2021/06/15

メモ:台山(タイシャン)原子力発電所の環境放出放射能の増大

[追記:6/15 12:15]キセノン(Xe)検出の話をまた聞き。原子炉の運転で燃料内で生成される放射性物質なので、少なくとも燃料ピンはアウトの可能性が拡大。原子炉の運転時に生成・蓄積され、原子炉の再起動の邪魔をする特性を持つ状態もあるため、放射性/非放射性キセノン量と半減期から生成時期も推定できるぐらいの知見がある物質。ここまで来ると5chにも「ちゃんとした知」が集まってくるでしょう。[追記ここまで]

 中華人民共和国の台山(タイシャン)原子力発電所の環境への放出放射能の増大に関する5chまとめ記事を読んでいて、発言に誤りと言うか勘違いというかが結構多かったので、CNNの報道などを元に私なりのメモをざっと作ることにした。

 まず大枠の流れ。下記内容の時期は5/30ごろから6/8が主。何が問題かって、明らかに異常が起きているのに、「異常かどうかを判定する基準を動かし続ける」ことで中華人民共和国なのか中国共産党なのか知らないが「異常ではない」と主張し続け、原子炉の運転を続けていること。基準を動かすとは、まるで韓国ではないか。なお、放出され続けているガス状放射性物質の量は、これら原子炉の許認可~運転に関わっているフランスの国内基準に従えば既に運転停止必須レベルを超えている模様。余りの状況にフランスはアメリカに助力を乞うているが、バイデン政権が余りに楽観的なのは解せぬ。うっかりことが起きたら、議会と違って親中色が依然抜けないバイデン政権も返り血浴びるぜ。

  • 台山発電所のサイト外(≒発電所の敷地の外)放射線量が上昇し始めたが、中華人民共和国の原子炉規制機関が原子炉の運転停止などの基準とする「サイト外放射線量の上限値を徐々に上げ続ける」ことで、原子炉の運転を(ある意味無理やりに)継続中。
  •  サイト外放射線量の上昇の原因は、原子炉一次系(原子炉から熱を奪い、タービンを回すための蒸気を発生させる熱交換器に熱を渡す水の循環系統)から原子炉運転中に回収、周辺環境に適宜放出している希ガス内の放射性物質の増加によるものと推定(=まず疑うべき、常識的な推定)。
  • 「サイト外放射性濃度の上限値」がフランス国内基準の原子炉停止レベルを明らかに超えたため、運転に関わるフランス企業体がフランス政府に連絡。フランスにとってはいわば「想定外の未知の状況」でもあったため、フランス政府及び企業体はアメリカ政府及び原子力規制機関に協力を要請した。フランスは、スリーマイル島原子力発電所事故相当の状況を想定しているのではないかと個人的に邪推する。このメモの作成時点で、バイデン政権は「crisis level(危機的レベル)ではない」との姿勢示し、これを維持中。
  • 希ガスへの放射性物質の混入の原因として、燃料ピン(燃料棒とも。より厳密には燃料被覆管と呼ばれる筒状の部品)の破損の可能性が挙げられている(=まず疑うべき、常識的な判断)。希ガスは燃料核反応で発生するため、燃料ピン内にはバッファなどと呼ばれる空間をあらかじめ設け、燃料ピン内で発した希ガスを貯めておけるよう設計が為される。燃料ピンの破損原因としては、燃料ピン又は燃料ピンと接する部品の振動による摩耗や、運転操作ミスなどにより原子炉内の一部燃料ピンが短時間で高出力、高温となったことによる燃料ピンの変形破損がまず考えられる。摩耗による損傷は、実績の無い最新設計の燃料集合体(燃料ピンを束ねたもの。束ねる燃料ピンの数の上限を決める要因は色々あるが、例えば原子炉の燃料集合体交換用クレーンで吊り下げられる重量以下でなければないないのは明らか)を使っての運転や、設計の異なる複数種の燃料集合体が混在しての運転で起きがちである。最新設計の原子炉であるEPRの燃料はまだ前者の域を完全には脱してはおらず(2年程度?燃料交換サイクルもまだ2サイクル目か?)、現運転サイクルではフランス企業が設計、製造した燃料集合体と(前のめり気味な)中華人民共和国企業が設計、製造した燃料集合体が原子炉内で混在している可能性も有る。なお、EPR用の燃料ピンは従来のフランス原子炉(N2)用の燃料ピンよりも若干長い。

 台山(タイシャン)発電所の概要。

  • 台山原子力発電所は2基のフランス製最新型原子炉(EPR=Evolutionary Power Reactor)を有し、2基とも運転中。海に面した南部の広東省に位置し、北緯は台湾島の南端からやや南。香港は広東省を代表する都市。
  • EPRはフィンランドのオルキルオト、フランスのフラマンヴィルにも建設されたが、台山1号が世界で最初に運転開始したEPR。
  • EPRは二重格納容器を持ち、事故時でも原子炉内の放射性物質をより放出しにくい設計となっている。が、今回問題となっている原子炉一次系からの希ガスの放出は日常的に実施するものであるため、結果的に格納容器などをバイパス。ただし、固体や大きな放射性物質の気体分子の環境への放出を防ぐフィルターは一般的に設置(希ガスはそもそも直径が小さく、フィルターでは除去できない)。
  • 台山原子力発電所は許認可、建設、運転をフランス企業と中華人民共和国企業との合弁企業体が担っており、出資比率は概略フランス企業30%、中華人民共和国企業が70%。
  • 2号機は最近オーバーホール、大規模整備をした旨の発表が中華人民共和国の運転企業体からあったが、オーバーホールの理由、内容は未発表で完全に不明。 

