朝日新聞(朝日新聞デジタル含む)は8/5、6にシリーズ記事「慰安婦問題を考える」を掲載した。しかし、通常であればほぼ当日中に行われる英語版の掲載が当該シリーズ記事に限って為されていないことが報道他社含め多方面から指摘され、一部では非難の声も挙がっていた。当ブログ主も英語版記事を掲載しない朝日新聞社の姿勢を「まさにゲスの所業」と見ていた。
当ブログでは、このシリーズ記事のうち2件の記事を挙げて私なりの注釈を加えてみたりしている。記事の内容は置くとしても、論理的には酷い文章であること、偏向乃至は印象操作が疑われる記述が散見されるのは動かし難いだろうと感じている。
関連エントリ: 朝日新聞「慰安婦問題を考える」の不完全な解説
#1 #2
そんな中、昨日になって英語版記事が掲載され始めた。正直、記事自体を見つけるのにかなり手間を喰ったことを告白しよう。本来一番目にそれらの記事が出てきてもおかしくない「検索ワード」を使って記事検索しても、なかなか目当ての記事がヒットしなかったことが理由のひとつである。もちろん、使用した検索ワードは英単語だ。英語版記事掲載の可能性については、
過去エントリで次のように書いた。
でも真面目な話、あのシリーズ記事の英語版は書けても英訳は不可能だと思う。姑息なレトリック満載の記事の文章は論理破綻の塊で、日本語ですら成り立って
いない。そんな文章、或いはそもそも論理構造も論旨すら備えていない唯の単語の羅列なんか、論理構造がより明確であり、あやふやな記述を苦手とする英語に
訳せるとは思わない。翻訳を頼まれた人が居たとしても、できる人間ほど頭を抱えてしまうだろう。概して英語で曖昧な文章を書くことは難しい。
「1段落だけ抜きだすのは恣意的では?」と思う人もあるだろう。しかし記事は「疑問→回答」の形式を採っているので、第1段落は「疑問」の部分そのものであり、単独で論理性などを吟味することには恣意性も任意性も入らない。「正しい回答、解答」を得るには「適切な疑問、質問」を発することが必要だ。その観点からは「回答」部分よりも「疑問」部分の方がむしろ論理的にきっちりと閉じている必要があると言って良い。
では、始めよう。
英語版記事
Question: There was a man who testified in books and meetings that he had used violence to forcibly take away women on the Korean Peninsula, which was Japan's colony, to make them serve as comfort women during the war. The Asahi Shimbun ran articles about the man from the 1980s until the early 1990s. However, some people have pointed out that his testimony was a fabrication.
対応する日本版記事
〈疑問〉政府は、軍隊や警察などに人さらいのように連れていかれて無理やり慰安婦にさせられた、いわゆる「強制連行」を直接裏付ける資料はないと説明しています。強制連行はなかったのですか。
testifyは「証言する」、testimonyは「証言」、a fabricationは「つくり話、つくり事」、comfort womenは「慰安婦達」。
さて、この時点で英語版と日本語版とで既に論理的観点から見て大きな違いがある。日本語版では「政府は、軍隊や警察など」という強制連行の主体の記載があるが、英語版には「政府」も「軍」も「警察」も出てこない。
日本語版では以前からの朝日新聞の主張、すなわち「日本政府、軍、警察は慰安強制連行の主体であり、日本政府に謝罪と賠償の責任がある」を反映した文章となっている。しかし英語版では、「日本の植民地であった朝鮮半島で、証言者(吉田氏)は暴力を用いて強制的に女性を連れ去った」と書かれており、「一人の男」(a man)である証言者(吉田氏)しか慰安婦強制連行の主体として挙げられていない。つまり、記事の最初の段落から日本語版と英語版の記事の内容は本質的に異なっている、「まさにゲスの所業」である。
他方、あくまで「日本の植民地」(Japan's colony) という表現は譲らない。私の知っている歴史的経緯からは「日本統治下」(under the Japanese rule)あたりが妥当だと思うのだが。また、太平洋戦争をthe war(~これぞ全世界万民にとっての戦争の中の戦争!The war of wars!戦争の中の戦争!)と書いてしまうセンスは英語的にはかなり疑問、というかかなり書き手が頭悪そうに感じられる英文。ネイティブの書いた英語ではないか、ネイティブが書いた英文を英語を良く知らない人間がいじったとか、可能性は色々考えられますがね。
on?which?articles about the man!?とか細かいところを挙げたら実のところキリが無い。これらは文法上の話ではなくて記述されている内容の論理構造に関わる話、行間や文脈を敢えて読まずに「英文で記述されている論理」をそのままを受け入れようとしても意味が全く理解できない、ということだ。
日本語版と英語版の「疑問の内容の違い」の原因が、「もともとの日本語版記事の段階で回答が疑問に対する回答になっていなかった(論理破綻していた)」ので「単純に翻訳してもまともな英文にならない」、ならば「いっそ疑問の方を回答に合わせて変えちゃいましょう」、とかだったりするんじゃないかと本気で怖い。もしそうなら脳だけでなく性根も腐りきってる。
あと、Questionと言いながら、英語版は全く疑問の要素を含んでない。会合などの質疑応答で「質問をせずにただ自分の主張を述べ続ける人」みたいなDQNな感じは否めませんね。
最初の段落だけでこの有様。