2015/02/28

中共新型原子炉の運開遅延、理由は言えない。

 東芝の子会社、ウェスチングハウス・エレクトリック社の最新型の発電用原子炉AP1000の初号機は中共に建設された。本来は既に営業運転に入っている筈だったのだが、営業運転前の試運転の期間が延長され、営業運転開始が遅れるとの報道があった。ただ、これら一連の報道で共通しているのは、「理由が明らかにされていない」という点である。勢い、推測や非公式情報が飛び交う事態となっている。

 これは米国製冷却材ポンプの出荷遅延に伴う工期延長とそれに伴う建設コスト増(大型プラントの建設には短期的に大金が必要となるため、一般的にローンが組まれる。建設期間長期化は利益のない状態での利子支払い期間の長期化と等価であるため、建設遅延の原因対策へのコストとのダブルパンチとなる。)とは別件だ。

 AP1000は米国内でも建設中だから、何れは理由は明らかになるだろう。あり得ない事態とは思うが、AP1000を運用する米国発電事業者に未だ遅延理由が明らかにされていないとすると、将来的にウェスチングハウス・エレクトリック社は勝ち目のない訴訟リスクを間違いなく抱えることになる。米国規制当局も黙っていないから、ウェスチングハウス・エレクトリック社内からホイッスル・ブロワー(内部告発者)が現れるリスクも生じる。ホイッスル・ブロワーは言わば「沈む船から逃げ出すネズミ」でもあるから、そうなった場合の背景にある状況は推して知るべしとなる。やはり原子炉エンジニアリング会社であるジェネラル・エレクトリック-日立・ニュークリア・エナジー社は、ホイッスル・ブロワーの内部告発内容に基づいて、米国の原子力規制当局に対して賠償金を払ったことがある。

 中共の発電事業者もウェスチングハウス・エレクトリック社も何も語らない状況を「中共的」と捉えるか否かの姿勢の違いが、本件に対するその人の反応にかなり反映されていて、傍観者としては面白い状況にある。確度が高いとされる同じ情報を複数の人間から耳にしたが、もしその情報が正しければ「中共的」とも言いかねるな、というのが実感だ。米国で同じ事が起きても公衆に対して「理由は言えない」はおそらく使えるだろうし、米国の規制当局も「十分な情報が提供されており、状況は正しく認識されている」ぐらいのコメントは出すだろう。ポイントを周辺住民などの公衆への健康被害の有無に絞れば、明らかに「無い」と言えるからだ。

 経験的に言える事がある。「理由は言えない」という表現が「少なくとも優秀とされる人」の口から出た場合、「関係者には状況は正しく認識されている」と見做すのが鉄則だ。そして「関係者には状況は正しく認識されている」かつ「理由は言えない」となった場合、技術屋の観点に絞れば、事態に企業の持つノウハウといった機密事項が深く介在しているか、原因が設計段階に遡られるような致命的なトラブルの何れかの可能性が高いと言える。原子炉となるともうちょっと情報が欲しいというのが正直なところだが、新設計の発電設備の初号機という括りでは決して珍しい状況では無い。

 ちょっと気になっているのは、中共の原子力規制当局からの本件に関する公式声明などの報道が昨日の段階でも未だ見られないことである。中共の公的機関となれば「中共的」な挙動から自由とはとても言えないだろう。しかし、IAEA(国際原子力機関)から先に本件に関する声明などが出されると中共の「面子」へのダメージは避けられない。そのため、どこかの段階で国際社会の「正道」と中共の「面子」との軋轢が表面化する可能性がある。原子力がらみとなれば中共の「面子」なぞ省みるべき価値なんて無いからだ。

 中共は既にAP1000の発展型である華龍(CAP1400)の建設に着手している。こちらの案件にも波及効果があるようだと、関係者の口が重くなるのは致し方無いだろう。この種の話の裏取りには、「最近誰が一時的に音信不通(行き先秘匿)になっているか」が一つの手掛かりとなるのだが、残念ながら私の人的ネットワークはそこまでは広くないのだよ。

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