずつ実際のネジに置き換えていく方法をとった。なお、CPUクーラーの交換はケースカバーを外しただけの状態で実施した。ただマザーボードのファン電源ピン周りは狭いので、既存のCPUクーラーを外した時点で新しいファンの電源ケーブルを接続しておくのが吉かと思う。
あ、何故ステー固定が面倒臭いのか、そもそもどうして別途購入のネジなんかで固定するのかについては先行するエントリ(その1)を参照されたい。これは附属品ではSE-914-XTがXPS 8940に取り付けられないというXPS 8940の構造が原因だ。更に言えば、今回の取り付け方法ではマザーボードをケースに組み込んだ状態での作業が必須となる。ステーはマザーボードではなく、マザーボードを半ば貫通している「ケースの一部」に固定するからだ。
さてID-COOLING SE-914-XTの性能だが、まず冷却力は私の想定には十分ミートした。良くも悪くもミニタワーケースに入るコンパクトな空冷クーラーである。以下、具体的なCPUパッケージ温度が表れるが、これらは全てCinebench R23のマルチコアテスト(10分)の終盤に得られた値だ。
まずはターボブースト時の最大出力を150Wに設定した場合のCinebench R23の結果だ。150WはSE-914-XTの最大対応TDPになる。
ベンチマークの数値自体は「あ、ふ~ん。それっぽい数値出てるね」ぐらいでの受け取り方で良い。このベンチの過程で得られた大事な知見は、CPUパッケージ温度は83℃とケース温度を超えたが、コアクロックは全て最大値の4.6GHzが維持されたことだ。つまり、CPUの計算能力としてのパワーが100%引き出せている。逆に、ターボブースト時の最大出力を150W超とすることに意味は無いことになる。
ターボブースト時の最大出力を出荷時設定の120Wとした場合はどうか。CPUパッケージ温度は72~74℃とケース温度付近、コアクロックは全て4.4GHzが維持された。コアクロックは最大値に及ばないものの、ケース温度の観点からはこの辺りがターボブースト時の最大出力設定の候補となる。が、さすがにファン音が大きい。ブーンという音が乗って、機械的な不具合発生の不安を感じる一歩手前ぐらいの感じの音だ。
続いて95W。この出力ならコアクロックが4.0GHz以上とできることが予測され、日常的に使えると嬉しい設定点だ。従来の60W設定時に対してコアクロックが+20%以上となる。CPUパッケージ温度は68℃でケース温度未満、コアクロックは4.0~4.1GHzと狙い通りだ。ファン音にブーンといった音が無くなり、如何にも高速回転中といったサーといった音だけになる。音量は8畳向けエアコンの低風量時よりやや大きいぐらいだが、ノイズ多めなので耳障りで隣で寝るのは無理っぽい。
60Wならファン音が認識できない静音状態で、アイドル時と変わらない。CPUパッケージ温度は63℃、コアクロックは3.5GHzで、旧CPUクーラーの84℃、3.3GHzとは本質的に違う。なお、アイドル時のCPUパッケージ温度は60℃台から40℃まで下がった。コアクロックの違いは自動制御されているコア電圧の違いを反映している。ファン音が聞こえ始めるは70W、「これは隣では眠れないかも」感が出始めるのが75Wだ。睡眠時も運転することを考えると70W、CPUパッケージ温度64℃、コアクロック3.7GHzでほぼ決まりだ。
まとめると、連続・全力運転を前提したターボブースト時最大出力は、睡眠時70W、日中不在時は95Wぐらいが良さそうだ。冬場は部屋を温めておいてくれるだろう。
SE-914-XTのファン回転数制御は、意地でもCPUパッケージ温度を70℃未満としたいかのようだ。ファン音が気になり始めるのが63~64℃、100W以下の広いCPU出力範囲でCPUパッケージ温度のブレの上限が68℃となる。これはIntel Coreのケース温度(ヒートスプレッダの許容温度)が72℃付近であることを考えると納得の設定だ。半面、CPUパッケージ温度が60℃前半の段階からファン回転数を上げ始めるので、静音運転に拘ると思っていたよりもCPU出力が上げにくくなっている。この辺りはこのサイズのケースに収まるコンパクトさとの兼ね合いというのが実態だろう。ただしケース温度制限を考えなくとも良い、という点は精神衛生上実に好ましい。また、CPUパッケージ温度が低くなれば電圧を上げやすくなるので、同じCPU出力でもコアクロックは僅かではあるが上がる。
で、別のまとめ方。
価格.comのレビューなど、他の人によるネット上の情報とも矛盾しないし、値(特にキーとなるCPUパッケージ温度68℃)の一致具合も高い。繰り返すけど、高回転時のファン音はノイズ混じりで、個人的にはやや不安感を煽るものだ。コンパクトさの代償だね。CPU出力70~80Wの範囲でCPUパッケージ温度の変化勾配が上がるが、その上昇はいったん68℃で止まる。つまり80~100Wの範囲内に、CPU出力に依存せずCPUパッケージ温度が68℃一定となる範囲がある。
なおBIOS/UEFIが既に第11世代Coreに対応しているので、実用性を担保しつつ最低でも一世代はCPUアップグレードできる見通しが立っている。が、現時点ではコストパフォーマンスが悪いからやらないけどね。
んん?高出力時のこの騒音は実はケースファンからかな?(続くかもしれん)
雑談。
今回のCPUクーラー交換の検討段階でCPUクーラーの性能比較や性能紹介動画を多数見た。が、CPU出力を「100%」としか紹介しないものが少なくなかったのが頭痛の種だった。私の観点だと、最高出力を20Wに設定すれば20W出力で100%だし、150Wに設定したら150W出力で100%だ。上のグラフの全ての点が「CPU出力100%におけるCPUパッケージ温度及びコアクロック」の測定結果になるのは明らかで、「100%」と言う表現は付加条件が無いと意味がない。
3DCGレンダリング時(≒実際の使用時)の負荷は、ターボブースト時のCPU出力設定に使っているIntel Extreme Tuning Utility(Intel XTU)のストレステストの負荷よりも明らかに大きいようだ。CPU出力が同じでも、XTUストレステスト時の方が CPUパッケージ温度は低い。より具体的には、XTUストレステストではCPUパッケージ温度が上下するが、3DCGレンダリングでは上限値に貼りつく。
ちょっと似た話で、DAWはCPUパワーを要求するため昔からCPU使用率表示が行われてきた。今でもそんな表示は残っているが、パワー要求(デマンド)に対して制限範囲内で計算能力が追従する昨今のCPUに対して意味あるんですかねぇ。