2021/06/17

メインPC、CPUのダウンクロック(その2)

 先行するエントリで、Intel i7-10700を搭載したメインPCのCPUをダウンクロックしたことについて述べた。 全力動作時にCPUパッケージ温度が100℃に達することを嫌い、TDP最大値を120Wから80Wに下げたのだ。そもそもの原因はCPUクーラーの冷却能力不足なので対処療法に過ぎないのは悲しいことだが、最大パワーを約10%捨てる(最大クロック4.1GHz→3.6~3.7GHz)ことで、CPUパッケージの最大温度を90℃以下とし、CPU冷却ファン作動音の1ランクの低下を得た。

 が、その後更にTDP最大値を70Wまで下げることにした。これはIntel i7-4790を搭載した先代のメインPCではパッケージ温度が85℃を越えなかった結果を受け、CPUパッケージの最大温度ターゲットを85℃以下に見直したことによる。結果、最大クロックは3.5GHzとなって更に4%弱パワーを捨てたことになるが、全力動作時のCPU冷却ファン作動音は更に低下した。Cinebench R23(マルチコア9296)を信じるなら、それでもマルチコア性能はIntel i9 9880H(マルチコア9087)を超える。

 まぁ全力動作時のパワーとして、ついに1コア分を捨てたことになった。

 アプリによっては使用スレッド数やコア数を制限できるものもある。しかしCPU温度制限によるサーマルスロットリングで最大パワーが決まる今回の状況下では、アプリで使用コア数やスレッド数を減らすよりも各々のコアのパワーを若干削ってでも全コア或いは全スレッドを使った方がより大きなパワーを確保できる。同時にCPU温度も下げられるし、PCの静音化もできる。

 あと用途によって大事なことは、これらのクロックダウンはTDP制限を下げた結果に過ぎないことだ。これは、TDP制限やデフォルトのCPU温度制限(100℃以下)に引っかからない場合、コア単体の最大能力は下がらないということを意味する。Cinebench R23のシングルコア性能測定時は、次々と使用するコアを切り替えながら常に単一のコアしか全力では動作させない。このようなコアの使い方をした場合、CPUパッケージのTDPはせいぜい40W程度だし、パッケージ温度も80℃すら越えない。換言すればスロットリングは一切行われない。結果としてベンチマーク中のコアクロックは4.6~4.7GHzに維持され、ベンチマークスコア(1230前後)も基本的にTDP制限が120Wでも70Wでも変わらない。MS比は7.5だったので、現行設定では0.5コア分のパワーを捨てていると評価されたような感じだ。

 ただマルチコア/スレッドとシングルコア/スレッドとにおける単一コア/スレッドの計算パワーの関係は、単一コア/スレッドに割り当てられる計算量(所謂、粒度)や同時に使うコア/スレッドの総数、更に各種レイテンシによって変わるので単純ではない。この辺りの機微は、12~15年間に並列科学技術計算に関わった経験がある人には良く分かるのではないかと思う。

 以下雑談。

 当時の議論対象は、①そこそこの大きさのメモリと高速なCPUを組み合わせたものを多数並列化したシステム(分散メモリシステム)と、②大きな単一のメモリにそこそこの計算速度のCPUを可能な限り多数接続したシステム(共有メモリシステム)の2つのシステムの利点・欠点だったものだが、もはやこの種の議論に意味は無くなっている。①はPCクラスターを経て、②はGPGPUとニーズに合わせて並列共存する形で、計算機技術としてはともにクラウドコンピューティングに収れんしてしまった。計算速度特化と言う意味でスパコンは未だ特殊だが、傍目からの素人目線では、とにかくデータ転送・通信のレイテンシの低減、隠ぺい(物理的には分散メモリだが、動作は限りなく共有メモリに近くする)にコストがかけられる最後の技術分野と言ったところだろう。クラウドコンピューティングではレイテンシ低減の代わりに闘いは数だよ兄貴!数にコストをかけ、併せて冗長性も確保する。 

 なお①はDAWや3DCGIのモデリング向け、②は3DCGIやあらゆるコンポジット(合成)プロセスのレンダリング向けだ。動画エンコーディングは②のほぼ最終のプロセスに当たる。

 爺さんになりつつ身の私から見ると、今のPCは色んな意味で①と②のキメラになってしまった。マルチコアCPUを搭載したシステム概念として既に①と②のキメラであり、グラフィックス機能のCPUへの内蔵は物理的にも①への②の内蔵だ(Intelのララビー・アーキテクチャを覚えている人はいるかな?)。グラフィックボードの導入は①+②のシステムの具体的な実装であり、①と②のどちらを選ぶべきかと言ったかつての真面目な議論をあざ笑うかのような状況以外の何物でもない。DAWやCGI、そしてグラフィックリッチだったり最善手を常に追い続けるような対戦ゲームのためのハードウェアだ。だから現在のPCはとても「皆のもの」と呼ばれるものではなくなった。だからPCを使えない、触ったことが無い若者が居るなんて話を聞いても驚かない。要らん人には要らんでしょ、こんなもん。だからと言ってChromebookはセンス無さすぎでしょ。

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