DAWソフトのFL Studioが20周年ということで、バージョン13~19をとばしてバージョン20となるらしい。Youtubeでも既にレビュー、新機能紹介の動画を多数見つけられる、つまり新規機能の振る舞いも含め、実際に動いている様を既に確認できるのだ。正直なところかなりにポジティブな印象を受けている。他DAWが先行して取り入れた機能を良いと思えば衒いも無く積極的に取り込む姿勢も今まで通り、バージョン20でついにMacにも対応するので更に普及が進む可能性が高い。
FL Studioのライセンス形態は特殊だ。一度購入すればバージョンアップは無料、個人での使用である限り複数のPC/Macに同時にインストールしてよい。このようなビジネスモデルが成立するためにはFL Studioは常にユーザーを増やし続けなければならない。が、既に20周年を迎えていると言うことは、程度は不明だがそのビジネスモデルは成功しているということなのだろう。
FL Studioはプロも含めてユーザーは多く、ネット上に蓄えられたノウハウも膨大、既にライセンスは所有済なので今後使い続けても追加費用発生は無い、なのに未だ使っているDAWはCubase・・・だからと言ってCubaseが好きだと言う訳ではないのだ。また別途、Bitwig Studioも評価中だ。
と言う訳で、FL Studio20の登場は期せずして使用DAWの見直し機会を招いてしまった形となっている。
さて、突然ながらここでかつて存在したDAWであるCakewalk Project5にご登場を願おう。私にとってProject5はいわば初恋のDAWとでも呼ぶべきものだ。そしてこのProject5のワークフローこそ、未だに私の理想とするワークフローに最も近いのだ。ちなみに下の動画の音声トラックはProject5による。ソフトシンセとオーディオを同時に使える私にとっては初のソフトで、Vocaloidの使用には便利だった。
さて、Project5について多少詳しい仕様が気になる方はこのページで確認いただくとして、同ページから(勝手ながら)2枚の画像を転載させていただく。
1枚目の画像はCubaseなどでおなじみのレイアウトに見えるが、それは見かけだけの話だ。MIDIデータやオーディオの素材は「クリップ」という単位で管理され、各トラック中の同じ色の帯状要素は同一のクリップと理解してもらって構わない。例えば1小節の長さのMIDIシーケンスを16回繰り返す場合、1小節のクリップを作成してそれを16個並べれば良い。この状態で16個中の1個のクリップを編集するとどうなるか・・・16個のクリップは「同一」のものなので編集内容は残り15個全てのクリップに反映される。またオートメーションも基本的にクリップに含める。
2枚目の図は「グループマトリックス」と呼ばれたクリップの管理やクリップのトラック間での組み合わせの検討(アレンジの検討)のためのインターフェースで、Bitwig Studioのクリップランチャーは機能的にはこのグループマトリックスの正常進化版と言って良い。
このような「クリップ」とそれに基づくワークフローの概念はCubaseには全く無い。そもそもCakewalkがProject5のクローズ後にリリースしたSONARにもクリップの概念が無く、更に操作性もProject5と全く変わってしまった(Project5のワークフローは多くのユーザーからは好評では無かったようだ)。このため「MIDIノートエディタの操作性がProject5に相対的に近い」という一点を実質的な理由として、私はあっさりとSONARからCubaseに乗り換えてしまったのである。
FL Studio、Bitwig Studioともクリップの概念を持ち、特にBitwig StudioではProject5とほぼ同じワークフローも実現できるワークフローの選択幅を持つ。「ならばBitwig Studio一択ではないか」となるのが自然な流れなのだが、ここでは具体的には書かないとある2つの機能をBitwig Studioが未だ備えていないのが障害となっている、う~ん、早く導入してくれないだろうか(とか言いつつ、障害の一つはOzoneなどのマスタリング用プラグインなどでなんとかなるっちゃなる。ほぼ同じ障害を持つFL Studioでも、公開されているアマチュアのデータを見るとOzoneが刺さっていることが多く・・・っつーかOzoneを抜くと楽曲自体がふにゃふにゃで聞くに堪えられなくなるくらいにOzoneに頼り切っていることが少なく無い。Cubaseならミックスコンソールだけで・・・時間はかかるが・・・Ozone Elementが自動でやってくれるぐらいまでのことはできる)。
FL Studio、Bitwig Studioともクリップの概念を持ち、特にBitwig StudioではProject5とほぼ同じワークフローも実現できるワークフローの選択幅を持つ。「ならばBitwig Studio一択ではないか」となるのが自然な流れなのだが、ここでは具体的には書かないとある2つの機能をBitwig Studioが未だ備えていないのが障害となっている、う~ん、早く導入してくれないだろうか(とか言いつつ、障害の一つはOzoneなどのマスタリング用プラグインなどでなんとかなるっちゃなる。ほぼ同じ障害を持つFL Studioでも、公開されているアマチュアのデータを見るとOzoneが刺さっていることが多く・・・っつーかOzoneを抜くと楽曲自体がふにゃふにゃで聞くに堪えられなくなるくらいにOzoneに頼り切っていることが少なく無い。Cubaseならミックスコンソールだけで・・・時間はかかるが・・・Ozone Elementが自動でやってくれるぐらいまでのことはできる)。