 5chまとめを眺めながら思ったこと。

  • 「臨界」や「再臨界」の意味を理解せず、或いは完全に誤解したまま使い、誤った知識や状況の理解の拡大再生産が若干起こっている。原子炉運転中とは「臨界状態を維持している」ことと等価だから、「臨界になると吹っ飛ぶ」とか「再臨界になると危ない」と言った言説が意味を持つには、あと2段階ぐらいの事故レベルの事象進展が必要。
    ただ、燃料ピン破損の原因が「制御棒誤引き抜き」と呼ばれる事故相当の操作ミスである場合は、過去形として「臨界になると吹っ飛ぶ」とか「再臨界になると危ない」は正確ではないけれど当たらずと言えども遠からずとは言える。原子炉停止(未臨界)の状態から、原子炉の制御棒が抜かれた部分だけは臨界になり得るからだ。
  • 「再臨界!」と騒ぐのは水素濃度の上昇まで待て。水素濃度の上昇は燃料ピンなどの原子炉内金属類の酸化、溶融の可能性を強く示すサインだ。
  • フランス側から「燃料被覆管の劣化」の可能性の見解が出たとの報道があるが、ここで「劣化」は英語の"degradation"の訳だ。"degradation"の意味は広く、燃料被覆管などの溶融による「崩落」にも実は使われる。仏語→英語も直接翻訳は無理なので、仏文情報にさかのぼるべきなのかも知れない。なお炉心溶融が発生して燃料を含む溶融金属が所謂メルトダウン中の状況は、"relocation"(≒位置変更)と表現されることが多い。

2021/06/14

YAMAHA HPH-MT8ヘッドフォン、視聴できず

 本日は月一の都内への通院。帰りの特急列車まで時間があったので、特急に乗る駅から2駅ほど移動して大手電機量販店へ。目的はとある経緯で知ったYAMAHA  HPH-MT8ヘッドフォンの視聴だ。

 商品の在庫が切れていても視聴用ヘッドフォンは置いてある店なので、視聴できない事態は全く想定していなかった。しかも上京時に携帯しているiPod touchには、こういうこともあろうかとヘッドフォン視聴専用プレイリストも入れてある。うっかり「これスゲーっ!」てなっても何とかなるだけの持ち合わせもある。

 結論から書こう。エントリタイトルの如く、視聴は叶わなかった。

 YAMAHA  HPH-MT5、MT7と視聴用機を辿っていったのだが、それらの隣にはMT8の視聴用機も商品ラベルも在庫カードも無かった。しかもポッカリと1商品分の空間が空いている。辺りを見回したが同様に空いている空間は無く。ちょっと不自然な感じだった。

 モデル数が多かったり専用スペースを確保していないメーカーの視聴用機は1ヶ所に固まって置かれていない可能性もあるので、視聴スペース全体を2、3周回ってみた。が、やはりHPH-MT8は見つからなかった。店員さんに聞いてみる、というのが筋なのだが、ピュアに視聴目的だったので今回はパスした。購入する気満々なら話は全く違う、またの機会を期待しよう。結局どの機器も視聴せずに店を後にしたのだが、今はMT8にしかホントに興味が無いんだよね。

 あと全くの別件なのだが、現在メインで使っているSennheiser HD599はフルオープン型だったのね。セミオープンかと勝手に思ってました。耳は楽なんだけど、周囲ノイズ入りまくりだし音漏れまくりなのは確か。

2021/06/08

AKは頑丈だぞ

 Kalashnikov Group(カラシニコフ・グループ)のYoutubeチャンネルで公開されているシリーズ動画、Gun Busters (Разрушители оружия)がYouTubeからレコメンドされた。Iraqveteran8888さんのULTIMATE MELTDOWN!シリーズ同様、銃が壊れたり動作しなくなるまでフルオートでひたすら撃ちまくる動画だ。

 観れば分かるが自社製品が対象でも内容は結構ガチ。樹脂部品が解けて融合しても、それが燃えながらぼろぼろと剥がれ落ちようとも撃ち続ける。コッキングレバーが動かなければ地面や机に叩きつけてでも無理やり動かす。「摂氏700度だね」とかさらっと言われてもねぇ。あ、PPShでもやってるよ。

実験計測屋の考えるヘッドフォンの原音再現性に関するうんたらかんたら

 本題は「さて、」以降です。初老者の独り語りなんか読みたくない人は「さて、」まで飛んでね。

 私はサラリーマン実験屋で、一時期水中の圧力変化測定を良くやっていた。背圧は大気圧から100気圧近く、取得しないといけない圧力振動の周波数範囲は数Hz~10kHzと広かった。ちなみに高圧用の検出器の価格は私の年収並みに高い・・・つまり実験も測定も失敗できない。敢えて測定結果に値段をつけようとするとかなりの額になるが、他社が持たないデータの取得は自社の競争力の源泉ともなるので一種の投資と見做される。許認可が絡む事項ならば、ワクチンの治験データに相当すると思ってもらって良い。データが無ければ認可が必要な市場には参入すらできない。

 私の属する企業の風土のひとつに「一人一芸」がある。これは予算の流れから見た場合の企業構造、「自分が一番働く社長+社員1名の中小企業の集まりみたいな組織」において自分が喰いっぱぐれない、干されないための差別戦略だ。信号処理に関わる知識の取得や実践、実装と実績や技術レベルのアピールは、文字通り「生活のため」な訳だ。このような文化下において、技術上の嘘、誤魔化し、実際を超えるアピールが発覚した際のダメージは深刻だ。厳しい文化とも言えるが、個人的には極めて公正な文化でもある点を強調したい。そして、ここは日本的としか言いようがないのだが、上記のダメージに対して浪花節がセーフティネット的に作動するため、当人が状況を正しく認識して適切に振る舞う限りにおいては職場の雰囲気は全く悪くならない。

 この文化、30年単位で見ると様々な制度変更を経て壊れかけては再興するを繰り返してきたが、そろそろ限界かもしれないとも思う。それは職場に百花繚乱の如く存在する「一芸」の源泉に「詰め込み教育」を見るからだ。新しい体験にあたって「あ~昔なんか聞いたことがある、やったことがある」といったフックは、それらを与えられたり、自ら得るような行動をしてきた人間の中にしか存在しない。実感としてあるのは、この種のフックの少なさは「ゆとり世代」に顕著であることだ。更に踏み込むと、フックをほぼ持たない者とそれでも従来世代並みにフックを持つ者とからそれぞれ構成されるクラス(階級)が実は形成されていて、両クラス間でのコミュニケーションは成立しないので完全に隔絶状態にある、と見ゆる。100%近い与えられたフックが使われないことの方が多かろうから確かに効率は悪いだろうが、「詰め込み教育」は「子供の将来の可能性を狭める方向には作用しない」までは言って良いと思う・・・って何の話してんのか。

 さて、

検出器だけでなく測定に関わる全ての機器の入力信号/出力信号の時間変化は相対的であっても一致しない。信号波形は変形する。これはそれぞれの機器が「反応遅れ」を持っているためで、最終的な測定結果は「反応遅れ」を補正したものとなる。補正に必要な計算量は大したことないが、それぞれの機器の「反応遅れ」は個別に自分たちで測定しておくか、他者の測定結果を買うかする必要がある。

