2021/07/10

ウチんとこの自治体は・・・

 もう2か月くらい前のことだが、訪れていた病院の待合室の外れ、ちょうどスタッフ以外立ち入り禁止区域との境辺りに人だかりができていた。外来診療時間も終わる時間帯のタイミングということで、どうやら医療関係者枠の新型コロナワクチン接種者の集団だったようだ。ただ、その集団の端でダラダラしている、全然病院勤務者っぽくない若い男性3人が気になった。視線の動きから分かる、目的がないままそこにいる人間特有の挙動にしか見えなかったことが原因だ。

 その光景に何か記憶にひっかかるものがあったが、その場ではそれ以上は特に思い出そうとはしなかった。あっ!と思ったのは病院から自宅に帰った直後で、かの大震災の際に給水車を前にどうしていいか分からず半ば立ち尽くす役所の人間の姿に似ていた・・・。かくいうような何の根拠も無い単なる私の個人的な連想・・・からウチの自治体は上手くワクチン接種を進められていないのではないかと・・・繰り返すが本当に何の根拠も無く・・・思っていたのが今週頭までの話だった。

 お!と思ったのは今週半ば、所謂接種券が配達され、接種予約方法と予約開始日時が公開されたからだった。思っていたよりも早かったし、そもそも上述のように自治体の動き具合に疑心暗鬼となっていたのも大きかった。何気にやるな、ウチの自治体。

 ところが今週末にして、はや大逆転となった。病院から帰宅すると、「接種時期と接種予約開始時期が未定となった」旨の通知がポストに入っていたのだ。

 まぁ、それ自体は良いよ、仕方ないよ、因果応報よ。でも、通知の”文面”と言うか、本文中の文字装飾の使い方がとっても不愉快、下品にして下劣でねぇ。「太字+下線」で最大級に強調されていた文は「国からのワクチン供給不足に伴い・・・」というところだけで、直前にスマホで「国は、某システムへの登録内容に基づき、6週間分の備蓄を持つ自治体へのワクチン供給量を制限する」との報道を見た身としては本当に呆れ果ててしまうしかなかった。この通知で一番大事な、通知を受け取る人間に伝えたい内容はそこなのかい?「国の所為で遅れます」とでも主張したいのかな?そんな主張が今時通じるとでも?そりゃ変更後の内容も「太字+下線」になっているけど、それは本文とは別の表の中だし、その文章も推敲されたとは思えない割と酷い文章だ。力を入れるべき場所が間違っている。

 国内の幾つかの自治体の公式ページを興味本位で調べたとところ、7~8月の接種数が下がることを原因としてウチの自治体と同様の動きをしているところは少なくない。が、これはたまたまなのかもしれないが、「これは国の所為」みたいな表現には(既に報道のある某市は除く)出会わなかった。そりゃそうだ、国からの供給量が自治体の従来予測より減少するのは事実だが、そうなった原因が大なり小なりい自分の側にあることを、マトモな自治体なら既に理解している。わざわざブーメランになるような文書等を公開したりなんかしない。また、地元新聞ウェブページの本件にからむ最初の報道内容を信じれば、県内でワクチン供給量が半分にまで減らされた自治体はホント数ヶ所だけやで。

 と言う感じで、ウチの自治体は7、8月はワクチン接種のハンドリングで負け組決定済です。負け組と言うか落第組ですね、勝ちはそもそも無い。

2021/07/06

母より電話あり

 少なくとも私が物心つくころには、両親は朝〇新聞を取っていた。それは値上げした筈の今も変わらない。実家に帰省した際に彼らに「新聞を辞めないか」と言ってみたこともあったが、「朝日の必然性はないが新聞は欲しい」と言う母親に「代わりの新聞」を提示できなかったのであきらめた。

 そんな母親が、最近の電話で一言。

「〇階と山〇ら公〇党なんとかしたいんだけど、何か方法無い?」

まぁ、そんな朝〇新聞読者も居るので、ね。彼らは絶対投票に行くよ。

 なお、父親はグーグルアース大好きといった具合にインターネットに繋がったつPCが手放せない一方、定年後も長いのに飲み友達とかが未だ多い。

2021/07/01

「秩序」を与える存在である限り、中国共産党の存在は人民により是とされる

  今回は紛れも無く爺の戯言。

 とある人が自著で「『民族自決の原則』なんて唱えた人がいたもんだから地獄の窯の蓋が開いた」旨の 文章を書いた。それを始めて読んだ私は、成程、と膝を打った。本日100周年を祝っている中国共産党(中共)の中華人民共和国支配がどうしてこんななに続くのか、米国はアフガニスタンをいずれ失うだろうという直観的な未来像、それらの一因を見た気がしたからだ。

 どこで読んだか聞いたか忘れたが、「中華の人々(≠中華人民共和国人民)は基本的に秩序を与えてくれる存在を求める」という言葉を記憶している。ここで秩序とは、極端な話で言えば「食えること」、つまり食料品市場に常に(塩を含む)品物が並び、屋台が商売をしていて朝食を食べたり買ったりできる状況を指す。背景には中華の長い歴史、風土とその土地の大きさが挙げられるが、直近では国共内戦の記憶もあるという。国共内戦の時代は流通は麻痺し、食うのにも困った人々が溢れた。故に、「食える状態」を与えてくれる権威的存在は無くてはならないものとなる。それが中共である必然性は全く無いが、逆に中共ではダメな理由も無い。

