2021/03/22

ミャンマーでの事案、それでも「クーデター」とは呼べない理由

 2月初旬、あくまで個人的見解として「ミャンマーでの事案、『クーデター』とは未だ呼べない感の理由」というタイトルのエントリを書いた。そのエントリでは、民主化後のミャンマーの方が先行する軍政時代より少数民族に対する迫害がエスカレートしていること、国家顧問と言う存在・機能が時に憲法を超えるがためにファシズム体制の様相を呈しうること及び最近の民主派政権の中国共産党への接近に触れた上で、軍の行動が国民に一定の支持を受ける可能性を想定した。だが、その後の展開は私の予想とは完全に別方向に進んでいった。

 私の読みの大外しの原因としては、ミャンマー軍も幹部級はさすがにもうリアリストが占めているだろうと根拠無き思い込みがあったこと、ミャンマー軍へのベトナムの影響力を過大評価していたことが挙げられよう。後者は逆に言うと、現在のベトナム軍と中国共産党との関係についての私の認識が間違っている、古いということになる。軍に対するベトナムの影響力が強ければ。そこへ中国共産党の影響は入れないからだ、う~む。

 とは言え、昨今の報道内容に基づけば、やはりこの事案は「クーデター」と呼べない。では何かと言うと、中国共産党習近平派による内部浸食侵略である。他国がミャンマー軍を非難できても、中国共産党を非難できない形でミャンマーは中国共産党の支配地域に落ちつつあるようだ。まさにサイレントインベージョンということになるだろうか。

 ここ数日の複数の報道に、中国共産党人民解放軍の左官級の人間が顧問としてミャンマー軍に派遣されていること、軍により逮捕・殺害された人物の遺体から中国共産党人民解放軍特有の拷問痕が確認されたことへの言及がある。人民解放軍には治安軍(国内向けの軍。いわゆる武装警察の一部と言うか、武装警察全体が実質的に極めて軍隊的な組織に再構築される途中にある)があり、中国共産党支配地域内の民族、宗教など弾圧を担当している。先の拷問痕も治安軍特有の拷問方法のものの可能性が高いとされる。拷問方法の特徴は、苦痛を与えると同時に徐々に肉体的にしゃべられなくする、声を出せなくするところにあり、明らかに自白を引き出すことなどは眼中になく、拷問自体が目的化している嫌な状況をうかがわせるものである。また、そんな拷問痕の残る遺体を親族に引き渡すことは、「声を上げるな」「しゃべるな」といった警告の意図を強く感じる。

 治安軍には、通常軍(陸軍、海軍、空軍など)と 同等の予算が与えられているとされる。このような治安軍の拡大は習近平政権によるものであり、2015年ごろにはその予算の大きさ故に治安軍は経済的に中華人民共和国を傾けるだろう、或いはそこまでしないと国内がまとめられないなら中国共産党も長くないとまで予想する人もいた。が、実際には治安軍は大活躍しているようで、チベット人やウィグル人など少数民族の弾圧、法輪功など反中国共産党を掲げる(或いは弾圧されたため掲げるようになった)各種集団・組織の弾圧、香港の普通選挙要求運動への介入などに投入されているらしい。

 かっては江沢民派は経済界を、李鵬派は通常軍を後ろ盾に持つ一方、習近平には後ろ盾となる組織が無いとされ、それが「お飾りのトップ」を望んだ党指導者層の眼鏡にかなったとも言われた。が、今や治安軍が習近平の後ろ盾となっている。上述したように治安軍は予算規模で通常軍と同等、または凌駕している。また人民への拷問、惨殺も辞さない暴力装置を目の前にして経済界の人間ができることは、戦争のできる大国の庇護下に入るか、媚びへつらうか、死ぬかしかない。中国実業家の海外での転落死の数はやはり不自然に多い。

 初手で大外しした以上、もうミャンマーの将来については私は何も予想できない。ただし、本事案からは明らかに習近平がことを進めることに急いでいる様子が見える。

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