2019/11/26

SONY WH-1000XM3、結構ウマくない

2019/12/21:デスクトップPCとの接続状況の確認結果を追記しました。また最終的な使用感には影響しませんでしたが、iPod touchもペアリング相手として使ってみた旨も追記しました。

2020/1/8 : 関連エントリ「続・SONY WH-1000XM3、結構ウマくない - Sonarworks Reference 4を使ってみる」


 SONY WH-1000XM3はBluetooth接続のワイヤレスノイズキャンセリングヘッドホン/ヘッドセット、結構いい値段する。色々めぐり合わせがあって購入し、1ヵ月程使っている。連続使用可能時間やノイズキャンセリング機能には全く不満はない。

 主なペアリング相手はデスクトップPC(Windows10)で、Bluetooth通信チップやドライバ用ライブラリはQualcomm社製、通信コーデックはaptXだ。体感の遅延は50~75msとBluetoothとしては悪くないが、リアルタイム性が要求されるゲームや大部分のDAW作業には辛い。

 ただDAW作業であっても、「イコライザーやフェーダーを操作しては聴く」を繰り返すような最終マスタリング作業を「時折部屋中を踊りながら」行うには問題ない、と言うか、購入時の主な使用目的こそそれだった。が、音質と言うか音の味付けと言うか、音そのものがマスタリング作業向けとは言えなかった・・・と言うのが本エントリで書きたいことの一つだ。

 あとApple iPod touch(第6世代)もペアリング相手として使ってみた。なおSONYの専用アプリは使用しなかったほか、iPod touchがデフォルトで持つ音質を変え得る機能も一切使用しなかった。

 ちなみに普段使いのヘッドホンはPanasonic PR-HD5(密閉型)とSENNHEISER HD599(開放型)及びPioneer SE-CH9T(インナーイヤー型)、スピーカーはBauXar Marty 101(タイムドメインスピーカー)だ。当然これらのヘッドホン、スピーカー間でも音質に違いはあるが、結論に先立って書いてしまうと、WH-1000XM3はとびぬけて音質が違う。

 なおタイムドメインスピーカーにはネガティブな人も多いようだが、個人的に本品はスピーカーとして良くできていると思う。楽曲のジャンルも選ばず、音楽以外にも十分対応し、良く音が通るため低音量で使える。高さ30cm程度と大きくはなく、配置もルーズで良いので置き場所には困らない。なお「タイムドメイン万歳!」などとは微塵も考えていない事は断っておく。昔々Maxellが出していたタイムドメインスピーカーの音は本体を叩き壊したくなるほど酷いものだったし、「タイムドメイン」は理論(セオリー)ではなく手法(メソッドまたはテクニック)というのが数式も追っかけた上での私の結論である。蛇足ながら一実験屋、計測屋としての立場から言わせてもらうと、ゼロ信号をきっちり出せるハードウェアの設計という視点からはタイムドメインの考え方は面白く、テクニックとして一つの解答になっていると思う。

 閑話休題。

 まずはデスクトップPCとの接続状態のチェックである。WH-1000XM3のWindows10での接続形態はヘッドセットとヘッドホンがある。Windows10の仕様なのかWH-1000XM3の仕様なのかは知らないが、ペアリング直後はヘッドセットとして接続される(下図の下から2番目)。この状態での音質はノイズ交じりで低域も出ておらず、音楽視聴にはとても耐えられない。が、その後10秒も経つとヘッドホンに自動的に切り替わり(下図の一番下)、音質は向上する。ヘッドホンとして接続されているかどうかは、下図に示すようにサウンドのプロパティから確認できる。
 次いで 、後で触れるDAW(ざっくり言えば音楽制作アプリのこと、ここでは具体的にSteinberg CubasePro10)とWH-1000XM3との接続を確認する。大抵のDAWは、ヘッドホンなどの入出力デバイスとの入出力信号(音声信号)のやり取りをASIOと呼ばれる規格に基づき行う。ASIOはWindows10などのOSの音声処理機能をバイパスするので、DAW上でWH-1000XM3を出力先(アウト)先と明示的に指定する必要がある。下図はWH-1000XM3チェック時のASIOの接続状態で、「ヘッドホン(WH-1000XM3)」の状況がアクティブ(=接続中)となっており、ちゃんと出力先として指定されていていることが分かる。
と言う訳で、デスクトップPCとの接続は問題なさそうだ。