 国共内戦後、中共は支配地域に秩序を与えた。支配地域内の人々の多くはその秩序を受け入れた、或いは受け入れることを自ら決めた。共産主義を嫌ったり、国民党を支持したりと様々な理由で中共の「秩序」を受け入れなかった人々の一部は香港や台湾へ逃げた。今は無き香港九龍城が生まれた一因である。

 このような視点に立つと、亡命した元中共エリートが「共産党は張り子の虎であって、時を待たずして自壊する」と語ろうと、その発言は説得力を著しく欠く。ほぼ間違いなく、発言者は「秩序を求めた経験」を持たないか、家族や地域に記憶されている「秩序の渇望」を忘れている(場合によっては、何らかの意図をもってそこに触れない可能性もある。反中共メディアもプロパガンダ機関の一面を持つことを忘れてはいけない)。現在の秩序を受け入れている人々にとっては、一時的であっても現在の秩序が失われるようなことがあるならば、中共の自壊なんぞ望まないだろう。

 故に、自壊をも含む中共の崩壊や消滅は、「秩序」を与えてくれる別の存在が明確な状況でなければ、現在の中華の人々には受け入れられないし、求められもしない。歴史的に見れば別の存在たり得るのは侵略民族による王朝や宗教団体なのだが、前者は国民党への浸透、後者は徹底的な弾圧でそれらの台頭の芽を中共は徹底的に潰してきている。中共の抜け目の無さが際立つ点だ。

 他方、実のところ堅牢な官僚機構を既に確立した国家は、政変に対する「秩序の維持能力」が高い。ソ連然り、第二次大戦後のドイツ、日本然り、フセイン・イラクの官僚機構を引継いだダーイシュ然り、そして現在の中華人民共和国も然りだ。法輪功弾圧を苛烈にした大きな原因として、個人的には高級中共官僚への急激な普及があったと見るが、そう見る理由は説明不要だろう。ただぺーさんが指導者となってから、次期及び次々期指導層級の高級官僚から優秀な者が腐敗撲滅を名目に多数排除された。これは大きな禍根を残す可能性を秘めている。すなわち、中華人民共和国が人民解放軍もろとも中共から官僚機構のみ奪うようなことがあっても、その官僚機構を動かせる能力を持つ人間は収容所を門を開ければ直ぐに大量に手に入る状況にある。

 米国の政治学者の中国観のズレにはやはり宗教が影響している。学者とは言え、自身の信教の世界観からは逃れ得ない。特に米国はプロテスタントどころか、より原理主義的なキリスト教徒も少なくない。これらキリスト教が個人に求めたり、個人が備えているとしているものを、キリスト教徒ですらない中華の人々が有していると期待してはいけない、同じ考え方はしないのだ。むしろ「自由より飯」という価値観の存在を忘れてはいけない。また、「秩序」は常に「今」求められていることも忘れてはならない。大躍進運動による実質的な中共による中華人民共和国人民虐殺は、例え皆が改めて知ることになろうとも「過去の話」でしかない。

 かくて私自身は「中共自壊論」には懐疑的であり、それが起きても誰も得をしないようにしか思えない。いや正確には、気軽に「中共滅ぶべし」と言えないということになろうか。

 アフガニスタンにも類似の構造を見る。米国介入前のタリバンの勢力拡大の原因をどこに置くかだが、私の考えはやはり「勢力圏内に秩序をもたらした」からだ。 タリバンの勢力圏内ではかなり厳格にイスラム法が適用、運用された。その結果、域内住民の生活には主に禁欲的な方向でかなりの制約が加わったが、同時に犯罪行為は徹底的に摘発、犯罪者にはイスラム法に従った厳罰が加えられた。賄賂は機能しなくなった。結果、域内住民は不合理な金品の支払い要求を含む犯罪行為や性的なものを含む暴力行為におびえる必要がなくなった。これも一種の秩序が与えられた状態ではなかろうか。

 現在のアフガニスタンの政体は、部族間対立、宗教宗派間対立を背景に、金や利権も絡んだ勢力争いの常に変化するスナップショットのようなものにしか見えない。国内の「秩序」の担い手として機能していないし、その意思も無い。首都近郊の治安(≒秩序)は米軍が、地方の治安は再び台頭してきたタリバンが担っているのが一見したところの現実だ。故に米軍の撤退後は、タリバンに再び国内全域が支配されるだろうと信じて疑わない。少なくともベターな選択として、住人達がそれを望むだろうからだ。

 で、ハマスとファタハの人気の差の原因は? 同じ考えが適用できるように思う。ハマスは兵力はもちろん、官僚機構に基づくコンパクトな地域統治能力を有している。影響下の地域での経済活動や医療活動などを可能とするのだ。だからと言って現時点ではハマス礼賛などできはしない。軍事抵抗組織を起源とするファタハの主な収入は、その初期においては国や王族を含む反イスラエル勢力からの援助資金であることが顕著だった。一方、ファタハの軍事資金の多くは影響地域での経済活動に負う。ファタハは影響化の地域住民に等しく「秩序」を与えるが、それが戦闘で消える費用や命の供給手段でもあることは明確だ。

2021/06/29

Windows11互換性 × Dell XPS 8700 = やっかい

 Windows11が公式発表され、互換性チェックプログラムなるものも公開された。互換性チェックプログラムによれば、現行のメインPCは「互換性に問題無し」、先代のメインPCは「互換性に問題あり」となった。この先代のメインPCがDell XPS 8700である。

