DAW触ってる限りはモニタリング用ヘッドフォンを物色し続けるんだろうなぁ。
で、エントリタイトル記載の状況発生の原因なのだが、もちろん一つではなくてざっくり以下の3点に集約される。
- DAW(Cubase Pro)を動かしているPCのBIOSがアップデートされたら、ヘッドフォン端子の挙動がおかしくなった。
- DAW(Cubase Pro)を11にバージョンアップしたら、BluetoothヘッドフォンがDAWのアウトプットに指定できなくなった。
- DAWのモニタリング用ヘッドフォンについて改めて考える機会があった。
まず前段について簡単に記す。
2019年に購入したヘッドフォンSONY WH-1000XM3は、ノイズキャンセリング機能には文句のつけようがないのだが、如何せん周波数応答特性に「味付け」が過ぎた。ここで言う「味付け」とはメーカーが意図的に施した周波数応答特性の調整を指す。低音の強調とかが典型的な例だ。味付けが過ぎることの問題は、聞こえる音が音楽の作り手、送り手が意図したものからどんどん離れていくところにある。逆から言えば、「味付け」が過ぎるヘッドフォンで「いい感じ」に聞こえる音は、他のヘッドフォンやスピーカーで再生した際に聞くに堪えないものになる可能性があると言うことだ。故に、SONY WH-1000XM3はDAWのモニタリング用ヘッドフォン、特にマスタリング時にはとても使えないと言う残念な結論に一旦至った。まぁ、下調べが足らんかったと言えばそれまでなのだが、まさかあの価格帯で、しかもノイズキャンセリング機能を売りにする製品で、あんな強い「味付け」が為されていようとは思わなかった。
じゃあマスタリング以外での使い勝手はどうかと言うと、Bluetooth接続によるレイテンシ(ここでは、音の再生遅れ)が大きくて輪をかけて使えない。聞こえる音の音量などの変化とDAW上のメーターの上下動とのズレの所為だけで、私は数分で酔ってしまう。
とは言え高い買い物ではあったし、PCならば周波数応答特性はいじれなくもない。そこで昨年当初に試したのがSonarworks Reference4 Headphone Editionと言うソフトの試用版だ。
このソフト、測定結果に基づくプリセットデータがあれば、ヘッドフォンの周波数応答特性を「味付けが無い状態(以下、周波数応答特性がフラットな状態、または単にフラットな状態、と言う)」に限りなく近づけてくれる。別の言い方をすれば、作り手、送り手が意図した音に近づけてくれる(筈)。あくまで「私の耳」での話だが、ソフトを介して特性をフラット化したSONY WH-1000XM3とSennheiser HD599(半開放型)との音は様々な音源で区別ができなかった。敢えて分かる差があるとすれば、クローズハイハットのような高周波数を含む音の輪郭がSONY WH-1000XM3の方がはっきり聞こえる(粒立ちが良く聞こえる)ぐらいだろうか。が、これは密閉型+ノイズキャンセリング機能のおかげが大だろう。とは言えBluetooth接続のレイテンシの大きさは如何ともし難く、加えてSonarworks Reference4を介することでも追加のレイテンシが発生するから、やはりDAW操作時のモニタリング用途には使えないとの結論に至った。
ただ、DAW操作時のモニタリングのメイン機として使っているSennheiser HD599の周波数応答特性にもSonarworks Reference4を介せば私の耳でもすぐ分かるレベルの「味付け」は有ったので、暫くしてSonarworks Reference4 Headphone Editionを購入した。ちなみにこのソフトにはDAW用のプラグインも同梱されている・・・と言うか、本製品の真価が本当に問われるのはDAW上でだろう。
これでやっと前段の説明終了だ。DAWのモニタリング用途も意図してSONY WH-1000XM3を購入したものの、1年以上も塩漬け放置状態となっていたと言うことだ。では、SONY WH-1000XM3の復帰?を促した上述の3つの原因に触れていこう。
まず原因その1。私のメインPCはDell社の2020年モデルなのだが、最近うっかりBIOSをアップデートしてしまった。具体的には1.0.5から2.0.11へのアップデートだ。不用意なBIOSのアップデートを原因とするオンボードのオーディオ機能の不具合に悩まされる経験が重なったことからBIOSのアップデートは避けてきたのだが、今回はMicrosoftアップデート内に紛れてアップデータが配信されてしまい、チェック漏れから万事休すとなった。
