いわゆる「時かけ」、あらためて歌詞を噛みしめながら聞くと実に切ない。映画自体は監督が大林宣彦氏だとか一部の俳優の演技に難ありだとか、まぁ色々あるのだが、捨て置けない作品ではある。原田知世さんのセリフ、
「んも~、意地悪ゴロちゃん!」
は最高なのである。「ゴロちゃん」ではない自分だって言われたいのである。さらに「桃栗三年、柿八年、柚子は九年で成り下がる、梨の馬鹿めは十八年」というフレーズは未だ覚えているのである。とは言え、
「土曜日の実験室~!」
というセリフは、やはり大林作品「ねらわれた学園」の
「私は宇宙!」
には破壊力で及ばない。が、破壊する対象が映画自体だからこれは良いことだ。
さて、オケであるが、もともとのコンセプトはカイリー・ミノーグの「ロコーモーション(1988)」風を当時自分が持っていた機材のシミュレーションでやろうと。機材と言うのはCASIOのポップキーボードSK-1とHT-700だ。幸い、SK-1のドラム音はネットからサンプル音を入手でき、またネット上に公開されているHT-700をシミュレートしたVSTi "plastique"が素晴らしい出来で、オケ自体の出来上がりがしょぼい原因の全ては自分にあるとしか言いようがない。
が、ベース、ドラムを一旦組んだ時点でベースにディレイをかけてみたところから軌道は大きく外れ、「ロコモーション」からは実に遠いものになってしまった。しかも、イントロらしきイントロは無く、最後はフェードアウトという淡白さと相成った。
ま、志が低いんだからしょうがない。
で、肝心のMegpoid Nativeだが、なにせSONiKAが基準だから文句の付けようが基本的にはない。今回もボーカロイドエディターのほぼデフォルト設定で編集したものをwaveファイルでエクスポート、DAW上ではビブラートの振幅を一部小さくしただけなので、リバーブを外せばほぼボーカロイドエディターで聞ける音と同じだ。個人的にはボーカロイドなんてのはただのインストゥルメント(まぁ言えば楽器)だから、ブレスなんて入れようなんて思いもしない。
原田さんのオリジナルを記憶の隅っこに置きつつも、ボーカルのメロディーラインはとある女友達のカラオケ歌唱時のものをなぞっている。第2コーラスの「宇宙の海よ~」あたりの節回しにはちょっと癖があるのではないかと思う。ちなみに松任谷由美さんのバージョンは未だ聞いたことがない。
しかしながら、ボーカロイドも漠然と打ち込んだ訳ではないので、少し気にした部分にも触れておこう。ボーカロイドの歌い出しに違和感を感じたことのある人は試してみて欲しい。
実際に人間が歌ったボーカルラインを調べてみると、歌い出しから音程がぴったり合っている例はまれだ(調べた範囲ではザ・ピーナッツはほとんど外していない)。じゃあボーカロイドではどうなっているかと言うと、少なくとも今回打ち込んだMegpoid Nativeでは、音程が高い方から入って歌い出しの本来の音程へと至る。他方、絶対音感が無くて正しい音程を探しながら歌っている人間の場合、ほぼ例外なく音程が低い方から入って歌い出しの本来の音程へと至る。だから、少なくとも他人のカラオケ歌唱の記憶と一致する「正しい音程を探しながらの歌い出し」を再現するには、歌い出しの最初の音程は実際より低い音程から入った方が良いことになる。
そこで今回は、歌い出しの一拍前に1オクターブ低いダミー音をエディター上で入れてみた。ここでダミー音は発音される必要はなく、「発音できない発音記号」を適当に入力しておけば良い。これにより見事に歌い出しは低い音程からとなった。「正しい音程」へ向かう速度は歌唱法の設定やダミー音との距離に依存するから多少の試行錯誤は必要だけど、前述の「歌い出しの違和感」の解消には有効だと思う。
ちなみに「あ」「ゆ」「な」「た」はMegpoid Nativeの鬼門だということが良く分かった。これは発音が不明瞭で音量も小さくなる傾向があるため、違和感の原因になり易いという意味だ。「時かけ」の歌い出しは第1コーラスが「あなた」、第2コーラスが「ゆ」で実は鬼門直撃なのだが、実際どうなのか気になる人は聞いてみて下さいな。
ボーカロイドの音声データをいじるのはこれからですからね。