 で、互換性チェックプログラムをマイクロソフトのサイトからダウンロードしたのは昨夜なのだが、今日の午前中にはダウンロード用のリンクは消滅、「準備中」となっていた。「DellやHPなどの多くのメーカーPCで、互換性が担保できなかったせいではないか」と邪推しているのだが、如何だろうか?実際、私のDell XPS 8700の状況はやっかいだ。

  Dell XPS 8700は2014年モデルで、CPUとして第4世代Intelコア、ハズウェル・リフレッシュ世代のコアを搭載している。私のPCではIntel i7-4790(4コア8スレッド)だ。現時点でこのCPUは対応プロセッサリストに含まれていないが、いやいやまだ切れんでしょうよと思うのだ。だから現時点では未対応でも気にしないことにしている。それに実際のところ、大ボスは別のところにいた。

 さて、Windows11は「UEFIによるセキュアブート」を要件としている。別の書き方をすると「トラステッド プラットフォーム モジュール (TPM) バージョン 2.0の実装」を必須としている。Dellは幅広いラインナップでTPMを採用しておらず、Intel PTTという安価な代替ソリューションをBIOSレベルで提供している。ここでまず引っかかる。

 ちなみにIntel PTTを採用している大手メーカーのPCは決して少なくなく、マイクロソフトが要件を緩めるか、或いは各メーカー独自でこの辺りの顧客対応をちゃんとしないと、次からそのメーカー製品を選んでもらえなくなる可能性も出てくるのではないかと思う。企業や官庁に自社製品を一括大量導入しているメーカーの中には、リアルタイムで頭抱えてるところもあるんじゃないかな?DELLのサポートは技術仕様書類を公開するだけでトラブルシューティングはもうユーザーコミュニティへ丸投げだから、一部の顧客は捨てることになるんだろう。が、「うちのやり方はDELLとは違います」なんてサポートについてDELLとの違いをアピールしてきたメーカーで「新しいのにWindows11互換性が無い製品が多数」なんてことになったら、技術も含め顧客に直接接する現場は目も当てられない。

 技術畑の人なら理想論としては分かってもらえると思うのだが、この種の要件の導入には1商品サイクルぐらいの移行期間がやっぱり必要だ。Windows10のサポート終了時期こそ、その種のサイクルに基づいて決めたものじゃないのかねぇ?

 閑話休題。

 現時点では「互換性で弾かれる」という意味で駄目なIntel PTTだが、将来的には分からない。上述の通り、この要件はメーカーに対して大きな負荷要因となり得る、つまり少なくとも歓迎はされない。それに特定の機能の有無が問題ならば、BIOSのアップデートは必要かもしれないにしてもPTTでTPMを代替し得る筈だからだ。機能を代替できる(ことになっていた)からこそPTTには意味があったのだ。が、Intel PTTはレガシーBIOSでは使えず、Windowsの起動をUEFIとしないといけない。XPS 8700はWindows7と8.1のプレインストール機が並売された最後の世代の製品であり、かく言う私も「最後のWindows7プレインストール機」故に購入したと言って良い。ここでDellは、Windows7プレインストール機をレガシーBIOS起動でセットアップして出荷した。従って、そのままWindows7からWindows10に無償アップデートしたXPS 8700はレガシーBIOS起動のままなのだ。つまり、Intel PTTすら使えない。

 「じゃあ起動をUEFIに変えれば良いじゃないか」と思うかもしれないが、そうは問屋が卸さない。起動ドライブ(普通はCドライブ)もUEFIに対応していなければならないからだ。具体的には、パーテションがMBRベースではなくGPTベースでなければならない。レガシーBIOSの場合がMBR、UEFIの場合がGPTだ。この点についてはWindows10自体が"mbr2gtp.exe"という変換プログラムを用意しているので、一見対応可能だ。通常は1分程度で変換される。が、Dell製品の多くで、起動ドライブのパーテション分割が独自のもの(OEMパーテションという表現が見られる)となっている。XPS 8700も然りだ。

 "mbr2gtp.exe"は独自のパーテション分割には自動で対応してくれないので、プログラム実行時にユーザーがパーテション情報をオプション(/map=・・・)として具体的に与える必要がある。とは言え、どうやってそのオプションの数値を手に入れるのかも分からんし、入力間違いなどしようものなら変換結果がどうなるかも分かったもんじゃない。OEMパーテションの情報と対応したオプションに関する情報は国内外で蓄積が進んでいるようだが、やっかいな問題であることには変わりなく、余りに建設的ではない作業に能力ある人間の労力が割かれるというのも悲しいばかりだ。

 ちなみに私のDell XPS 8700はこれまたイマイチ建設的ではない用途で24時間稼働中だが、とてもWindows10のサポート終了時まで運用することになるとは思えない。だから本来はWindows11との互換性なんてほっておけば良かったのだが、PCを自作していた10年以上前の気分がちょっと蘇ってしまっていじりだしたのが運の尽きだった。様々な困難や勘違いが生み出した結果に打ちのめされ、結局Windows10のクリーンインストール(ただしUEFI起動に変更)に至るのだが、その過程での知見は上述の通りである。散々調べ、考えて実行した結果、1文字のタイプミスのせいで取り返しのつかない事態を引き起こした・・・なんて醍醐味は久しぶりだなぁ(棒

 思えば最初の作業、BIOSのA13からA14へのアップデートが正常終了しなかった(インストールは終了したのだが、チェックプログラムがクラッシュした)時点で、その後の泥沼、やろうとしていることの筋の悪さを予見すべきだったのかもね。得たものの少なさは正直つれえ。

2021/06/28

レンダーファーム、使用料おいくら?