 補正はデータ収集後に実施し、フーリエ変換を用いて周波数領域で行う。周波数領域と言うと難しく感じるかもしれないが、横軸が周波数のグラフは周波数領域で表示していることになる。だから大抵のDAWユーザーは、イコライザー操作やスペクトル分布を見たりすることで、周波数空間とは日常的に接している筈だ。計算手順自体はデコンボリューションやコンボリューションなどと呼ばれる周波数領域での掛け算、割り算操作である。リバーブプラグインが使っていたりする計算操作なので、これらの言葉自体はやはりDAWを触っている人なら耳にしたこともあるのではないかと思う。これらの操作は上記したように計算量は少なく、加えてデジタル計算でも丸め誤差の範囲で理論解と一致する結果が得られる精度の高いものだ。

 ただし、信号波形を直接追うような時間領域では、この種の補正は簡単ではない。別の言い方をすると、この種の信号処理のリアルタイム処理を精度良く実行するにはコストがかかる。音響機器の値段と音質にどうしても関係が出てしまう原因の一つは、まさにここにあろう。

 つい最近、ネット上でヘッドフォンの音質や性能に関わるやり取りを人とする機会を得た。私は信号処理の経験からとある個人的な仮定について簡単に述べたが、DAWとか触る割にはオーディオ機器やその周囲の知識が絶望的に無く、かつそもそも興味が全く無いので、文章だけのやり取りだけで正直話が嚙み合ったかははなはだ心もとない結果となった。あらためて書いておこう。ヘッドフォン、スピーカー、アンプなどは音響信号をリアルタイム処理する機器だ。

 以下では、件のやり取り内容のうち、もしそうだったら嫌だなと思うヘッドフォンの再生特性についての内容のみ、模式図を付して簡単に説明しておこうと思う。真面目なところ、ドローソフトを使ったり技術寄りの文章を書いてみたりと、病気休暇からの復帰を睨んだリハビリ作業の意図が強いんだけどね。

 いきなり音が立ち上がる波形(例えば、矩形波の立ち上がり部)の原音信号として、その信号を音響機器で再生する場合を考える。ここで音響機器が原音信号をそのまま再現できれば皆が幸せなだが、リアルタイムで処理しないといけないためにそうは問屋が卸さない。

  一般論として、漠然と組んだ(機能要求だけを満たした)再生用回路(アンプ→スピーカー/ヘッドフォン)では、再生信号に「時間遅れ」が生じる。この状態を模式的に示しているのが図(a)だ。再生信号は原音信号の急激な変化に追従できず、まず立ち上がりで遅れ、水平となるタイミングも遅れるのでオーバーシュートも発生している。すぐに分かる人も多いと思うが、これは勾配がめちゃくちゃ大きいローパスフィルタを適用した状態と等価だ。高周波数が失われ、音の立ち上がりは悪くなる。そこで回路に手を入れる。部品は増え、部品ひとつひとつの質も値段も上がる。コスト制限があるような条件下で頑張って達成したい再生信号と原音信号との関係を図(b)に模式的に示す。立ち上がりでの遅れ、オーバーシュートともに小さくなっている。が、実際のところ、このような結果が得られる機器の実現には、マニアな方々の支払い能力に相当するコストが要求される。

 で、とある技術者は考える、「いや、音の立ち上がりの良い再生機器を安価に実現してみせる!」 と。私でも思いつく方法の一つは、特定の周波数以上の高周波数成分の原因を大きくするような帯域強調フィルタ回路を付加することだ。上述のように立ち上がりの遅れを引き起こす「時間遅れ」は、ローパスフィルタ適用と実質的に等価な結果を与える。だからローパスフィルタで失われたりゲインが減らされる周波数をプリかポストで補ってやれば良い、という寸法だ。結論から言うと、音の立ち上がりの問題は比較的簡単に解決できる。前提は、時間遅れはあるものの遅れ時間自体が安定した(周囲環境などに影響されない)回路が設計・製作できる一定レベル以上の技術力があることだ。対象の特性が不安定で変化しまくるでは補償なんてできる筈も無く、補償回路自体もやはり安定していなければならない。

  しかしコスト制限が厳しい(安い)場合、立ち上がりを良くすることと引き換えに捨てなければならないものがある。上述した「勾配がめちゃくちゃ大きいローパスフィルタ」の「めちゃくちゃ」は文字通りの意味であり、勾配は-∞(db)が理想だ。シンセのローパスフィルタは基本-12~-24(db)なので、コストを考えると-∞が如何に非現実的な勾配であるかが分かる。だが貧乏には変えられず、補正回路の帯域強調フィルタの勾配を-36(db)とかのレベルに抑えるとどうなるか。これは着目しているフィルタ周波数の付近で、ゲインを保たなければならない低周波数側でゲインが下がり、ゲインを0としなければならない高周波数側でゲインが0まで下げられないないことを意味する。結果として、原音信号の立ち上がり時などに高周波数のスパイクが多数現れる。このような再生信号と現信号との比較を図(c)に模式的に示す。スパイクはまさに理想と現実の差が可視化されたものなのだ。

 このようなスパイクはシンセの発振過程でも見られることのあるもので(例えば、本ブログ内手元のソフトシンセ、矩形波対決!)、シンセでkick音を作る際にはアタック成分として利用しない手は無い。

 音の立ち上がりが良いのは素晴らしいのだが、安さ故に図(c)の再生信号の如く明確なスパイクが現れるの音響製品に対しては、やっぱり頭を抱えてしまう。そういうものだ、と分かっている人間以外には何も良いところがない(≒何を期待してそれを買うのか?)からだ。 図(d)に模式的に示すように、所謂スパイク部分は「原音には無い足された音」になる。故に原音再現性の観点からは駄目駄目だ。

 もしこのような特性を与えられた「ヘッドフォン」が有ったとすれば、ここでは「そんなものは嫌い」と言っておこう。「原音に無い音を足して平気な姿勢」が一技術屋として受け入れられないのだ。スパイク音が付加された方が良い用途?があってその用途に使う分には良かろうが、そういうものなら単なる「ヘッドフォン」ではなく「○○専用ヘッドフォン」と区別を明確にすべきだ。「○○専用ヘッドフォン」ならば、専用用途以外の使用で問題が有ったってかまわない、と言うか問題が有って当たり前だ。単なる「ヘッドフォン」を求める客は、「○○専用ヘッドフォン」を購入候補から外すだろう。これで誰か不幸になる?

