GW明けぐらいから3DCGモデリングにも再び取り組もうと思い、操作方法を思い出すべくLightwave3D 2015をいじっている。現状は既存のデータを読み込んでいじる程度だが、再開に備えて新たに2つのソフトウェアも入手した。ひとつはFusion 7、もうひとつはKray 2.5だ。
Fusion 7は合成(コンポジット)ソフトウェアで、映画製作やTV製作の現場で使われているソフトウェアの下位バージョン・フリー版だ。 この種の技術の進歩は日進月歩、現在の下位バージョンと言えば3~4年前の上位バージョンと出来ることはほとんど変わらない。趣味で使う分には十分過ぎる機能を備えていると言える。特に「素材作りの環境は既に持っているけど合成がね・・・」という人には導入コストが決して低いとは言えないAdobe Aftereffectsよりもお勧めする。なおフリーで利用できる合成ソフトウェアとしてはプロ向ツールNukeの非商用使用制限バージョンもある。以前に紹介したDAWソフトウェアProtools | Firstもそうだが、プロ向けツールのフリー版の登場はオープンソースソフトウェア開発コミュニティにとっては多少なりとも打撃となりそうだ。
さて、出来ることがプロとほぼ同じソフトウェアを使うことの利点は、プロが発しているネット上のノウハウがそのまま使えること、メンバーにプロが多いネットコミュニティでの情報収集や交換がスムースになることなどが挙げられる。しかしFusion 7の導入は、これまでの「Lightwave3Dに始まりLightwave3Dで終わる」という私のワークフローをいったんガラガラポンすることにもなる。でも、だからこそ面白そうなのだ。FusionにしてもNukeにしても「レイヤー」の概念はもはや排除されており、その操作のフレームワークや思想は3DCGのそれらにむしろ近いと言える。
KrayはLightwave3Dに対応したレンダラーで、試用版をいじり倒した結果購入を決めたものだ。Lightwave3Dのレンダラーは高速かつ仕上がりは綺麗だが、できないことや仕上がりに対して必要な手間というコストが割に合わないことも当然ある。ずばり、Krayの肝となる機能である「フォトンマッピング」が実現できることがそのひとつだ。
3DCGおけるレンダリングとは、モデルの表面がカメラからどう見えるかをシミュレートするものだ。直感的なレンダリング方法としてまずレイトレーシングがある。これはモデル表面からカメラに到達する光の「軌跡」を計算する方法だ。至極当たり前の方法であり、理想的にはこの方法で問題無いと思うかもしれない。しかし、実際のところ有限の時間内で自然界の光の挙動をシミュレートするにはレイトレーシングは正攻法過ぎるのだ。例えばレイトレーシング計算では、光の反射回数を制限しないと計算が何時までたっても終わらない可能性がある。真っ暗な空間に点光源が複数しかないような特殊な条件でしか、(光の波動性が無視できるスケールに対して)レイトレーシングが厳密な結果を与えることは無い。実際、線光源や面光源は多数の点光源で近似するのが一般的だ。指向性の無い(等方的な)面光源はレイトレーシング向きではないが、これこそ私たちの暮らす世界では最も一般的な光源のひとつなのだ。
空は青く見える、と言うことは空は青い光を放つ光源と言える。3DCGソフトウェア内の世界の中心に置かれたモデルから見れば、空は方向によって色や光の強さが変化する半球状の面光源だ。
フォトンマッピング計算では光は「有限な」多数子の粒子で近似し、最初っから厳密には取り扱わない。光の強度のモデル表面への影響は、その表面に「ぶつかって『蓄積された』粒子の数に比例する」ものとして統計的に取り扱われる。フォトンマッピングのレンダリング結果は「カメラから見てモデル表面が(蓄積された光の粒子によって)どう輝くか」に相当する。ただし、統計的にエラーの少ない結果を得るためにはできるだけ多数の光の粒子を飛ばしてやらなければならない。だから「統計的に取り扱う」のは厳密にはレンダリング結果を得る段階のみの話であり、計算自体は「投機的」である。つまりフォトンマッピングは基本的に効率の良いレンダリング方法とは言えない。しかし、計算する膨大な粒子数というコストさえかけることができれば、いわゆるフォトリアリスティックなレンダリング結果を得られる。
リアリティに何が効くかと言うと、「照り返し」と「影のエッジのブレ」だ。両者ともに単に光の反射計算だけでは再現できないから、レイトレーシングでの再現には何らかのトリックが必要だ。でもフォトンマッピングが使えるKrayなら、計算する粒子数にさえ気をつけておけば静止画で変なレンダリング結果が得られることはまずない。下図はKrayのレンダリング結果だ。光源は太陽と空、白い面からの照り返しや影のエッジのブレもあっさり再現されていてちょっと感動してしまいましたよ。