バイデン政権が、「台湾を『重要な安全保障、経済面のパートナー』とする声明を発表した」とのこと。米国議会の方針に変化はないのだから、まぁ既定路線だ。米国大統領とは言え万能ではなく、議会の公式方針に良くも悪くも縛られている。
実のところ、個人的に気にしているのは、台湾が米軍駐留、或いは港湾施設などの米軍利用を今後認めるかどうかだ。もし米陸軍の駐留を認めた場合、部隊の基幹はグアムからの派遣となると思うが、残りの人員や装備(現在は戦車などの装備は配備してあるが、兵士はローテーションで定期的に入れ替わり、常備軍と呼べる兵力は既にいない)は韓国からになると予測している。
現韓国政権は米軍からの戦時作戦統制権返還を強く望んでいるが、本件はこの話の進展に弾みをつける可能性がある。国連軍(実質は米軍)の司令部は既に横須賀に移動済で、実用最小限のポストを埋めてあるだけで実務要員は既におらず、解散を待ってる状態に近い。
かつての報道によれば、戦時作戦党政権の返還後、韓国の時の政権は半島有事の際に韓国軍が在韓米軍を指揮できるようになると虫が良いことを考えていた節があったが、米軍がそんなことを良しとする筈が無い。戦時作戦党政権の返還とはすなわち在韓米軍の駐留終了であり、その可能性はロシア、中国共産党ともに織り込み済みと思われる。で、最も困る、と言うか環境が変わってしまうのが北朝鮮だろう。故に万が一にもそのような状態が出来した場合、反応が読めないのはやっぱり北朝鮮である。
米韓同盟は維持される。少なくとも米国は維持を望む。イデオロギー対立などに起因した対立国家群のこれまでの干渉地域は北朝鮮だったが、今後は韓国が干渉地帯、より正確には米国に選ばれた戦場となる。経済的にはおろか、物理的にも焦土化されることを米国は覚悟する筈だ。もちろん米国自身は韓国の物理的焦土化までは望んでいないが、なんとしてもそれを避けようとまではしない、と言う意味だ。
一方北朝鮮には、米国寄りの選択的中立という選択肢が転がり込み得る。米中対立下においては、北朝鮮には中立という選択肢が有り得、その可能性も米国は排するべきではない。北京の中南海に到達し得る弾道弾技術と核武装がその選択を可能とする(日本を米国の犬に過ぎないと言う日本人(?)もいるが、同時に日本の核武装やロケット技術の軍事転用も否定するのは、国家間のパワーバランスのリアリティや経済性の視点から著しくバランスを欠く。犬でなくなるためには必要なものがあり、その中でも核武装は経済的である。そうでなければ、北朝鮮が核兵器開発という道を選んだことに合理性が無いことになる)。既に人権の観点から北朝鮮を非難しているバイデン政権にはそれはできない相談とも見えるが、議会や軍のリアリストには十分受け入れられるだろう。
イランも同様である。米中間で軍事オペレーションが発生したとしても、普通に中立を保つ方が賢明と見る。ただ米国にとっては対イランよりも対イスラエルのケアの方が繊細かつ高くつく可能性があり、この点はトランプ政権時と現行バイデン政権での大きな違いとなる。
そもそも米国と気や朝鮮は休戦中であり、どちらにも先に戦端を開く必然性が無い。韓国が北朝鮮に侵攻した場合に米軍にそれを支援する義務があるかは米韓同盟の内容を改めて確認しないと分からないが、北朝鮮が米中戦争に対して中立の立場を既に明確にしていた場合、少なくとも軍事的な支援はしない方が筋が通るように見える。
嘘か本当か現在のピョンヤンは封鎖状態だと言う情報がある。COVID-19の蔓延が原因だ。人民軍もかなりのダメージを負っている可能性も指摘されて久しい。中国共産党支配地域の食糧不足や一般人民の経済不安は増大中に見える。米国が今積極的に動くにはやはり理由があるのでは、と邪推する。