 最近、13~10年前にYouTubeに上げた3DCGI動画のリメイクに手を染めた。ざっくり10年でのCPUパワーの増加は10倍強で、20倍には届かないというのが実感だ。ただ、3DCGIで最も時間のかかるレンダリングは並列計算向きで、アプリ側もマルチコア/スレッドCPUの特性を最大限利用するように発展してきている。加えて、メモリやストレージの性能向上もレンダリング時間短縮に明らかに寄与しているよう見える。結果、CPUによるレンダリング速度は、20倍をやや超える程度までは向上したように思う。

 20倍強というと微妙な感じもする人もいるだろう。だが一般的なサラリーマンの1ヵ月あたりの出勤日が約22日であることを考えると、1日の出勤だけで給料一ヵ月分貰えるような「比率」ではある。3週間かかっていたレンダリングが1日で終わる。丸1日かかっていたレンダリングが1時間ちょっとで終わる。特に前者の場合は、私なら以前は絶対やろうとしない条件だ。とは言え、"Enough  is not enough"なのが人間だ。そんな人こそレンダーファーム・・・なのかな?

 レンダーファームとはレンダリングのためのCPUパワーのレンタルサービスや、そのためのハードウェア・ソフトウェア環境を指す。歴史をすっ飛ばして現状だけ見れば、クラウドコンピューティングサービスの一種と見做せるんじゃないかと思う。要は自分のPCの代わりに、レンタルした並列計算環境にレンダリング計算をしてもらうサービスだ。時間をプロダクションコストに含めなければならないプロフェッショナルの世界では、昔から必須のサービスだ。また、フリーランスの3DCGIアーティストが自己宣伝用デモリールを作る際に、仕上がりをプロフェッショナル級にするために使われることもあるようだ。

 で、いくつかのレンダーファームサービスの価格を調べてみた。結論から言うと、良くも悪くもサービス提供元による価格差はほとんど無かった。もう少しばかり定量的に書くと、円-ユーロ、円-ドルの為替レートの変化でどこのサービスが一番安いかが変動するレベルの差だ。と言う訳で、米国ベースのとあるサービスの簡単見積りページで価格を見積もってみた。条件は、私のメインPCでレンダリング実績のある以下の通りとした。

  • 600枚の静止画をレンダリング
  • Intel i7-10700で静止画1枚/分、総レンダリング時間は10時間
  • 200ノード並列
  • 優先度は普通

ここでは、CPUを特定し、そのCPUでのレンダリング時間を与えている。サービス提供元のノード又はCPUの計算能力と特定したCPUの計算能力との換算が妥当ならば、かなり正確な見積りになるのではないかと思う。ノード並列数には特に意味は無いが、レンダリング枚数を超える意味が無いことと、レンダリング枚数の約数であることは意識した。優先度というのはざっくり実行順で、お金を積んで「高」とか「最高」にすれば、「普通」の他ユーザーの計算を止めてでも先に計算してもらえるようになる。

 見積り結果は以下の通り。

  • 実効計算時間は約80秒
  • 価格は約¥1,300-

実効計算時間はノードの性能から妥当な感じ、使うとしても全く文句は無い。データのアップロード、ダウンロードを含めたターン・アラウンド・タイムは15分ぐらいだろうか。生成され、ダウンロードするデータの量は多いが、これらデータの一時保存などのコストは見積りに含まれていなかった。まぁ大抵はそのためのネットワークストレージサービスを別途契約しておいて、レンダリング結果はレンダーファーム側が適宜書き込む形にすべきなのだろうけれども。

  対して価格だが、これが微妙。趣味かつ作成動画からの収益無し、という条件下ではやはり高値感がある。せめて半分、ただ¥300+消費税なら使うかもしれない。ちなみにCPUの最大TDP60WでメインPCを10時間全力駆動した場合の電気代の「増分」は約¥16-で、計算する前の予想よりは安かった。結局のところ、レンダリング時間である10時間が「睡眠時間+アルファ」又は「出勤で部屋のPCに触れられない時間以下」なので、金を払ってでも取り返したい時間になかなかならないのが高値感の原因だろう。

 レンダリング時間が更に100倍になる辺り・・・価格¥13万-以上・・・からがレンダーファーム利用の本領発揮ラインだろう、というのが今回の感覚的な結論かな?200並列ならば「40日後の結果を今日の午後に得られる」となるが、こうだとさすがに価格の見え方も変わってくる。場合によっては「40日後に得られる予定だった結果を見ることで、40日後に得る筈だった新アイディアを今日の午後に得られる」なんてこともあるかもしれない。後者の場合、本来無かった筈の40日も別途購入したようにも考えられなくもなくない?

2021/06/27

グラボの値段、下がるのか?