 音楽などの再生アプリ、環境は以下の通りだ。

  • Apple iTunes 12.10.3.1 (AAC、AIFF、MP3形式ほか)
  • SoundEngine Free  5.21 (Wave形式)
  • Steinberg CubasePro10.0.30
  • SoundCloud/Firefox 71.0
  • YouTube/Firefox 71.0
 既存の楽曲に加え、本件用のリファレンス音源を1曲用意した。リファレンス音源はDAW上でマスタリング段階にあるボーカル無しカバー曲で、iZotope社のTonal Balance Controlというツールで「周波数分布(バランス)が楽曲としてかなり良好」と確認できたものだ(下図参照、詳細は省きます・・・)。
 リファレンス音源はWave形式でDAWから書き出した後、AAC、AIFF、mp3などの形式に変換して再生アプリ、環境毎に適するものを用いた。

 古くは「ドンシャリ」に代表されるように、本格的な業務用であってもヘッドホンの音質には大なり小なり意図的な調整がされていることが多い。まぁ、そのため本当かどうか分かったもんじゃない「原音忠実」の代わりにリファレンス(参照)やスタンダート(標準)とされる製品があるんだろうし、逆に低音を盛ったような特定の音の味付けを売りとする製品も実現できる訳だ。当然、WH-1000XM3も音質に意図的な調整がされている筈だ。何しろ密閉型ヘッドホンとしては特段重くもなく、大きくもない。「原音忠実」を目指そうにも重量、形状や寸法に余裕がないし、そもそもそれがユーザニーズに合致しているかも分からない。

 WH-1000XM3は「高音質」を謳うが、あらためて考えてみると「いやそれ実際具体的にはどういう事だ」となる。少なくとも「原音忠実」ではないし、そうも言っていない。高サンプリングレート、高ビットレートなら高音質だということにはならない。が、値段もそこそこ、最適化機能付きノイズキャンセリングということで、多少なりとも「原音忠実」寄りの調整を期待してしまったのがそもそもの問題、間違いだったのである。実のところ、音質に関しては「専用アプリやOSの機能で調整してね」とばかりにユーザに丸投げしているだけだった・・・ように見える。もしそうなら「音楽を聴くための機器」としての性能は担保されていないように思える。技術的には素晴らしいハード、でしかない誰得製品と言うことである。

 「これは音質にかなり癖がある」ということには使い始めて直ぐに気が付いた。この辺はDAWをいじってきた経験やそもそも周波数分布や音の定位(左右の位置)などに癖のある楽曲を聴くことが多い事も影響しているのだろう。サイン波だけで作った現代音楽作品(例えばRichard MaxfieldのSine Music [A Swarm of Butterfiles Encountered Over the Ocean])の聴こえ方は周波数特性をダイレクトに反映してしまう。Satoru Wonoのアルバム「Sonata for Sine Wave and White Noise」なんかもそう。また自分でマスタリングした楽曲となれば、聴こえ方の変化には敏感とならざるを得ない。と言うか、「誰だこれマスタリングしたのは!」級に(部分的に)聴こえ方が別物になった楽曲もあった。

 そこで購入前には検索すらしなかったネット上のWH-1000XM3の製品レビューをチェックした。音質に関する指摘に限定すれば、「低域盛り過ぎ」とのレビューが多い。が、私の結論は似て非なるもの、「高域が痩せている」だ。これはデスクトップPC、iPod touchともに共通だ。そしてこの特性が、「低域をやや盛っていることが多い」他のヘッドホンやスピーカーと「明らかに違うと感じる」一つの原因となっていると考える。

 バスドラムやベースといった低域の音(例えば1kHz未満)はちゃんと出ていて、それらの残響音(エフェクトで言えばリバーブ)の広がり具合も良く分かる。一方、高域(例えば4~6kHz以上)は残響音の有無すら良く分からなくなり、原音自体も低域に埋もれて普段使いのヘッドホンやPC接続のスピーカーより聴こえにくい。低域はいい具合にウェット(残響がある)だが高域ではデッド(残響がない)な変なスタジオに入ったような気分だ。この聴こえ方は、「低域を盛った」製品での聴こえ方とも明らかに違う。高域のキレが悪い癖に低域の残響はちゃんと出るので、全体としてモコモコした音質になり易い。救いかつ問題なのは定位(音の左右位置)の左右の分離が良いので、低域の音が配置され易い中央付近以外の高域の音はそこそこ聴こえる。

 あくまでイメージだけど、グラフィックイコライザーで言えばこんな感じ。まず「低域が盛られている」
次いで「高域が痩せている」
まぁ実際のところは
ではないかと疑っている。最後の場合だと一応「低域を盛っている」ことにもなる。繰り返すけど、あくまでイメージね。

