今回は縦方向の音の位置の話。
音の高い/低いはピッチだけじゃなくて、音の縦方向の位置にもざっくり当てはまる。バスドラムのドン!という音は下から、ハイハットのチキチキした音は上からそれぞれ聞こえる傾向がある。では、これらの上下方向の音位置の調整はどうすればできるだろうか?
イコライザで周波数成分をいじる、例えば上から聞こえる様にしたければ低周波成分を削り、高周波成分を強調すれば良い。が、この方法だと、人声やVocaloid音声のように幅広い周波数帯域に渡る複数の周波数成分の音量バランスが重要な音では、音の特徴そのものが変わってしまう。人声やVocaloid音声で高周波成分を削っていくと、徐々に発音が曖昧になっていく。これは所謂「フォルマント成分」まで削ってしまうためだ。
では原音の周波数特性を変えずに音を上下方向に動かすには具体的にどうすれば良いだろう?
一般的な方法は、リバーブエフェクトで高周波側を強調することだ。つまり原音の周囲に、原音と較べて高周波成分を多く含む音をまとわりつかせてやれば良い。Cubase7では4種類のリバーブがプリセットで用意されているが、Roomworksの場合を例に挙げよう。
これが、"Music Plans"で「Vocaloid音声を上に上げる」ために用いたリバーブ設定。ただしこのエフェクトはセンド(音声をエフェクト用の別チャンネルに送ること、Cubaseでは「FXチャンネル」に送ること)先で利かせているので、リバーブ成分の音量は原音とは独立して調整している。ポイントは、中央左寄りの青い横向き三角形の辺りの表示。
先に書いたように、リバーブ成分の音量に関わる右上のMixの値は気にしないで欲しい。デフォルト設定では青い横向き三角形の上下に白い横向き直角三角形が見える。この設定では白い直角三角形の横向きの長さは同等だ。これは、高周波域(上)、低周波域(下)ともにリバーブ成分が同等に含む事を表している。
一方、最初に示した図では、白い横向き直角三角形の横向きの長さが上下で違う、下が極端に短い。これはリバーブ成分の低周波成分(下)が短時間で減衰するということだ。結果としてリバーブ成分は原音に較べて高周波成分が卓越する。よって、原音と同時に鳴らすとリバーブ成分に引っ張られるイメージで原音もより上からに聞こえるようにできるということだ。何処をどういじれば良い感じにできるかは試行錯誤して欲しい。この種のノウハウはケースバイケースの場合が多いし、実際にやってみたことしか当人の身に付かないからね。まず白い横向きの直角三角形の長さを変える方法を確認することから始めてみて欲しい。実際、私も2年ほど前は「この表示の意味は何?」って感じだったんだから。
ちなみに"Music Plans"ではシンセ音の定位に上記の方法を多用していたので、この方法だけではVocaloid音声の他の音との分離が十分にできなかった。そこで、ちょっと変化球を使ってみたところ意外に上手くいったのでちょっと触れておこう。「原音の高周波数成分を強調しただけでは効果が薄い」ならば、「原音に無い高周波成分を、原音を元に付け加えてみよう」という趣向だ。具体的には"Modulation"カテゴリの"Metalizer"を使ってみた。
右端のスライダーが原音に対するエフェクト音の割合(エフェクトレベル)だ。このスライダを動かすだけで、面白いように音の聞こえる位置が上下した。"Metalizer"自身は音を強烈に歪めるエフェクタだから、バックトラック無しで聞くと音の特性が変わっている事は直ぐ分かってしまう。が、ドラムやシンセといったバックトラックと一緒に聞くと、低いエフェクトレベルでは音の特性の変化よりも音が聞こえてくる高さの変化の方が圧倒的に大きい。理詰めでいったん考えて気楽に試してみる、実際日々そんなもんですよ。