2019/11/16

YouTubeのCOPPA対策強化で何か起きる?

 今回もYouTubeの話。仕様や規約の変更の具体的内容も色々議論に事欠かないところにきて、とにかくYouTubeから出てくる文書の文章、表現が曖昧過ぎるのである。

 米国のCOPPA規制がYoutubeクリエータに与える影響が大きいのではないか、という議論が件のYouTube上も含めて為されている。COPPA(読みはコオゥパ、カゥパ、カーパなど)は"Children's Online Privacy Protection Act"の略で、1998年からあるざっくり「子供に不適とされるオンラインコンテンツから子供を隔離する義務を定めた法律」である。ポイントの一つはコンテンツそのものだけでなく、コンテンツに付随する広告も対象となることだ。

 (良く知らないのだが)YouTubeには"YouTube for Kids"という機能と言うか仕組みと言うかがあるそうで、親などが子供に観せるYouTubeコンテンツをある程度制御できるのだそうだ。ただCOPPA対策としては不十分だったようで、多数の違反を指摘されしまった。違反の多くは「子供向けではない広告の表示」「広告のカスタマイズのためのクッキーによる情報収集」とされる。

 えーと、ここでの「子供向け広告」とは「何らかの価値基準に基づいて、子供に観せても内容に問題が無い広告」と読み替えて頂きたい。そもそも購買力の無い存在に対する「直接的な広告」は実効的には存在し得ないですからね。

 さて、

 このような事態を受け、YouTubeはCOPPA対策の強化を準備、具体的な対策内容の予告とチャンネル所有者への対応要求を始めている。チャンネル所有者なら、チャンネルを「子供向けとするかどうかを設定するように」との通知を最近受けた筈だ。そして近々、アップロードする動画毎に子供向けかどうかの設定も必須としていくとのことらしい。まぁ、COPPAの理念や目的は理解できる。子供向け動画に「子供向けではない広告が表示されない」ことが実現できればそれはそれで素晴らしい。

 では、Youtubeの新しいCOPPA対策に危惧を持つ人々の主張はどのようなものか。実のところ細かい話も一杯あるのだが、ここではとあるお金のからむ話に限定しよう。更にYouTube側の機械学習機能などの間抜けな挙動、もとい影響は考えないことにしよう。

 既に収益化できたチャンネルを持つNintendoゲーム実況者を考える。実況中にうかつな動画や静止画を挟んだり汚い言葉を使ったりしなければ、文句無しの子供向け動画を作れるだろう。さて動画をアップロードするのだが、ここで動画を子供向けと指定すべきだろうか。

 子供向けと指定した場合はYouTube Kidsの対象となり、多くの子供に視聴してもらえる機会は高まる。が、広告は「子供向けとされたものに限定される」こととなり、広告収入は従来よりも下がる可能性がある。YouTubeによれば、「子供向けとされたものに限定される」と付き得る広告の数が60%~90%に減少するとされる。対して子供向けと指定しなかった場合はYouTube Kidsの対象外となり、本来のターゲット視聴者である子供へのリーチ機会は確実に減る。が、付き得る広告の数は減少しない。ケースバイケースも良いところだが、より収益を得るにはどちらが良いかは悩みどころだ。

 ゲーム会社の公式チャンネルへの影響に関する幾つかの議論も面白かった。私なりにそれら議論を咀嚼した結果を基に、子供向け・ファミリー向け志向が強い「Nintendoみたいな会社」を想定して思考実験してみよう。

 「Nintendoみたいな会社」の公式チャンネルの視聴者の年齢層は広いと思われるが、「Nintendoみたいな会社」としてはチャンネル、動画ともに子供向けとせざるを得ないだろう。子供が視聴する限りはほぼ問題は無い。COPPA対策は十分できているし、広告のリンクを辿る視聴者はそもそも多くない。ではゲームを含め娯楽や趣味に使うお金がある子供ではない視聴者の場合はどうか。

 YouTubeにアカウントを持つ視聴者ならば広告はそれぞれの視聴者にカスタマイズされたものとなるが、この場合に表示される広告はさらに「子供向けに限定されたもの」となる。果たしてどのくらいの視聴者が広告に反応してくれるだろうか。加えれば、カスタマイズされた広告群にそもそも「子供向け広告」が含まれていなかった場合はどうなるのだろう。用意される子供用の広告は「カスタマイズされたもの」とは独立である可能性もYouTubeの文書は示唆している(「カスタマイズされたもの」そのものは使わない、との旨が簡潔だが曖昧な表現で書いてある)。まぁ、「Nintendoみたいな会社」の公式チャンネルに来る視聴者なら、「Nintendoみたいな会社」の製品の広告ぐらいはクリックしてくれるだろう。

 で、極端な一シナリオは「『Nintendoみたいな会社』の公式チャンネルの視聴者は、自社以外の広告にほとんど反応してくれない。そのうちに自社以外の広告も表示されなくなっていく」というものである。この場合そのチャンネルのYouTubeからの収益は激減するだろう。このシナリオは、上述のゲーム実況者のチャンネルにも当てはまり得る。

 当然、新しいCOPPA対策の影響は、日本を含む全世界のYouTuber、視聴者が受けることは言わずもがな。

 最後に"New YouTube Policy Could Destroy Nintendo Channels"というタイトルのYouTube動画に対するコメントで思わず笑ってしまったものをご紹介。動画本編の内容は笑えないけどね。

2016: “Your videos aren’t kid friendly enough, no ads”
2019: “Your videos are too kid friendly, no ads”

2016年:「あなたの動画は十分に子供向きとは言えません、広告無しと言うことで」
2019年:「あなたの動画は余りに子供向き過ぎます、広告無しと言うことで」

いやまさにそんな感じになるかもなんだよなぁ・・・

追記(2019/11/19):
 動画に対するコメントなどもYouTubeではCOPPAの対象となり得るとの指摘もあった。YouTube動画"Will COPPA affect scale model builders?"では、予測ではなく当然の帰結として
・子供向けに指定したチャンネルのコメント機能は無効化される
・子供向けに指定したチャンネルのアクセス統計情報は無効化(または非公開化)される
となるのではないかと述べている。それぞれ、汚い言語的表現などから子供たちを守るため(と言うか、YouTubeとしてそのような事態が起こるリスクを無くすため)、主要な閲覧者たる子供たちのプライバシーに繋がる情報を保護するため、と言う理由からとのことである。なるほど。

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