 某YouTuberさんによると、明らかに下がり始めているらしい。高騰の原因とされる事項に結構歪な感じのするものが多いので、基本的には良いことだろうね。ここでの「良い」のニュアンスは、「製品が本来の目的通り、最適化されている用途で使われる」だ。別用途でも使えるとは言っても電力効率が半端無く悪いとかって話になると、少なくとも「良くはない」でしょうよ。

 さて、

 価格高騰の一原因として、暗号通貨のマイニング需要による製品供給不足が良く挙げられていた。このため、マイニング機能を無効化したと言うか、マイニング用途で使用しにくいグラボも製品化されたりしたようなのだが、ものの数日でその手の小細工は突破されたとの報があった・・・まずは中華人民共和国方面から。

 で、本題。中国共産党(中共)は基本的に暗号通貨がお好きではない。デジタル人民元構想とのバッティングもあるし、香港経由の資産流出経路を潰した今となっては恐らく最大の国内資産の流出口だろう。1ヵ月ほど前の某報道における中共の暗号通貨に対するスタンスは、「マイニングは許容するが、国内外を問わず取引してはいけない」つまり「資産を生み出せ、国内に貯めろ」だった。が、この1、2週間程の間にこのスタンスが大変化したらしい。

 まず、ある程度見逃していた暗号通貨取引を明確に禁止、取引所を閉鎖した。マイニングも禁止とし、大規模マイニングファームへの送電も停止されて事実上の操業停止状態となっているらしい。マイニング関連のインターネット通信に関する金盾の設定も、おそらく変更されたと思われる。

 一般に中国南部や人口密度の低い辺境部は電気料金が安いため、大量の電力を消費する大規模マイニングファームが多数存在していると聞く。そして真偽のほどは不明ながら、新疆ウィグル自治区もそんな感じらしい。少なくとも安い労働力、電力故にドイツや日本の大手企業の生産工場が多く進出したのは事実だ。ただ、三峡ダムの発電量低下(発電効率低下)、高品質石炭の不足(セルフ経済制裁)、原子力発電設備のトラブル(?)など、昨今の情勢を見るに電力価格的には逆風な要素が多い。実際、電力不足が噂されるようになって久しい。

 私の見立てでは、おそらく中共の一部の潤っている層はマイニングは禁止したくない。でもペーさんは禁止したい、きっと良く分からないからだ。そこへ電力不足、ペーさんにとっては渡りに船である。まぁ、某メジャー暗号通貨のトランザクション(決済処理)は直近では4.2秒/1件ぐらいと耳にしたのだが、これじゃ信用はめっちゃ高いけど通貨としては機能しないよね。デジタル人民元の正体はイマイチ判然としないのだが、開口一番に挙げる利点が「トランザクションが圧倒的に早い」なので、少なくとも技術的視点から既存の暗号通貨の「通貨として欠点」をどこに見出しているかの手掛かりにはなる。信用を捨てる、信用レベルを下げるってのは近視眼に過ぎる気はするんだけどね。デジタル人民元はSWIFT体制からの独立を志向している筈だから、国家などの特定の権威による集中管理とは別の信用システムを備えなければならない。言うまでも無く、暗号通貨の信用システムは実に反権威主義的なものだ。だが、もうしそうだと中共のシステムとの相性は最悪だ。

 んで、ここに来ていきなり評判が上がって来た「日の丸量子コンピューティング」が本物(real)で、デジタル人民元がそれでも暗号通貨に似たような信用システムに依拠するならば、既存の暗号通貨のマイニング需要もデジタル人民元そのものも量子コンピューティング実装開始時点でワンラ(終~了~)ですな。ワット・パー・トランザクションが高い(効率が悪い)からこそ信用とマイニング需要がある訳だし、デジタル人民元の早いトランザクションの秘密こそが取り敢えずのクラッキングの攻め所、脆弱点のひとつの可能性なのは疑いようがない。あと通貨をデジタル化すると市場の通貨流通量が調整できなくなるので、一般論として伝統的な国内向け財政政策が実質的に封印される。これ、中共として大丈夫なのかな?通貨のデジタル化「だけ」を導入した状態では、官製バブルなんて絶対演出できないよ?

 閑話休題。

 で、中共の実効支配地域内の大規模マイニングファームの停止は、これすなわちグラボ需要の大規模な喪失だ。これが、疑問形で提示したエントリタイトルの具体的な答えかも知れないと見ている。昨今の暗号通貨の相場の動きは、以前に増して中共の動きをよく見ている印象を受ける。

 ちなみに地震でもないのに揺れる高層ビルの話が最近中国であったが、揺れ始めた原因が上層階の数フロアがマイニングファームとなったからだなんて話があった。これまた真偽不明だが、まぁ、グラボは1枚でもハイエンド品は十分重いよね。

2021/06/25

TDP60Wの力、2010年と2021年のCPU対決

 長時間駆動を前提としたCPUダウンクロックが良い感じとなった勢いそのままに、2010年に一度レンダリングしたシーンを再レンダリングした。今度のネタは米国TVシリーズのBSG(Battlestar Galactica)だ。

 同一のLightWave3D用シーンファイル(一世代前)を用い、睡眠時間中も含めた約10時間で600イメージをレンダリングするという、記憶通りであれば2010年の際と全く同じ条件を課しての実行となった。暗算に抵抗無い人なら直ぐに分かるように、平均1分で1イメージをレンダリングするということだ。

 2010年の際のCPUはIntel Core 2 Duo E6850で、ウェブ上のいくつかのベンチマークデータを参考にすると、総計算パワーは現行メインPCのCPUであるIntel i7-10700の約1/10~1/12だった。改めて調べて分かったのはE6850のTDPが60Wだと言うことで、この値は長時間駆動用にダウンクロックした現行CPUの最大TDPと同じだ。