 結果としてどのようなことが起こっちゃたのか、或いはどうして「高域が痩せている」という結論に至ったかについて触れていこう。

・DAW上でドラムの音が決められない

 さてベースやドラムといった所謂リズム隊は曲の骨組みであり、DAWを用いた楽曲制作では初期でいったん詰めることが多い。この際、時折スピーカーや他のヘッドホンでも聴くことを繰り返す。このルーチンにWH-1000XM3を組み込んだとたん、スネアドラムの音が決められなくなった。言うまでもなくスネアドラムの音は高域の音を含み、自分の持つイメージの実現には音の選択のみならず、イコライジングやコンプレッサ、リバーブなどのエフェクト、定位までもいじる必要がある。簡単に言ってしまえば、WH-1000XM3だけスネアドラムの聴こえ方が極端に違うことが決められない原因だ。WH-1000XM3で良い感じにスネアドラムの音を調整すると、他のヘッドホンではやたらとシャリシャリした音になり、残響も強過ぎる。

・かつて自分でマスタリングした楽曲の聴こえ方が変わる

 YouTubeにMegpoidなどのVocaloidを使った楽曲をアップロードしているが、根が捻くれている所為なのか、意図的に聴きにくく(流し聴きにくく)している楽曲もある。ある楽曲では、フレーズの高音部でのみぶーんといった耳障りな自励振動音が乗るようなシンセサイザー音をわざわざ作って使ってたりしている。年寄りの自分が聴いても未だに「ひいいいいっ」となってしまうレベルだから、若い人の良い耳には数秒とは言えキツイのではないかと思う。ところがWH-1000XM3ではその耳障りな音が全く聴こえない、本当に全くだ。わざわざ入れたフック(引っかかり)が消えてしまうとなると、曲として別物と言える。

・ ピアノ、ストリングスがおいしくない

 ピアノ、ストリングスの音は高周波成分を多く含む。高周波成分が多いのは所謂アタック時、音の鳴り始めだが、残響音や共振音を介してアタック時以降の音の響きを複雑なものとしてくれる。音がリッチで「おいしい」状態だ。が、WH-1000XM3ではピアノ、ストリングスが多々おいしくなくなる。ラフマニノフの「パガニーニの主題による狂詩曲作品43~第18変奏」なんて酷い有様となる。有名な曲なので、タイトルは知らなくても聴いたことはある人は多い筈。ちなみに下に引用した動画は著作権的に無難そうだっただけで、好きだとか良いとか思うバージョンではありませんので念の為。あと、Megpoidのおいしい周波数域はピアノのそれに結構近いんですよ、つまり・・・(嘆息)


・もともと極端な周波数分布の楽曲はその味が失われる

 特にゲンナリさせられることになった例がXeno & OaklanderのBlueという楽曲。この曲、結構モコモコした状態で始まり、次いで輪郭のはっきりしたチキチキした音が加わる。ざっくり言えば、冒頭は低域音だけ、次いで高域音が追加で、ボーカル登場直前までは中域音抜きという形。WH-1000XM3では終始モコモコ、チキチキした音の持つ低域音との強いコントラスト(音量が大きいと耳が痛く感じるくらい、ただ下の動画ではレコードプレーヤーの針が痛んでいるのか高域はあまり強く出ていない)が完全に潰れてしまう。台無しですね。

・実は音の定位(左右の位置)がおかしい

  TPS(三人称視点シューティング)やFPS(一人称視点シューティング)といったゲームでは音も重要だ。特に足音などが聴こえてくる向き、の重要性は馬鹿にならない。「Tom Clancy's The Division」というTPSの場合、WH-1000XM3では足音などが聴こえてくる向きと足音の主の画面上での位置とのずれが他のヘッドホンより目立って大きい。また足音の主の移動による聴こえてくる足音の向きの変化がスムースではない。イメージとしてはWH-1000XM3は足音を真横に置きたがっている感じ。音の左右分離が良く聴こえるように音場を制御した結果、音場自体を破壊しているのではと疑ってしまう。

 Edgard Varèseの「Poem Electronique」も、あらためて聴くとWH-1000XM3だけ時折音の定位が他のヘッドホンやスピーカーと違うことが確認できている。足音の話と同じく、音が右からだけまたは左からだけとか極端に振れる。ピーガリガリバキューン系の楽曲(作品)なので再生する場合は音量注意。
 という感じで、SONY WH-1000XM3は使い方を選ぶなぁという残念な結論。安かったとしても音楽好きには勧められないなぁとすら思う。オーケストラ曲、弦楽曲、ピアノ曲、女性ボーカル曲は確実に殺される。金属弦を使ったカンテレの音はスッカスカでモニョモニョした何か別の音に変えられる。

 ノイズキャンセリング機能など含めワイヤレスヘッドセットとしては結構出来は良いと思うんですがねぇ。

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