 実際問題としてスパイク発生は避けられないが程度問題でもあり、音の立ち上がりを多少捨てれば同価格でも低減可能だし、コストを積めば実質的に立ち上がりの良さとも両立できる。昔からある製品ならともかく、昨今の製品はデジタル処理部分も多い筈なので、未だにこの辺りが問題になるのもどうかとは思うのだが、なかなかに解決は難しいのか実装レベルの話は無知ゆえに分からない。ポストでの信号処理の知識だけからでは、考察レベルでもここら辺が限界だ。

 話は逸れるが、Sonarworks ReferenceやSoundID Referenceといったソフトウェアの登場で、少なくともヘッドフォンについては個別製品の周波数応答特性の違いの意味は失われつつある。ヘッドフォンメーカーが苦労して、自身のポリシーなり美学に基づいて実現した周波数応答特性を、例えば私のようなユーザーは、PC画面上を数クリックするだけで何の躊躇も無く別物に変えてしまう。ここで露になったのは、周波数特性を合わせても低価格製品の音は高価格製品のそれとは違うという単純な事実だ。ならば価格差に見合う価値は、周波数特定には宿っていないことなる。これは経験的に知っている人も多かろう。これが、本エントリで対象とした時間領域での信号応答特性が価格差による音の違いを説明できる因子(しかも本丸?)かもしれないと思う所以である。つまり、周波数応答特性、位相特性と既に来た以上、そろそろインパルス応答特性にも踏み込まざるを得ないだろうと考えているということだ。

 インパルス応答を利用したリバーブは既に多くのDAWの標準プラグインに含まれている。コンボリューションリバーブなどと呼ばれているものがそうだ。使える計算能力が上がれば、DAW或いはDAW周辺技術においてインパルス応答の適用範囲の拡大は必至だろう。デコンボリューション(コンボリューションの逆操作)の計算コストがリアルタイム処理で許容されるレベルになればDAWにもそれ以外の分野にも影響は大きいと考えている、と言うか私自身にすらアイディアが複数ある。

 宗教論争は嫌いなのでちょっと触れるだけにするが、PC用のスピーカーとして10年以上にわたり長さ25cm級のタイムドメインスピーカーを使っている。選択理由はインパルス応答特性の良さで、音量による音の変化が無く音の通りも良いし、左右分離も良い。配置に関して距離はちょっとシビアだが、省スペースで向きも自由だ。東日本大震災にも耐えた。ちなみに私は「タイムドメイン**」の**部分は「手法(テクニック、メソッドロジー)」だと考えている。PCモニターもそうだが、「0(ゼロ音量、PCモニターでは「完全な黒」を指す)」がちゃんと出る仕組みとなっているかは大事、インパルス応答特性も大事だ。 もちろん実装も大事で、駄目なタイムドメインスピーカーは本当にすべてが駄目だった。

 低~中価格製品でも「その辺」をいなすなり誤魔化すなりしつつ時にプラスアルファの魅力を製品に与えてきたのが「味付け」なのだが、そもそも押しつけを嫌うタイプの私のような人間が上記のソフトに触れれば、「味付け」の全否定から入ってしまうのは致し方ない。だが、全否定のための操作ノブを逆に回せば途端に「味付け」が露わになることも自明であり、特定の共通の比較対象を持ってヘッドフォン毎の「味付け」を文字通り味わえることも付け加えておく。

 あと、なんでフィルタの勾配でスパイクが出たり出なかったりするのか、という問題の説明は面倒くさいの割愛する。ただ、この問題は「フィルタの作り方」と表裏一帯の関係にあるので、デジタルフィルターの作り方やその考え方が(アナログフィルターよりも相対的に)分かり易くて参考になる。興味があれば「デジタルフィルター 次数」でググってみて欲しい。「窓(窓関数)」まで理解すれば、EQやスペクトル表示といった周波数領域の手法をどうやって時間領域内で取り使っているかも理解できる。「次数」がミソで、アナログオンリーだったかつてのハードウェアでのフィルター回路実装では部品の数を介して価格に直結したはずだ。

 最後におまけだが、 SoundID Reference for HeadphoneとSoundID for Listenerの組み合わせの登場は個人的に一線を越えてきた感がある。向かっている先は「再生機器や場所や時間を問わずに自分好みにカスタマイズした同じ音で聴きましょう」ってことですからね。私はiPodうち1台をSONY WH-1000XM3(Bluetooth接続)で聴いているが、周波数特性は自作のSennheiser HD599に似せたものにしてある。SONY WH-1000XM3の味付け(周波数応答特性)を全否定し、ノイズキャンセリング機能付きSennheiser HD599の感覚で使っている訳だ。レイテンシの発生は問題と言えば問題だが、音楽を聞くだけなら特に気にもならない。例えばワンチップ構成USB接続って感じでハードウェア実装されるようになったら、みんなでハックして特定のヘッドフォンを別のヘッドフォンで直接シミュレートするためのデータベースを構築しようぜ。

2021/06/05

偶然について、メモ

  昨日の日本から台湾へのアストラゼネカワクチンの無償提供については、そのタイミングに関して早くから「偶然」が指摘されていた。さすがの私も「6/4に直接空輸」のニュース記事を読んだ瞬間に日付の偶然には気づいた。まぁ、5chまとめ記事を横目にしつつ偶然の話、無理筋こじつけ上等、とにかく全てを説明してしまう最大公約数的説明例、ざっとまとめておこう。

COVID-19ワクチン航空輸送提供
JL809       (輸送に使われた航空機のコールサイン)
6月4日 午後2:40  (輸送機の台湾の空港への到着日時)

までが事実。

 恣意的に数字を取り出し、更に恣意的解釈を加えて先頭の数字列を年次とみなすと

19809年 6月4日 午後2時40分。

茂木外相の発言内容の行間には「(友情を踏まえたもので)礼には及ばず」が有るかもしれんので、不自然な年数の数字列中の「"0(零)"は不要」とすると、

1989年 6月4日 午後2時40分。

 ちなみに所謂「六四天安門事件」、ブリンケン米国務長官の言う「六四天安門虐殺」と呼ばれる事案において、当時の台湾の新聞が報じた中国人民解放軍部隊のデモ隊への発砲開始時間は

1989年 6月4日 午前2時40分。

スゲー偶然!と思わせておいて実は12時間ズレている。やはり偶然、ただの偶然。どうせやるなら徹底しろよ!「そうでしたっけ?ウフフ」では済まない大失敗だよ、意図的ならさ。

 と言う訳で、ワクチンの到着日時は「六四天安門虐殺」の発生日時とは無関係のようだ、無関係だね、ね!

