2013/12/07

中共の防空識別圏設定について思うこと

 まずはお断り;

 現在の中華人民共和国及び朝鮮半島の歴史を色々調べていくと、「中国=中華人民共和国」とは見做し難いとの思いが強くなった。かといって、「中国=中国共産党の支配地域」と見做すのも多くの民族集団の状況を考えると忍びない。故に、中国という呼称は使用せず、「中国共産党」を短くした「中共」という表現を使用させて頂く。つまり、「中共の意思」は「中華人民共和国の意思」とも「中国共産党の支配地域の意思」とも全く別物ということだ。

 さて、

 中共にも防空識別圏を設定する権利はある。これは至極真っ当な話であって、中共上層部や中国外務省、人民解放軍高官の「設定する権利に関する」発言に問題はない。問題は、事前通告なしに防空識別圏に他国の航空機が侵入してきた場合の対応についての言及が曖昧すぎることと、他国の領土を防空識別圏に含めてあることである。

 前者は如何にも「大国らしからぬ」行動で、「今日的な中華思想に基づく上から目線」の反映とも解釈できるのではないかと思う。ここで言う「上から目線」とは、「国際的な慣例に従わない態度」と「国際的な慣例に従って他国が一歩引いた対応を取ることを『その国の弱み』と解釈する思考法と、その『弱み』を徹底的に叩き続ける姿勢」とも言い換えられる。また、「対応についての言及の曖昧さ」は結構重要だ。もし対応が「準軍事的或いは軍事的な排除行動を取る」ことも含むと解釈すれば、もはやそれは「防空識別圏」ではなく「領空」と見做していることと同義となるためである。

 後者は離島の領有権に関わる。某諸島は、60年代の人民日報(中共機関紙)の記事中で明確に日本の領土であると書かれていた。この過去の記述に従えば、例え「防空識別圏」であっても某諸島の上空を含めることは国際慣例上は十分に常軌を逸した行動と言える。合理的な解釈は、「中共は某諸島を中国の領土と考えることとした」ということである。ここで重要なのは、「日本がどう主張しようが関係ない、だって戦犯国の主張だもの」、「国際慣習も関係ないね、だって戦犯国の実行支配地域だもの」、「かつての人民日報の記事は間違い、或いは無かったことにしてね」という点にある。

 日本の領土、特に離島の領有権は歴史的経緯がややこしいことが多い。中共、大韓民国ともにサンフランシスコ講和条約には署名しておらず、大韓民国はかつて「李承晩ライン」という軍事境界線を一方的に引いたばかりか、それの廃止後も既得権益的に自国領土として取り扱っている離島がある。

 多くの場合、国際法はそれまでの流儀に基づく慣習法だ。

 慣習法は決して珍しいものではなく、英国や米国は国内法においても慣習法が主流だ。日本はというと、法体系はいわゆる「大陸法」の考え方に基づいている。ここでの「大陸」とは欧州大陸を指しており、仏国や独国での流儀である。大陸法の考えでは法律は「様々な可能性を考慮した上でできるだけ広い範囲に適用できる」ように作られる。対して慣習法は「社会情勢などの変化に対して柔軟に対応できるように最小限の決まりごと」に落とし込む。英米において裁判所の判例が「法解釈の新たなスタンダード」となるケースが多いのは慣習法故と言える。つまり、どうすべきかが法律で明示化されていない事項は、陪審員の常識と照らしながら裁判所で決めるということである。

 故に、米国などが国際慣習法という枠組みに抵抗なく、かつ軽んずることもないのは当然と言える。では、中共はどうか。

 「現在においても、中共、韓国の政権交代は王朝交代と捉えた方が理解し易い」という趣旨の文章を読んだことがある。なんとも目からウロコな考え方だ。この辺りは韓国の方が分かり易い。

 李承晩は大統領の座を手に入れるや、不正も辞さずにその地位の維持に腐心した形跡がありありだ。王の言うことは絶対であり、国際慣習とは相容れない前述の「李承晩ライン」を臆面もなく引ける。朴正煕はクーデターで政権を掌握、いわゆる「開発独裁」によって国内の近代化を成功させるが、やはりクーデター(「粛軍クーデター」とも呼ばれる)で暗殺される。朴政権下ではKCIA(韓国中央情報局)が悪名を轟かせる。(なお、「開発独裁」体制はかつては評価されていなかったが、最近は「発展途上国のひとつの発展モデル」として条件付きではあるが評価すべきとの論もある。)続く軍人出身の大統領、全斗煥、盧泰愚はそこそこ無難な政権運営には成功するものの、後の政権下で不正資金流用などを理由に裁判を受けることになる。その後の大統領も退任後に裁判の被告席に立たされることが多く、自殺者までも出すに至る。
  • クーデターによる政権交代は、武力による王朝交代に例えられ得る。旧政権のトップの殺害は旧王朝の王の処刑に相当する。
  • 退任後に刑事訴追された大統領経験者が多い。これは、①王は何をやってもいい、王の言うことが法律だと、いう側面と、②新しい王は旧い王を如何様にも扱える、という側面の二方向から見れば驚くに値しない。
    更に言うと、新王朝による旧王朝の吊るしあげ、或いは王朝交代には至らないものの王朝内の派閥争いでの敗者の吊るしあげは朝鮮半島の歴史上珍しいことではない。このため、「勝者が敗者を痛めつけるという事態は自然」と捉えがちな文化的コード(「地域慣習」とは言える)を持つことになる。
  • 醸成された文化的コードが「吊るしあげの理由が論理的であること」を求めないため、法律、司法制度のみならず行政までもが歪む。
    とある法律では戦前に遡ってまで特定の行動を取った人やその子孫から財産を没収する。「その国が成立する前」にまだ遡って適用される法律って果たして有って良いものなのか、その存在自体が異常である。加えて、旧日本陸軍の優秀な将校を父に持つ現大統領の財産が未だ没収されていないのは何故か、その運用は明らかに恣意的である。
    韓国の司法が時の政権から独立していないという批判は昔からあり、今だに酷いままである。司法は王には「逆らわない」のだ。「逆らえない」のではないことが切ないまでに恥しい。
中共は韓国ほどあからさまではないにしても、似たようなところがある。中華の王は自分に都合の悪い国際慣習なんか意にも介さないのである、何せ中華の王なんだから。で、中華の王だからどうなのよ、と言うか中華の王って何?というお話である。中華における正当性の考え方は(許容は出来ないが)理解するものの、中華の外にあっては徹頭徹尾、客観性や論理性を欠くのである。

 44年発言などにみられる幼稚園児レベルの反論や某国の反応には論理性の欠如が明らかだ。だがそれらを笑ってはいけない、意図(悪意?)は明確に有るのである。

 だから、中共の防空識別圏設定への日本の対応は、徹頭徹尾、客観性や論理性を確保すべきであり、対話すべき相手は中共と韓国(と残念ながら北朝鮮)以外の国々である。

 今回の中共の防空識別圏設定は、「事前通告なしに防空識別圏に他国の航空機が侵入してきた場合の対応」の具体的な内容次第では他国の主権侵害、場合によっては宣戦布告とも取れる行動だと思うのだ。これは軍事マターではなく、人民解放軍の能力とは無関係な完全に政治マターだと思うのだ。

0 件のコメント:

コメントを投稿