他方FL Studioのクリップの概念はProject5やBitwig Studioのそれとは違う。ただし、おそらく「トラックの概念が違う」せいで「クリップの概念の範囲が違って見える」と理解するほうが妥当だろう。Project5のグループマトリックス、Bitwig Studioのクリップランチャーともに縦軸はトラックだが、FL Studioの同様のインターフェースの縦軸は音源(例えばソフトシンセ)である。
FL Studioにおいて(実はBitwig Studioも)「クリップに含める範囲」は、「クリップが元々MIDIデータだろうがオーディオデータだろうが、クリップ中でオーディオデータに変換される。オーディオ変換後はクリップ内では処理を区別しない(そもそも区別する理由が無い)」という考えに基づいていると個人的には見る。故に、FL Studioのクリップにはエフェクターなどのオーディオデータ変換後の処理も含めることになる。
この考え方は「素材を組み合わせる」という形のワークフローにおいてのみならず、プログラム内での処理としても極めて論理的、合理的だ。しかし、ミキサーのインターフェースが旧来のミキサー卓、つまり「Project5、Cubase、Bitwig Studioらにおけるトラックの基本概念のまさに実体、元ネタ」をただ模しているため、クリップ出力後のシグナルフロー(結線状態みたいなもの、チャンネル番号のような数字だけみせられてもねぇ・・・)が一望できず、慣れない私には物凄いストレス源となる。特に音量バランスや定位の調整のためにクリップまで戻る必要があるのは、「そうしなくても良いワークフローを使用者(私)が確立」できない限り非効率とならざるを得ない。ミキサー部だけは、他の部分の持つ論旨性、合理性とマッチングしていないのは明らかで、私にとってFL Studioが一番の選択肢とならない理由となっている。
個人的な考えとしては、FL Studioのアーキテクチャーはノード編集型のインターフェースに向いている気がする。良い例ではないが、例えば下図は典型的なノード編集型のインターフェースである。ノードと呼ばれる各要素の入力、出力の有無、数、内容だけでなく、ノードの入出力端子間を線で接続することでノード間のシグナルフローの全てが明示化可能であるとともに、シグナルフロー自体をGUIにより編集もできる。FL Studioのワークフローの持つ論理性、合理性は、マルチトラックテープなどを使っていたデジタル化以前のワークフローと多くの点で整合しないどころか、むしろアンチテーゼと見える部分も多い。そのため、「トラックの概念そのものと言って良い旧来からのミキサー」を模したインターフェースが、他の要素とめちゃくちゃ相性が悪いのは致し方ない。失敗などとは思わ無いが、どうしようもなく中途半端なところであり、「この中途半端さが受け入れられない(私のような・・・ただし私はもう購入済なのでセールス的には貢献した側)タイプの人間」には拒絶され続けられるだろうと思う。「トラックの概念」自体は残そうが壊そうが変形しようがどうでも良いのだ。ワークフロー全体の整合性、見通しの良さの問題なのである。
ミックスを施した後の出力を起点に出来上がり(最終出力)の調整を考える方法をトップダウン方式、ある程度作り込んだ素材を組み立てて得られた出力を起点に素材の微調整を考える方法をボトムアップ方式とするならば、Cubaseは前者、FL Studioは後者であろう。ではProject5やBitwig Studioはと言うと、実のところ「両者の良いところ取りのポテンシャルを持つが、完全な域には未だ至らず 」といった感じじゃなかろうか。
なお私見ながら、FL Studioのワークフローにおけるノウハウは初心者でも導入し易いため、出来上がりのレベルの底上げが期待できる。が、同時に似たり寄ったりの楽曲が量産され易く(つまりFL Studioというジャンルの出現だ)、また他楽曲との差をクリップレベルだけで出そうとするために、楽曲全体のバランスが悪くなったりこけおどしの音に頼ったりと劣化版コピーも生まれがちだ。
FL Studioのむき出しのワークフローをそのまま使うということは、出来上がりのイメージが明確にある場合に限るべきだ。センスの良し悪しが出来上がりに露骨に反映されると言いかえても良い。そういう意味で、自分のセンスに賭けることに自信の無いユーザーは、敢えてFL Studioを使わないという選択肢もあると思う。とは言え、私の見たところFL Studioのインターフェースなどが暗黙の裡に示す(だが頭空っぽにして見ればむしろむき出しに見える)ワークフロー自体は論理的故に硬直的ですらあるが、同時に頑丈で破綻しにくく無茶が効きそうだ・・・FL Studioの一つのミキサーチャンネルには最大幾つのソースの出力を送りこめるのかなぁ・・・何か起きないかなぁ。
繰り返すが、FL Studio20の登場予告により期せずして使用DAWの見直しを意識せざるを得なくなっている。困った事に、この見直しでは対象である複数のDAWの優劣を判断する訳ではない・・・(FL Studioの持つ圧倒的なコスト優位性を無視しても)文字通り、どのDAWの良さ、特徴を選びますか、という選択の問題なのだ。
追記(2018/6/11):
Project5(バージョン2)はWindows10でも動き、実は現在のPCにもインストールしてました(汗)。昔作ったプロジェクトファイルも発見したので、動作している状態の動画を上げておきましょう。曲はウズベクの有名な(汗)ポップス、"Yalla habibi(Ялла Хабиби)"のカバーです。なお、当時使用していたオーディオループやワンショットオーディオデータが全くインストールされていないため、アラブ系パーカッションは全滅しています。またプラグイン画面がキャプチャされていないので、マウスカーソルの挙動が不審ですね。
なお、楽曲のオリジナルはこちら。
さらにオマーケ。