とある人の話では、数年前に人民解放軍内に日本との開戦との噂が立ったことが原因で、潜水艦搭乗員を中心に退役希望者が続出したことがあったらしい。もし、米国などの大規模戦闘オペレーションが予定された場合、この種の噂を利用した欺瞞作戦が先行的に実行される可能性があると見ている。この種の情報操作オペレーションは、中国共産党支配地域内への浸透要員がまだ活動中とされている台湾の協力があれば可能だ(CIAはほぼ殲滅との由)。
台湾という因子の有効化で、韓国、北朝鮮の価値は大きく変わった。米中戦争の有無の可能性は、米国が戦争目的をどこに置くかで決まる。戦争目的が中国共産党打倒であれば、米国は戦争はしない、できない。ポンペオ元国務長官らが強調したように、米国の敵は中国共産党ではあるが、理想的かつ有効なアプローチは(現時点では存在しない)中国共産党を代替し得る勢力の支援であるとしか言えない。一瞬であっても、大陸全域を混乱状態にすることは賢明ではないからである(中国共産党は決して望ましい存在ではないが、国共内戦時の生きるか死ぬかの混乱期に比べればよっぽどマシな秩序をもたらしているという一点を持って、中国共産党を支持する、という認識の人民は少なくとも過去には多かったようだ)。がそのような勢力は存在しない。そのような存在こそが最大の脅威であることを知っている中国共産党は、長年にわたり手を打ってきており、完全に成功を収めてきている。
このため、米国の軍事オペレーションの目的は、中国共産党は潰さないものの、軍事的及び経済的目標の徹底破壊に留めることになるだろう。特に空、海軍兵力は徹底的に破壊する。陸軍への攻撃の程度はインド、ロシアの姿勢が変数だ。例えばインドが国内の亡命チベット政府を押し立ててきた場合、米国も関与した人民解放軍陸軍に対する軍事オペレーションは実行され得る。こうなるとトルコは揺れる可能性がある。エルドアン政権は親中姿勢だが、一般国民の親ウイグル(≒東トルキスタン=東のトルコ国)傾向は根強い。本来のウイグル人の土地の分離も軍事オペレーションの一部として意図した場合、トルコ政権を揺さぶることも目的に含めた情報戦が先行して仕掛けられるだろう。トルコがNATO所属であることを忘れてはいけない。
海軍力を失った中国共産党への対応は周辺国に任せることとなるがが、台湾ですら調子に乗り過ぎて変な方向に力を傾ける可能性もあるから、台湾の米軍駐留は継続しておいた方が良い。結局のところダメダメなフィリピン政権への楔ともなる。また台湾政府は軍や世論と上手くいなさないと、本来得るべき果実を失う。日露戦争の日本側の戦争目的は「朝鮮半島及び中国東北部からのロシアの排除」だったから、現状追認による講和で目標達成が見えた時点で、「モスクワまで行けー!」とか国民(臣民)を煽っていた糞マスコミや軍の動きを抑え、賠償金を捨ててでも講和に持ち込んだ政府の戦争指導とそれを理解していた外交陣はやはり凄い。実は米国の対中戦争の目的は、台湾が大陸復帰を望むかどうか、米国が台湾が自身が望むことを自力で為し得る力を持っていると判断するかどうかで大きく変わる。が。この辺り、現在ではどうなるか見通せない。
台湾はそもそも中華民国だから大陸復帰は国是とも言えるが、台湾としての存在感、独自の価値を獲得したのは「大陸復帰などと言う世迷い事から自由になる」というリアリティを志向し始めてからである、換言すれば、「台湾は、大陸の中国共産党支配地域の有無に関係なく、台湾と言う独立した国家足りうる」と考える台湾人が主流派になったてからである。台湾はひとまず「単独で中国共産党を打倒、代替し得る勢力」という看板を下ろすことによって、最近の国際的地位が得た。これは多少皮肉っぽいと言うか、何とも複雑な思いにも捕らわれる展開ではある。
最後にあんまり関係ない話だが、最近キッシンジャーが「世界は第一次世界大戦前に戻る」旨の発言をしたとの報道があった。老人の言う世迷い事に過ぎないので無視しよう。彼の博士論文はその時代のバランス外交についてのものであり(日本語版をかつて読んだ)、彼は結局今のその時代の専門家以上でも以下でもないようだ。今にして思えば、彼の米国外交は時代を読んでいない酷いものであった。