2021/03/03

今更「電気代8万円、ぎゃー」なんて言われても

  Yahoo!ニュースから『「電気代8万円、ぎゃー」利用者衝撃 新電力料金急騰、想定外 背景にLNG不足』。当人にとっては「ぎゃー」なのだろうが、初めっからそうならない電力供給元を積極的に選択している人間もいる訳で、自業自得とまでは思わないけれども「当たり前やん」としか思えないのが実態だ。その辺りは記事からは分からないけれど、それでも現在の電力供給会社契約後の合計で見れば得している可能性だってあるだろう。

 この冬米国では3000%とか、8000%といった電力料金の高騰も経験していて、それに比べればまだマシだ。慌てて経産省が上限価格を設定したらしいとのことだが、それは監督官庁が率先して制度破壊することになるのでとても不味い。 それをやるなら、まず総理大臣なりの口から「我が国は独自の社会主義体制を採ります」または「日本の送電力網は、ロシアのシベリア・極東送電力網同様に自由経済制度からは切り離します」とか明言してからにしていただかないと筋が通らない。誰か知らないが「制度設計の不備ガー」とかコメント欄に書かれても、こっちは読んでて頭が痛くなるだけだ。

 「上限価格の設定」はこれすなわち「適正価格が設定値より高くてもその価格を適用できない」ということであり、売電会社の利益構造の根本を揺るがす。売電会社が打てる手は非常時に赤字となることを想定して通常時の価格に赤字分を薄く乗せる(つまり値上げ≒会社の存在意義の喪失)ぐらいしかなく、更に現在の米国政権が少なくとも4年続くことを念頭に置くと、私には黒字のうちに事業を畳むのが正解としか見えない。まぁ後は、売電業者の判断または契約者が事前に設定した条件を満たすと受電が停止されるような機器でもコスト増覚悟で用意することだろうか。株取引のサーキットブレーカーのように、電気価格が一定値を超えるなどの特定の条件を満たすと自動的に受電を止めるって感じだ。少なくとも「ぎゃー」は避けられるが、冷蔵庫の中身はゴミとなろう。つまり、全く現実的ではない。

 漠然とではあったがかつては国民内に遍く存在した「日本型社会主義」や「日本型共産主義」とでも呼ぶべきコンセンサスは既に「コンセンサスとは呼べないレベル」となって久しい。つまり「基本はお互い様。皆で損をするのは仕方ない、同様に得するときは皆で得をしましょう」って考え方はどんどん薄くなってきているってことだ。自由主義でも新自由主義でも構わない、その種の考えとは絶対両立できない考え方、と言うより感性と言った方が良いようなものだ。

 上記の伝統的コンセンサスは、多くの社会的リスクを見えなくしたり実質的に無くしてくれていた。「価格が安い電気を使う」ことは上記の伝統的コンセンサスによる庇護を捨てることで可能とできる訳で、進んでリスクを取ること以外の何ものでもない。「ぎゃー」はリスクの顕在化の結果に過ぎず、それ以上でも以下でもない。当人の選択の当然の結果なのである。少なくとも契約する前に、契約先の資本構成とか経営形態とか経営者の国籍とかは調べないとね。まぁ、公開されている情報は限られているし、恐らく不正確なものも多い。私の感覚だと、この種の状況が曖昧であること自体が契約をためらうに十分なリスクとなる。

 ちなみにロシアには、価格が自由な送電力網と、その種の経済原理を導入すると事業者が居なくなるか価格がめちゃくちゃ高くなるかのどちらかが避けられないので国が価格を決める赤字必至の送電力網とが意図的に分離された形で存在する。

 さて、

 これまで少なくとも4つの新電力会社から戸口でオファーを受けたが、端的に言ってセールスパースンがなっていない。実はその種のセールスに対してはもうこちらから質問する。

 「安くなる理由を教えてください」

大抵のセールスパースンはこの点をまずちゃんと説明できない。酷い場合は嘘をつくか、恐らくマニュアル通りの(誤った)説明をする。少なくとも自前の発電設備を持たない会社が売電で安定して利益が出せる筈が無い。発電設備を持っていても、発電規模が小さかったり発電方法の種類が限られている場合は価格変動にかけられるヘッジ量も限られる。

 すいませんね、文献や報道ベースではあるけどもこっちは送発電分離や電力自由化について自ら調査し、その後も状況をトレースし続けてるんですよ、米国も欧州もロシアもね。あ、1社だけスマートメータのデータの一元管理による人件費圧縮を理由に挙げてたけど、利が薄いところにきて、更に突っ込んで聞いてみると派遣社員を使ってやっているとのことなので「あ、ダメだ」と思いましたよ。「誰も遊ばせていないので、緊急時に対応する人はいません。技術的な知識のある人はいません。人件費は中抜きされてます。」ではねぇ。

 そんな感じなので、今更「ぎゃー」って言われてもねってやっぱりなる。そんなこと、もう7年以上前から何時か起こることは分かってたことなので。

 「じゃぁ、どんな売電会社だったら契約するの?」と聞かれたらどう答えようか。サウード家かUAEの王族が経営する会社だったら契約するかもね。あと技術的視点から言えば、蓄電技術の大幅な進歩でも無いとゲームチェンジは無さそうに思う。

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