2021/05/26

EV普及の道筋が見えない件

 2000年よりちょっと前、会社の上司から「某電力会社の30歳代幹部候補生が結構異動している」との話を聞いた。異動先は某自動車会社などと共同で立ち上げた電気自動車の実証プログラムらしい。が現在、電力会社とEVとを組み合わせた話が話題に上ることは無い。EV普及に電力会社が何らかの役割を果そうとうする気配も全く感じられない。

 バブル崩壊後とは言え、当時の電力会社には未だ勢いもお金もあった。ただ技術開発や戦略の失敗もあった。「オール電化の家」も不幸な失敗の一つだろう。

 さて、上記の電気自動車の実証プログラムの結果は如何なものだったのか?不幸にして私はその詳細どころか概略すら知らない。知っていることと言えば、プログラムに参加した幹部候補生と当時呼ばれた人達が今や幹部となり、一部はその能力の高さ故に厄介で長期的な別のプログラムに従事しているらしいという噂だけだ。東日本大震災が某電力会社の経営及び将来ビジョンに与えた影響は本当に大きそうだ。あと、日本型ではあるものの、電力自由化の有無の影響は無視できないと考えている。例えEV普及が「国策」となろうとも、電力自由化までされてそれに従う義務は無い。もはや経済合理性が意思決定の重要因子だ。

 私に言わせれば、日本はEV普及に関して一種の「先食い」をし、優秀な人材も投入したが、結局構想されたであろうエコシステムはモノにならなかった。私の記憶だと、初期EVの普及開始と家庭用ガスヒートポンプの本格普及は同時期が構想されていた筈だ。しかしかつて近所で時折見かけていたテスラやシボレー・ボルトも見なくなって久しく、EVと言えばリーフぐらいしか走っていない。ちなみにリーフを製造する会社の2000年ごろの経営状態と言えば未だ酷い有様で、EV実証プログラムへの参加なんて考えられなかった。少なくともEVに関しては、この20年で自動車会社間の力関係の逆転が起きたと言える。

 北関東に住む人間の視点からは、余裕が無いのかやる気が無いのかは不明だが、某電力会社がEV普及に何らかコミットする状況は感じ取れない。同様に他の電力会社からも特に感じるものは無い。どうやら電力会社が「充電スタンド」を建ててはくれなさそうだ。多少逆張り気味の国と言えば、原発がいっぱい稼働していて国営電力会社と(実質)国営自動車会社を持つ欧州の某国ぐらいだろうか。ちなみに当時は、水素の形での電力貯蔵も当時のEVエコシステムの一端を担うことが期待された。現在はもう研究されていないようだが、水素ガスを吸着する(内部に溜め込む)合金の開発研究が研究室レベルで盛んだった時期がある。

 かつての日本でのEV普及のシナリオには、電力会社が寄与する部分が多い形で起草された。が、今はかつてのシナリオで電力会社が占めていた部分を埋める存在が見えない。これが私にとって「EV普及の道筋が見えない」理由だ。

2021/05/25

SONY WH-1000XM3、DAWモニタリング用に復帰する

 DAW触ってる限りはモニタリング用ヘッドフォンを物色し続けるんだろうなぁ。

 で、エントリタイトル記載の状況発生の原因なのだが、もちろん一つではなくてざっくり以下の3点に集約される。

  1. DAW(Cubase Pro)を動かしているPCのBIOSがアップデートされたら、ヘッドフォン端子の挙動がおかしくなった。
  2. DAW(Cubase Pro)を11にバージョンアップしたら、BluetoothヘッドフォンがDAWのアウトプットに指定できなくなった。
  3. DAWのモニタリング用ヘッドフォンについて改めて考える機会があった。

 まず前段について簡単に記す。

 2019年に購入したヘッドフォンSONY WH-1000XM3は、ノイズキャンセリング機能には文句のつけようがないのだが、如何せん周波数応答特性に「味付け」が過ぎた。ここで言う「味付け」とはメーカーが意図的に施した周波数応答特性の調整を指す。低音の強調とかが典型的な例だ。味付けが過ぎることの問題は、聞こえる音が音楽の作り手、送り手が意図したものからどんどん離れていくところにある。逆から言えば、「味付け」が過ぎるヘッドフォンで「いい感じ」に聞こえる音は、他のヘッドフォンやスピーカーで再生した際に聞くに堪えないものになる可能性があると言うことだ。故に、SONY WH-1000XM3はDAWのモニタリング用ヘッドフォン、特にマスタリング時にはとても使えないと言う残念な結論に一旦至った。まぁ、下調べが足らんかったと言えばそれまでなのだが、まさかあの価格帯で、しかもノイズキャンセリング機能を売りにする製品で、あんな強い「味付け」が為されていようとは思わなかった。

 じゃあマスタリング以外での使い勝手はどうかと言うと、Bluetooth接続によるレイテンシ(ここでは、音の再生遅れ)が大きくて輪をかけて使えない。聞こえる音の音量などの変化とDAW上のメーターの上下動とのズレの所為だけで、私は数分で酔ってしまう。

 とは言え高い買い物ではあったし、PCならば周波数応答特性はいじれなくもない。そこで昨年当初に試したのがSonarworks Reference4 Headphone Editionと言うソフトの試用版だ

 このソフト、測定結果に基づくプリセットデータがあれば、ヘッドフォンの周波数応答特性を「味付けが無い状態(以下、周波数応答特性がフラットな状態、または単にフラットな状態、と言う)」に限りなく近づけてくれる。別の言い方をすれば、作り手、送り手が意図した音に近づけてくれる(筈)。あくまで「私の耳」での話だが、ソフトを介して特性をフラット化したSONY WH-1000XM3とSennheiser HD599(半開放型)との音は様々な音源で区別ができなかった。敢えて分かる差があるとすれば、クローズハイハットのような高周波数を含む音の輪郭がSONY WH-1000XM3の方がはっきり聞こえる(粒立ちが良く聞こえる)ぐらいだろうか。が、これは密閉型+ノイズキャンセリング機能のおかげが大だろう。とは言えBluetooth接続のレイテンシの大きさは如何ともし難く、加えてSonarworks Reference4を介することでも追加のレイテンシが発生するから、やはりDAW操作時のモニタリング用途には使えないとの結論に至った。