 70Wまで低減した過程は先行するエントリで触れたが、その後、主に気温の上昇(28~29℃)が原因で、それでもCPUパッケージ最高温度を85℃以下に保つために60Wまで更にTDPを下げることとした。日当たりの良い締め切ったワンルームでは、日中の室内温度が急激に上昇している昨今では致し方ない。コアの最大クロックは3.6GHzから3.4GHz付近まで下がり、コア1/2個分の計算パワーを更に捨てたことになる。つまり全力かつ連続駆動時の計算パワーは、6.5コア、13スレッド相当となる。

 TDPはあくまで熱設計用のパワーだが、実用上は計算に要するパワーに近い値とされる。ならば、1イメージのレンダリングに要するパワーは2010年と今回とでほぼ同じとなる。しかしここ10年のCPUの発展の歴史では、省電力化が大きな位置を占める。では、レンダリングの設定がどれだけ変わったか、これすなわちこの約10年の省電力化+周辺機器の性能向上の恩恵は如何ほどだったか?結果から言うと結構凄かったのだが、さすが10年と言うべきか、されど10年と言うべきかはなかなかに難しい。あ、あとソフトウェアであるレンダラーもマルチコア前提で変わっているんだよなぁ。

  • レンダリング画面は16:9だが、高さ(9の側)は360ドットから1440ドットへと4倍まで増やせた。つまりイメージサイズは16(=4×4)倍になった。この点は結構ビックリだが、3DCGIのレンダリング作業は典型的なマルチコア向き作業だ。
  • メモリサイズは2010年時は16GB、今回が32GBだ。レンダラーが表示したメモリ使用量は約20GBなので、2010年時は完全なオンメモリでレンダリング計算ができていなかった可能性、すなわちHDを用いた仮想メモリ機能を用いていた可能性が高い。
  • 船体表面のライトの数を増やすと、レンダリング時間がてきめんに伸びる。2010年時はライトをあきらめた(配置したがOFFとした)が、今回は最小限のライト(約30個)をONにした。
  • アンチエイリアス、ノイズフィルタの設定は「感覚的に」同等とした。これはレンダラー間でアンチエイリアスやノイズフィルタ手法が基本的な考え方からして違うためで、比較の基準となる客観的な数字が無いためだ。結局のところ、出来上がりのイメージを見て「趣味のプロダクションとしては、まぁ許容レベル」 と自分として言えるかどうかで判断するしかなかった。当然、こんなんじゃ金は取れないっつーか、解像度がまず足りていないのは言わずもがな。
    なお、先行して似たことをやったVF-1Aの場合には、ノイズフィルタの適用量が「趣味のプロダクション」だとしても不足していると判断した。故に「テスト」止まりな訳だが、そもそものレンダリング設定がテスト用のそれでしかないのだから当然と言える。

 なお、動画作成は前回も今回もAdobe After Effects CS5を使った。ここだけは10年以上を経ても変わっていない。音声は2010年版のYouTube動画から抜いたものをDAW上で軽く手を入れて用いた。モコモコした感じが若干抜けて、音がややクリアになっているのではないかと思う。ちなみにYouTubeにアップロードする前の2010年版動画は、ハードディスククラッシュで他の多くのデータとともに未来永劫失われている。

 で、2010年版。

 と、2021年版。

2021/06/23

4K解像度アニメ、テストレンダー

 ターボブースト時の最大TDPを抑えることで、メインPCの長時間全力稼働にも現実味が得られた。内蔵HDやSSD、メモリの温度も大丈夫そうだし、冷却ファン音もさして気にならない。と言う訳で、早速既存のデータを用いてLightWave3D 2020での動画用連続レンダリングを試みた。条件は、夜間も含めた24時間以内で終わること、解像度はせっかくだから4Kとすることだ。その代わり画質やフレームレートは捨てる。そして全力稼働中のPCと同じ部屋で寝る(=夜間がレンダリング時間として使える)。

 ちなみに2011年に使っていたPCのCPUはCore2 Duoではなかったかな。ラジオシティで4K解像度とか、静止画1枚でもできる気がしなかったねぇ。

 全360枚、レンダリング時間は約18時間。レンダリング開始直後にCPUパッケージ温度が一瞬100℃となるが、後は88℃以下を全時間でキープ、終了時のSSD及内蔵HDの温度は49℃、36℃で想定内だった。なおレンダリング時の室温は25~28℃。

 動画自体はノイズがちらちらしてかなり落ち着かない仕上がりとはなった。十分なノイズ除去には、やはり最低4倍のレンダリング時間が必要だ。また、非平面に対するレンダラーのトレランスが以前のバージョンより更に厳しくなっているので、レンダリングエラーが幾つか発生していた。モデルの方はもう手を入れるつもりも無いフリーズしたものなので、明らかに対応すべき非平面ポリゴンを3分ほどの作業で全て三角分割した。一方、現行のメインPCでどこまでやれるか、と言うあたりの現実的なラインはちょっと見えた気がする。こればっかりはベンチマークだけやってても全然分からない。

 あと、古いも良いところのAdobe After Effects CS5に4K解像度のプロジェクトのテンプレが無いのは当然とは言え草。

2021/06/18

メインPC、CPUのダウンクロック(その3)

 クロックダウンかアンダークロックといった表現が普通で、ダウンクロックとは今は言わんらしい。仕事でつきあいのあったDECとか日本SGIの人は・・・20世紀の話だし、まぁいいか。かつてのGoogle検索では、「内蔵ハードディスク」よりも「内臓ハードディスク」の方がヒット数が多かった期間が結構長かったんだよねぇ・・・主犯はおそらくMS-IMEだが。