今回のバージョンのBIOSでもオーディオ周りに幾つか不具合が発生している。例えばPC動作中にフロントのヘッドフォン端子からヘッドフォンを一旦抜くと、ヘッドフォンを刺し直そうが別のヘッドフォンを刺そうがOSがヘッドフォンを認識しない。より厳密には、OSから見てヘッドフォン端子自体が無い状態となる。ヘッドフォンの再認識には、ヘッドフォンを端子に刺した状態での再起動が必要だ。このような状態発生のひとつの回避方法は、ヘッドフォン用の延長ケーブルをPCフロントのヘッドフォン端子に刺して絶対抜かず、ヘッドフォンの交換は延長ケーブル経由とすることである。もうこの時点でハードウェアとOSの連携が取れなくなっていることが分かる。この連携を担うものこそがBIOSなのは言うまでもない。
結果として延長ケーブルのメス側端子が常にが手元にある状態となり(PC本体はお気持ち遮音と綺麗なエアフロー経路の確保を目的とした簡便な仕切り板の向こう、1m強離れたところに置いてある)、ヘッドフォンの交換の億劫感がエラく下がった。
次いで原因その2。メインDAWであるCubase Proのバージョン11へのアップデートに合わせてGeneric ASIOドライバーもアップデートされたが、BluetoothヘッドフォンがDAWのアウトプットの選択肢として表示されなくなった。ASIO4ALLやFLStudioASIOと言った他のASIOドライバーでは選択肢として表示されるので、これはOSではなくドライバーの問題だろう。ただ私の環境では、DAWとASIOドライバーとの相性からGeneric ASIOドライバー以外の選択肢は無いので、SONY WH-1000XM3をCubase Proで使いたければ有線接続するしかない・・・ん?、有線接続ならBluetooth接続を原因とするレイテンシは気にしなくて良くなるぞ、アレ?
最後に原因その3。まず、Sonarworks Reference4 Headphone Editionを後継製品のSoundID Reference Headphone Editionに最近アップグレードした。利用しているオンライン決済サービスからのクーポンなどを最大限活用し、かなりお得にアップグレードできた。次いで、Youtubeでお勧めされたシユウさんの動画 「【最強ヘッドホン】全ての音が見える『YAMAHA HPH-MT8』は、聴いてるだけで音作りが上手くなるぐらいヤバい。」を観て、さらにSonarworks Reference4でYAMAHA HPH-MT8の周波数応答特性を確認したところ「(少なくとも周波数応答特性に関しては)成程!」となったことが大きい。
SONY WH-1000XM3の周波数応答特性は下図の紫のラインだ。黒い水平な直線が「味付け」の無いフラットな特性であり、私がモニタリング用ヘッドフォンに求めている理想の特性、作り手や送り手の意図した音が再現できる特性だ。50Hz以下の領域でも実際よりも大きな音で再生する特性となっているので、音がモコモコし易い。また1k~5kHz付近の音を実際よりも小さく再生する特性は多くのヘッドフォンで見られるが、6dbを超える再生音量の低減はやり過ぎだ。
対してYAMAHA HPH-MT8の周波数応答特性は下図の通りで、明らかにSONY WH-1000XM3よりもフラットだ。
周波数応答特性がフラットな方が「音が良くなり得る」或いは「聞き心地が良くなり得る」理由は考えてみれば単純で、「プロが楽曲のマスタリング時などに使用している機器の音周波数応答特性が基本的にフラット」であるからに他ならない。作り手、送り手の意図通りの音が再現されるから、と言い直しても良い。
「じゃぁさっさとYAMAHA HPH-MT8を買ったら?」と思ったあなたは正しい。だがヘッドフォンは実際に装着してみないと分からないことも多く、新型コロナ禍下の田舎暮らしの身にはなかなか実物に触る機会が作れない。まぁ金銭的に余裕が出てくれば、実物を触らないまま何かをポチりそうであることは否定しない。
一方、「SoundID Reference Headphone Editionとやらがあれば、別にYAMAHA HPH-MT8なんて買う必要なくね?」と思ったあなたもかなり正しい。実際、ここで触れていないものも含めて様々な要因から現状の私はそういうポジションを取っている。故に「有線接続前提で」SONY WH-1000XM3がDAWモニタリング用に復帰した訳だ。何のかんのとノイズキャンセリング機能の利点はバカにできない、バッテリーの持ちも良い。物理的にはやっぱり重いけどね。
とは言え、SoundID Referenceにもレイテンシがある。20~60ms台なので基本打ち込みしかしない私には許容範囲だが、録音する人には耐えがたいレイテンシだろう。故に「SoundID Referenceがあれば良くね?」と言うのはあくまで私のようなDAWの使い方をしている人間にしか当てはまらない訳で、YAMAHA HPH-MT8とかを使って低レイテンシとフラットな周波数応答特性の音を両立するのが王道なのは変わらない。