 ただ、DAW操作時のモニタリングのメイン機として使っているSennheiser HD599の周波数応答特性にもSonarworks Reference4を介せば私の耳でもすぐ分かるレベルの「味付け」は有ったので、暫くしてSonarworks Reference4 Headphone Editionを購入した。ちなみにこのソフトにはDAW用のプラグインも同梱されている・・・と言うか、本製品の真価が本当に問われるのはDAW上でだろう。

 これでやっと前段の説明終了だ。DAWのモニタリング用途も意図してSONY WH-1000XM3を購入したものの、1年以上も塩漬け放置状態となっていたと言うことだ。では、SONY WH-1000XM3の復帰?を促した上述の3つの原因に触れていこう。

 まず原因その1。私のメインPCはDell社の2020年モデルなのだが、最近うっかりBIOSをアップデートしてしまった。具体的には1.0.5から2.0.11へのアップデートだ。不用意なBIOSのアップデートを原因とするオンボードのオーディオ機能の不具合に悩まされる経験が重なったことからBIOSのアップデートは避けてきたのだが、今回はMicrosoftアップデート内に紛れてアップデータが配信されてしまい、チェック漏れから万事休すとなった。

 今回のバージョンのBIOSでもオーディオ周りに幾つか不具合が発生している。例えばPC動作中にフロントのヘッドフォン端子からヘッドフォンを一旦抜くと、ヘッドフォンを刺し直そうが別のヘッドフォンを刺そうがOSがヘッドフォンを認識しない。より厳密には、OSから見てヘッドフォン端子自体が無い状態となる。ヘッドフォンの再認識には、ヘッドフォンを端子に刺した状態での再起動が必要だ。このような状態発生のひとつの回避方法は、ヘッドフォン用の延長ケーブルをPCフロントのヘッドフォン端子に刺して絶対抜かず、ヘッドフォンの交換は延長ケーブル経由とすることである。もうこの時点でハードウェアとOSの連携が取れなくなっていることが分かる。この連携を担うものこそがBIOSなのは言うまでもない。

 結果として延長ケーブルのメス側端子が常にが手元にある状態となり(PC本体はお気持ち遮音と綺麗なエアフロー経路の確保を目的とした簡便な仕切り板の向こう、1m強離れたところに置いてある)、ヘッドフォンの交換の億劫感がエラく下がった。

 次いで原因その2。メインDAWであるCubase Proのバージョン11へのアップデートに合わせてGeneric ASIOドライバーもアップデートされたが、BluetoothヘッドフォンがDAWのアウトプットの選択肢として表示されなくなった。ASIO4ALLやFLStudioASIOと言った他のASIOドライバーでは選択肢として表示されるので、これはOSではなくドライバーの問題だろう。ただ私の環境では、DAWとASIOドライバーとの相性からGeneric ASIOドライバー以外の選択肢は無いので、SONY WH-1000XM3をCubase Proで使いたければ有線接続するしかない・・・ん?、有線接続ならBluetooth接続を原因とするレイテンシは気にしなくて良くなるぞ、アレ?

 最後に原因その3。まず、Sonarworks Reference4 Headphone Editionを後継製品のSoundID Reference Headphone Editionに最近アップグレードした。利用しているオンライン決済サービスからのクーポンなどを最大限活用し、かなりお得にアップグレードできた。次いで、Youtubeでお勧めされたシユウさんの動画 「【最強ヘッドホン】全ての音が見える『YAMAHA HPH-MT8』は、聴いてるだけで音作りが上手くなるぐらいヤバい。」を観て、さらにSonarworks Reference4でYAMAHA HPH-MT8の周波数応答特性を確認したところ「(少なくとも周波数応答特性に関しては)成程!」となったことが大きい。

 SONY WH-1000XM3の周波数応答特性は下図の紫のラインだ。黒い水平な直線が「味付け」の無いフラットな特性であり、私がモニタリング用ヘッドフォンに求めている理想の特性、作り手や送り手の意図した音が再現できる特性だ。50Hz以下の領域でも実際よりも大きな音で再生する特性となっているので、音がモコモコし易い。また1k~5kHz付近の音を実際よりも小さく再生する特性は多くのヘッドフォンで見られるが、6dbを超える再生音量の低減はやり過ぎだ。

対してYAMAHA HPH-MT8の周波数応答特性は下図の通りで、明らかにSONY WH-1000XM3よりもフラットだ。

 

 周波数応答特性がフラットな方が「音が良くなり得る」或いは「聞き心地が良くなり得る」理由は考えてみれば単純で、「プロが楽曲のマスタリング時などに使用している機器の音周波数応答特性が基本的にフラット」であるからに他ならない。作り手、送り手の意図通りの音が再現されるから、と言い直しても良い。

 「じゃぁさっさとYAMAHA HPH-MT8を買ったら?」と思ったあなたは正しい。だがヘッドフォンは実際に装着してみないと分からないことも多く、新型コロナ禍下の田舎暮らしの身にはなかなか実物に触る機会が作れない。まぁ金銭的に余裕が出てくれば、実物を触らないまま何かをポチりそうであることは否定しない。

 一方、「SoundID Reference Headphone Editionとやらがあれば、別にYAMAHA HPH-MT8なんて買う必要なくね?」と思ったあなたもかなり正しい。実際、ここで触れていないものも含めて様々な要因から現状の私はそういうポジションを取っている。故に「有線接続前提で」SONY WH-1000XM3がDAWモニタリング用に復帰した訳だ。何のかんのとノイズキャンセリング機能の利点はバカにできない、バッテリーの持ちも良い。物理的にはやっぱり重いけどね。

 とは言え、SoundID Referenceにもレイテンシがある。20~60ms台なので基本打ち込みしかしない私には許容範囲だが、録音する人には耐えがたいレイテンシだろう。故に「SoundID Referenceがあれば良くね?」と言うのはあくまで私のようなDAWの使い方をしている人間にしか当てはまらない訳で、YAMAHA HPH-MT8とかを使って低レイテンシとフラットな周波数応答特性の音を両立するのが王道なのは変わらない。

2021/05/19

6/1からのYouTube利用規約更新に対する危惧

 いや、マジな話。つい最近発表された「6/1からのYouTubeの利用規約更新」の内容の一部が議論を呼んでいるみたい、と言うか、この種の文章の常として具体性を欠きぎみの文章に対して憶測が止まない、と言ったところだろうか。[追記(2021/5/20)] 米国では先行適用されているみたいですね。でも「ゆっくり」を例に挙げるまでも無く、日本のYouTubeの「文化」には多くの固有性があるのも事実。[追記ここまで]

 YouTubeの規約ページからコピーしてきた問題の部分は以下の通りだ。日本語訳は私によることは留意されたい。

You grant to YouTube the right to monetize your Content on the Service (and such monetization may include displaying ads on or within Content or charging users a fee for access). This Agreement does not entitle you to any payments.