 同名エントリ、初夏の最終回です。文体は気分次第で変わるのでその点はご容赦を。これまではCinebench R23のベンチマーク計算結果に基づく話でしたが、私の使っている3DCGIアプリであるLightWave3D 2020のレンダリングでも同じ結論となるか確認しました。レンダリングには全16スレッドを割り当てたので、Cinebenchのマルチコア測定時と同じっちゃ同じ条件です。

 複数のターボブースト最大TDP設定に対して、レンダリングに要した時間、CPUコア最大クロック及びCPUパッケージ最高温度を調べました。上図は、右下に示されているようにターボブースト時最大TDPを70W(デフォルトは120W)まで低減した際のレンダリング中の画面です。

 まず出荷時設定、ターボブースト時最大TDPが120Wの場合です。

 レンダリング時間:170.2秒(基準)
 CPUコア最大クロック:4.1GHz(基準)
 CPUパッケージ最大温度:100℃(基準)
 スロットリング有無:サーマルスロットリング

レンダリング開始直後からサーマルスロットリング(CPUパッケージ最大温度を100℃以下に制限)により、ターボブースト時のTDPは105~108Wでした。つまり、120Wに設定しても、冷却力不足からそのワット数では動作できないことが分かります。

 そこで、ターボブースト時最大TDPを108Wに設定してみました。

 レンダリング時間:170.5秒(+0.1%未満)
 CPUコア最大クロック:4.1GHz(±0%)
 CPUパッケージ最大温度:99℃(-1℃)
 スロットリング有無:無

案の上、レンダリング時間は最大TDP120Wの場合と実質的に変わりませんでした。これはCPUコア最大クロックが変わっていないので妥当な結果でしょう。CPUパッケージ温度がぎりぎり100℃に達しないので、サーマルスロットリングは発生しませんでした。

 ターボブースト時最大TDPを70Wまで下げると・・・

 レンダリング時間:192.6秒(+12.9%)
 CPUコア最大クロック:3.6GHz(-12.2%)
 CPUパッケージ最大温度:85℃(-15℃)
 スロットリング有無:無

やはりほぼ1コア分(~12.5%)の計算パワーを棄てた形になりました。CPUコア最大クロックの低下幅とレンダリング時間の伸び幅とが良く一致しています。最後にターボブースト時最大TDPを100Wにしてみました。なお、100Wという数値自体には、「108Wより低い切りの良い値」以外の意味はありません。

 レンダリング時間:175.1秒(+2.7%)
 CPUコア最大クロック:4.0GHz(-2.6%)
 CPUパッケージ最大温度:98℃(-2℃)
 スロットリング有無:無

当然のように、CPUコア最大クロックの低下幅とレンダリング時間の伸び幅の一致は良好です。

 今回の追加のテストで、新たに分かったことがありました。現行のCPUクーラーでは、ターボブースト時の最大TDPとして108Wを超える値を設定することに意味が無いと言うことです。サーマルスロットリングによって最大TDPが108Wを超えることが無いからですね。逆に最大TDPを108Wと下げても、全コア/スレッドの100%負荷時のマルチコア計算能力の低下は120Wに対して実質的にありません。

 なんともはや、少なくともこのモデルではDellやっちまったなぁ・・・って感じですね。と言うか、今時はそういう設計が一般的なかなぁ・・・。

 Dellは電源がかつかつだとか後から手を入れにくい製品を出しますが、IFやメモリ規格などは最新のものを一早く、リーズナブルな価格で取り入れる面もあります。そのため、高価格帯製品(と言っても、20万円ぐらいの構成をベースにメモリを増設したりグラボのランクを上げたりして、セール時に18万円ぐらいで買う感じ、要はXPSの最上級モデルかその手前のモデル構成に手を入れたもの)を選んで買っておけば、そのまま4~5年は普段使いには十分性能的に通用したりしてきました。ただIntel i7-10700や11700などの発熱は、従来の製品設計の流儀ではいなせなかったみたいですね。

 カタログスペックでのIntel i7-10700のターボブースト時クロックは4.8GHz、一方出荷時の構成では冷却力不足によるサーマルスロットリングでターボブースト時クロックは4.1GHzまで低減、更に現在の私の設定では3.6GHzまで下げています。性能がクロックに比例すると仮定すると、出荷時で既に17%程度のCPUパワーが活用できていないことになります。私の現行設定では-25%程度、実に3/4程度のCPUパワーしか使えないことになります。

 ただし私の現行設定であっても、CPUをフルパワーで動かす場合以外でのCPUパワーのロスは限定的です。先行するエントリで触れたように、単一のコアやスレッドのみが高パワーを出すような場合・・・普段使いでの条件はたいていこちら・・・では、該当するコアは4.1GHzやそれ以上で駆動できるため、この場合のロスは17%以下どころか実用上はほぼ0と見做せる場合も多いようです。

 例えばDAWであるCubase Pro 11使用時には、特定のスレッドやコアに負荷が連続集中しないようにCPUが制御されています。その結果、DAW上のCPU負荷表示が50%程度のプロジェクトで楽曲を再生しても、各コアの温度上昇が抑えられているので、最大クロックは4.6GHzを余裕で維持します(=最大TDP70W設定でもサーマルスロットリングは作動しない)。