YouTubeサービス[原文は "the Service"]上のあなたのコンテンツを収益化する権利を、あなたはYouTubeに対して与えるものとします。(そしてそのような収益化では、広告をコンテント内やコンテント上に表示する場合や、ユーザーにコンテントへのアクセス料を課す場合があります。)この契約は、あなたに支払いを受ける権利を与えるものではありません。

 まず最初の一文は書きっぷりは結構具体的なので内容は明確だろう。2番目のカッコ内の文章も具体的と言えば具体的なのだが、"may"や"or"の使用のせいで具体的な収益化手法についてはYouTube側にほぼ無制限のフリーハンドを与えている。最後の文章の意味は単純で、所謂「パートナープログラム」などを介して収益をYouTubeと分け合うことにしている以外のコンテンツ制作者には、どれだけ彼らのコンテンツからYouTubeが収益を得ても一銭も払わないよ、と書いてある。

 さて、私のように収益化を考えるどころか視聴者がいなくても良いよと本気で考えているYouTubeチャンネル所有者は、営利企業であるYouTubeにとっては自社インフラに寄生するフリーライダーに過ぎない。そんな存在に対して自社インフラの利用を許すことは、皮肉無しで何とも慈悲深いことだとは思う。だが、90年代のハッカー文化に接し、その観点からプラットフォーマーとしてのこれまでのYouTubeのあり方を「良し」としてきた身としては思いは複雑だ。そして、とっても大きな別の危惧がある。

 私にとっての「良し」とは何だったか。将来のクリエイターにとって理想的なプラットフォームの一つの形は、無料または低価格で利用でき、制限が極力少ないことだ。少なくとも2、3年前までのYouTubeはそんなプラットフォームだった。

 JASRACとの包括契約は、少なくとも国内においては、カバー曲のアップロードに関わる権利問題を実効的にクリアにした。そうすることで弾いてみたネタやボーカロイドカバー楽曲のアップロードが可能となった。ただし収益化は不可能、YouTubeからJASRACへの支払いは生じるので、基本的にYouTube側に旨味は無い(動画の右下にカバーの原曲の小さなバナー広告が表示されていた時代もあったが)。

 収益化も「パートナープログラム」を介した形とし、クリエーター自体や彼らの創作物に対するリスペクトを感じさせる流儀を採用した。実態のほどは別にして、「クリエーターとは共存共栄、ここで生まれ、育ち、成功してください。そして商業的に成功した際には得た利益の一部を分けてください」と言うようなマインド、或いはマインドの欠片を感じさせてくれていた。ただ繰り返すが、この2、3年、「パートナープログラム」の成功以降は微妙にYouTubeの姿勢は変わってきた。

 実のところ、経済的視点からは「可能ならば私のコンテンツを収益化し、収益をYouTubeが全て持っていってくれて構わない」と言うのが私の考えだ。真面目な話、私のチャンネルには再生回数が1.7M回以上の動画が1本あるのだが(関連エントリ)、私は言わずもがなYouTubeはその動画自体からは1セントも収益を得ていない。ピーク時には2、3再生/秒を数日続けていたから、この動画再生のためだけにYouTubeが使った電力も馬鹿になるまい。儲けてもらって構わない。

 だが、この動画の収益化には解決しなけらばならない問題がある。登場物の意匠や楽曲の使用に関わるややこしい権利問題だ。典型的な逆パターンが「ゆっくり音声+フリーor自作立ち絵+魔王魂さん+いらすとやさん(10枚以内)によるコンテンツ」と言えよう。

 ここまで来れば、「YouTube上の全てのコンテンツの収益化」の現実性はほぼ権利問題に依存することが分かるだろう。もう一歩踏み込めば、「収益化に解決すべき権利問題が存在するコンテンツ」はYouTubeにとって経済的価値が無いどころか、不良資産として悪目立ちしかねない。ボーカロイドカバー楽曲はそのものズバリだ。

 今回の規約変更により、YouTube上のコンテンツは経済的観点から三分化される。収益化するもの、収益化できるがまだ収益化していないもの、そして収益化が経済的に見合わないものだ。前出の「収益化に解決すべき権利問題が存在するコンテンツ」は3つ目のコンテンツ種に当たる。このような状況に対してYouTubeが具体的にどう対応していくのか、有り体に言ってしまえばこれまでの「無料・自由」がそれぞれどのように変えられていくか、はまさに今後のYouTubeの有り様、ひいては利用者・視聴者の文化も決める。私のような「収益化が経済的に見合わない」コンテンツだらけのフリーライダーの扱いが今後どうなるかは全く見通せないが、「収益化できるがまだ収益化していないもの」の芽やコンテンツの多様化を支え得る現在「の」フリーライダーを切ることがあっては誰も幸せにならない。

 さて経済や経営関連の書籍を多数お読みの方なら結構共鳴して頂けるのではないかと思うのだが「米国のIT企業経営者はこの種の選択を必ず誤る」。彼らは実は「文化」を誤解しているか、理解していないため、従来のファンからの愛と忠誠心を失うのだ。特にプラットフォーマーは自身で「文化」を作ることはなく、作っているのはユーザーなのがミソだ。プラットフォーマーが絶対「老舗」になれない所以である。

2021/05/18

1001エントリ目!