 また最大TDPが70WでのCPU冷却ファン音だったら、ターボブースト動作時でも既存の吸音材を張り付けた段ボール紙を寝具とPCの間に置くだけで問題無く寝られそうです。ダイソンの送風ファンの方が五月蠅いぐらいなんですよ。つまり私が寝ている間もPCにきっちり働いてもらうことができます。3DCGでアニメーションを作ろうとしたら、レンダリングに時間をかけなければなりませんからね、夜間の時間が使えるとなれば実はダウンクロックは良いコトづくし?要はアウトプット完了までの効率が最重要で、時間は失われることしかないやっかいなコストですから。

2021/06/17

メインPC、CPUのダウンクロック(その2)

 先行するエントリで、Intel i7-10700を搭載したメインPCのCPUをダウンクロックしたことについて述べた。 全力動作時にCPUパッケージ温度が100℃に達することを嫌い、TDP最大値を120Wから80Wに下げたのだ。そもそもの原因はCPUクーラーの冷却能力不足なので対処療法に過ぎないのは悲しいことだが、最大パワーを約10%捨てる(最大クロック4.1GHz→3.6~3.7GHz)ことで、CPUパッケージの最大温度を90℃以下とし、CPU冷却ファン作動音の1ランクの低下を得た。

 が、その後更にTDP最大値を70Wまで下げることにした。これはIntel i7-4790を搭載した先代のメインPCではパッケージ温度が85℃を越えなかった結果を受け、CPUパッケージの最大温度ターゲットを85℃以下に見直したことによる。結果、最大クロックは3.5GHzとなって更に4%弱パワーを捨てたことになるが、全力動作時のCPU冷却ファン作動音は更に低下した。Cinebench R23(マルチコア9296)を信じるなら、それでもマルチコア性能はIntel i9 9880H(マルチコア9087)を超える。

 まぁ全力動作時のパワーとして、ついに1コア分を捨てたことになった。

 アプリによっては使用スレッド数やコア数を制限できるものもある。しかしCPU温度制限によるサーマルスロットリングで最大パワーが決まる今回の状況下では、アプリで使用コア数やスレッド数を減らすよりも各々のコアのパワーを若干削ってでも全コア或いは全スレッドを使った方がより大きなパワーを確保できる。同時にCPU温度も下げられるし、PCの静音化もできる。

 あと用途によって大事なことは、これらのクロックダウンはTDP制限を下げた結果に過ぎないことだ。これは、TDP制限やデフォルトのCPU温度制限(100℃以下)に引っかからない場合、コア単体の最大能力は下がらないということを意味する。Cinebench R23のシングルコア性能測定時は、次々と使用するコアを切り替えながら常に単一のコアしか全力では動作させない。このようなコアの使い方をした場合、CPUパッケージのTDPはせいぜい40W程度だし、パッケージ温度も80℃すら越えない。換言すればスロットリングは一切行われない。結果としてベンチマーク中のコアクロックは4.6~4.7GHzに維持され、ベンチマークスコア(1230前後)も基本的にTDP制限が120Wでも70Wでも変わらない。MS比は7.5だったので、現行設定では0.5コア分のパワーを捨てていると評価されたような感じだ。

 ただマルチコア/スレッドとシングルコア/スレッドとにおける単一コア/スレッドの計算パワーの関係は、単一コア/スレッドに割り当てられる計算量(所謂、粒度)や同時に使うコア/スレッドの総数、更に各種レイテンシによって変わるので単純ではない。この辺りの機微は、12~15年間に並列科学技術計算に関わった経験がある人には良く分かるのではないかと思う。

 以下雑談。

 当時の議論対象は、①そこそこの大きさのメモリと高速なCPUを組み合わせたものを多数並列化したシステム(分散メモリシステム)と、②大きな単一のメモリにそこそこの計算速度のCPUを可能な限り多数接続したシステム(共有メモリシステム)の2つのシステムの利点・欠点だったものだが、もはやこの種の議論に意味は無くなっている。①はPCクラスターを経て、②はGPGPUとニーズに合わせて並列共存する形で、計算機技術としてはともにクラウドコンピューティングに収れんしてしまった。計算速度特化と言う意味でスパコンは未だ特殊だが、傍目からの素人目線では、とにかくデータ転送・通信のレイテンシの低減、隠ぺい(物理的には分散メモリだが、動作は限りなく共有メモリに近くする)にコストがかけられる最後の技術分野と言ったところだろう。クラウドコンピューティングではレイテンシ低減の代わりに闘いは数だよ兄貴!数にコストをかけ、併せて冗長性も確保する。 

 なお①はDAWや3DCGIのモデリング向け、②は3DCGIやあらゆるコンポジット(合成)プロセスのレンダリング向けだ。動画エンコーディングは②のほぼ最終のプロセスに当たる。

 爺さんになりつつ身の私から見ると、今のPCは色んな意味で①と②のキメラになってしまった。マルチコアCPUを搭載したシステム概念として既に①と②のキメラであり、グラフィックス機能のCPUへの内蔵は物理的にも①への②の内蔵だ(Intelのララビー・アーキテクチャを覚えている人はいるかな?)。グラフィックボードの導入は①+②のシステムの具体的な実装であり、①と②のどちらを選ぶべきかと言ったかつての真面目な議論をあざ笑うかのような状況以外の何物でもない。DAWやCGI、そしてグラフィックリッチだったり最善手を常に追い続けるような対戦ゲームのためのハードウェアだ。だから現在のPCはとても「皆のもの」と呼ばれるものではなくなった。だからPCを使えない、触ったことが無い若者が居るなんて話を聞いても驚かない。要らん人には要らんでしょ、こんなもん。だからと言ってChromebookはセンス無さすぎでしょ。