とは言っても、私にとってもあなたにとっても特に意味は無いだろう。ホントに意味が無い。

 当ブログは、契約しているインターネットプロバイダの無料サービス上で始めた。開始時のタイトルには最後の「*」は無く、元ネタはマンガ「鋼の錬金術師」の確か1巻のカバー折り返し部の荒川弘氏の一文からだ。始めた時期は東日本大震災よりも早い2009年ごろで、位置付けは鬱病からのリハビリの一環だった。故にエントリの内容は雑多だし、マネタイズは考慮すらしたことない(Googleさんには申し訳ない)。アピアランスは見直すたびにスマホフレンドリーから遠ざかっている。ビュー数も、知れているなんてレベルを遥かに下回る。昨今はGoogleとBingのクローラぐらいしかアクセスしていないと思われるエントリも多いが、少なくとも今の私にとってはそれで充分に価値がある。どんなに細いものとは言え、不特定多数との接点があることそれ自体が今後何らかの価値を生み出す可能性を「否定はしない」だけだ。

 趣味でも自己満足でもなく、自己承認欲求とは無縁で、正直何のために続けているのかも分からない。ただ、「世の中、良く分かんねぇことばっかりだなぁ」といった個人的思いのはけ口として利用することはままある。書かないだけで、実体験でもネタ自体には実は困っていない。匿名性は担保するが、「たまたま飲み屋のカウンターで席が隣り合った身も知らぬサラリーマン」ぐらいのレベルの匿名性が望ましい。別な言い方をすれば、「匿名性を傘に着て」とか「匿名を良いことに」とか後ろ指をさされるようなことは絶対したくない、って感じだ。あと「口だけにはなるな」、かな。

 2000年代はサラリーマンとしての仕事が忙しく、狭い世界とはいえ社内外で多少顔も売れて名指しで仕事を受けることも増えたりしたので、自己承認欲求が十分に満たされていたのは偽らざるところだった。加えて3Dモデリングに関しても、ホントにピンポイントの分野内だけ(ただしVFX業界のプロもいる)でだが高評価も得ていた(10年前の自作のモノに対して、つい最近になっても"You're the best at creating BSG models!"なんてコメントがもらえるとは、何て幸せなことだろう!)。故に本ブログもYoutubeチャンネルも、「まぁ、気に入ってくれる人が一人でもいればね」ぐらいの距離感でいじってきたし、放置したことは無いし、それらはこれからも変わらないだろうとは思う。1000本もあれば1本ぐらいは「当たり」のエントリもあるしね。

 そして本ブログやYoutubeチャンネルを辞めると決めたり、放置状態にならざるを得ないと判断した場合には、予告の上躊躇無くコンテンツを全削除するだろうと確信する。ホント、東日本大震災が私から奪ったものの一つは、間違いなく「自分の作ったモノや為したコトへの執着」と言えるだろう。いやぁ、諸行無常。取り組んだ物事は、自他ともに認められる形できっちり終わらせてナンボだと心から思う。為したコトを他者と共有できるように仕上げることは、本当に新しいコトを始めるために必須なものだ。

 閑話休題。

  2014年のプロバイダでのサービス終了に合わせて現在のGoogleのサービスに引っ越した訳だが、その際に鬱症状に関連するそれ以前のエントリを基本的に削除した。結果として2012年より前のエントリはもはやどこにも存在しない。2005~2012年は3DCGモデリングを趣味としつつ、主にカナダの3DCGコミュニティのスレッドに入り浸っていた(英語を勉強しながらなので、個人的には十分厳しめで時間も喰うチャレンジだった)ので、そもそもエントリ数からして少なかった。

 アーカイブの欄を見ると、年によってエントリ数の増減が激しい。しかし、2019年を除けばエントリ数の大小に健康状態の影響はほぼ無い。むしろ、ネタの有る無し、生活が忙しかったかどうかの影響の方が大きい。

 まぁ1001エントリ目ではあるが、昨日に1エントリだけ非公開にしたので、現在公開されているのは1000エントリだけだ。投稿当時は気にならなかったんだけどね、改めて読むとちょっと下ネタが行きすぎかなってのを見つけちゃいましてね。

2021/05/16

ディストーションvstプラグイン「なに?!?」

 う~ん。「vstプラグイン」と言ってもDAW触ってない人には何のことすら分からんだろうしねぇ。個人的にはディストーションはほとんど使わないから出来の方は分からんし、「ネタとして面白いか?」と言うのも微妙だし、まぁ「あ、知ってますよ、それ。」って後で私が言えるためのアリバイ作りのためのエントリだね、今回は。

 あ、今回が1000エントリ目ですよ、本ブログ。 「非公開にするぐらいなら全部消す」主義なので、公開分だけで正真正銘1000エントリです。

 改めまして、「なに!?!」又は"NANI"はディストーションプラグインだ。Youtubeのおすすめにレビュー動画が出てきたのでその存在を知った。そのプラグイン昔からあったやん、と言われても私が知ったのは今日だ、今日なんだ、こればっかりは仕方ない。レビューアーが"but in all seriousness・・・(いや、マジで)"っぽい表現を使っていて、モノのネタ部分のせいでノリ自体に苦慮している様がうかがえるが、このエントリを書いている私だってそうだ。

 価格は$20(税抜き)で、レビュー動画の詳細欄にディスカウントコード(-10%とか)が書かれていたりするので、購入を考える場合は是非チェックを忘れずに。公式ページはここ、無料のデモバージョンもある。複数マシンで同時使用可のライセンス、ライフタイムフリー(一生涯無償バージョンアップ)ということなので、使い続けるならお安いのは確か。購入版は修正無し(Uncensored)、バージョンアップはアートワークのアップデートも含むとか辺りは、取り合えず笑って流しておきますね。

 プラグイン自体の説明は面倒くさいから吹っ飛ばして私自身がちゃんと触っている訳ではないので飛ばして、公式ページからコピーでお茶を濁しておこうを紹介しておこう。

"If only I had a plugin with large anime breasts"
- Every producer.

「アニメ調巨乳を備えたプラグインさえあればなぁ…」

- 全てのプロデューサー


  いや、ディストーションの良し悪しは本当に分からんのですよ、いやマジで。でも、レビュー動画内の音を聞いていると、なんか感じ良さそうではある。ただこのネタ・・・ロケットパンチ回収問題みたいなもので・・・服が元に戻る描写や元に戻ること自体に色々引っかかりを感じてしまう自分が居る。我ながら本当に面倒くさいヤツなのだ。そのような視点からは、空中元素固定装置の偉大さはコスモクリーナーに勝るとも劣らないのな。じゃぁ「揺れるのはどう?」と問われれば、「好みの揺れ方はある」とまずは答えておこう・・・俺は揺れる方が好

 あと、購入は18歳以上になってからだぜ!・・・と思いきや、ボタンは「無視(DENY)」と「確認(CONFIRM)」しかないじゃないですか、やだー。