2013/04/01

wired.jpの記事 「どのようにSNSは死を迎えるか」が面白い(その7)

 さて、独断と偏見に基づく論文(David Garcia, Pavlin Mavrodiev, Frank Schweitzer: "Social Resilience in Online Communities: The Autopsy of Friendster", arXiv:1302.6109v1(2013).)の読解、最終回です。最終回で書くのもなんですが、本論文はいわゆる査読が一切入っていないものです。そのせいもあってか、数値や数式の矛盾、こなれていない英語の表現が散見されます。本ブログ中の数式の一部は論文中の数式とは一致していないので念のため。

 著者らはOSN(Online Social Network)のメンバー間の関係をネットワーク構造でモデル化し、モデル化したネットワークの「弾力性」から、成功したOSNと失敗した(閉鎖された)OSNとの差の説明を試みました。しかし、ネットワークの「弾力性」という概念だけでは、むしろ失敗したOSNののネットワーク構造の方が崩壊しにくいという結果に至りました。何が足りなかったのでしょうか?

 OSNの崩壊とは、メンバーの大量離脱とメンバーがそのコミュニティに属し続ける価値の低下とが負の連鎖を引き起こし、メンバー数の激減が続く現象を指します。このような現象は極めて「ダイナミック」な現象です。敢えて「ダイナミック」という表現を使う意味は、コミュニティの崩壊過程は「(何かが)アンバランスな状態が維持され続ける」状態と見なすべき、というニュアンスを含めるためです。何か重要な指標となる量が「バランス」すれば、崩壊は止まる可能性があります。崩壊が続くということは、何か重要な指標となる量が崩壊と共に変化し続け、ついにはコミュニティの完全な崩壊まで「アンバランス」なままが続いたと解釈することができます。

 著者らは、閉鎖されたOSNであるFriendsterの崩壊過程の説明を、これまで展開してきたネットワークモデルから試みます。その結果、ネットワークの崩壊とともに変化する臨界コア度(critical coreness)という概念に至ります。臨界コア度とは、メンバーがコミュニティからの離脱をほぼ(モデル上は100%の確率で)決断することになるコア度です。例えば臨界コア度が10の場合、コア度が60のメンバーはコミュニティに残りますが、コア度が9のメンバーはコミュニティを離脱します。そしてこの臨界コア度はコミュニティの崩壊とともに増加します。

 ここで注意しなければならないのは、臨界コア度は既に崩壊過程に入ったコミュニティのモデル化にしか役に立たないことです。臨界コア度は崩壊が発生するか否かの判断には使えません。

 もう少し臨界コア度の定性的意味合いを考えてみましょう。臨界コア度はコミュニティの崩壊に伴って増加します。つまり、崩壊過程に入ったコミュニティの規模の減少は、コア度の低いメンバーの離脱によるものとみなせるということです。著者らが分析の対象としたしたOSN、Friendsterのネットワークの全体構造は、コア度の高いネットワークの周囲に相対的にコア度の低い複数のネットワークが分布する構造が何層にも繰り返されるというものです。このような全体構造は決して珍しいものではなく、Facebookだろうと同様だと考えて良いでしょう。臨界コア度の増加という考えは、コア度の高いネットワークよりも先にその周囲の相対的にコア度の低いネットワークが消失することを意味しています。そして最後にはコア度が高いネットワークのみが単独で残されます。このようなネットワークはたった一人のメンバーの離脱だけでコア度が一つ下がってしまう構造であり、メンバーの大量一斉離脱に対する「弾力性」は低いと言わざるを得ません。成功しているコミュニティにおいてコア度が高いネットワークがそれなりの「弾力性」を持つのは、その周囲にコア度が1小さいだけの複数のネットワークが存在しているからなのです。このような状態では、コア度の高い中心のネットワークから複数のメンバーが離脱しても、そのネットワークの大部分は周囲のネットワークの一部となることでコア度の低下を1で収めるでしょう。

 では臨界コア度はコミュニティ崩壊過程で何故増加するのでしょうか?

 実は、これは問いかけが間違っている可能性があります。おそらく、臨界コア度はいったん増加しだすと止められません。では臨界コア度の最小値はどのくらいでしょうか。論文の著者らはFriendsterでは3ではないかと仮定しています。この数値はけっこう小さいですね。ここで前言を撤回し、臨界コア度は安定した成功しているOSNのネットワークにも存在するとしてみましょう。言わんとすることは単純です。臨界コア度が3のOSNは、コア度が3を超えるネットワークを作ることが難しいのではないか、ということです。Friendsterの崩壊の原因にはFacebookの台頭などが原因として考えられていますが、ユーザーインターフェースの変更も原因と考えられています。コア度の増加には、直接の友人とすべきメンバーをメンバーが相互に見つける必要があります。つまり、ユーザーインターフェースの変更がメンバーが新しい友人を見つけにくい方向に作用した場合、そのOSNのメンバーは新しい友人を見つけられずに自分のコア度がなかなか上げられません。新規メンバーに至っては、新しいネットワークの形成はもとより、既存ネットワークへの参加も困難となります。

 以上を簡単にまとめます。
  • OSNのコミュニティが安定、または拡大するためには、コア度の高いネットワークの周囲に相対的にコア度の低いネットワークが存在する多層構造を形成、維持しなければならない。
  • コア度の低い周囲ネットワークの消失によるOSNのコミュニティ規模の減少は、臨界コア度という指標で評価できる可能性がある。
  • 臨界コア度でOSNの崩壊が説明できる場合、コミュニティ全体のネットワーク構造の「弾力性」の強弱はOSNの崩壊開始の直接の原因とはならない。
  • 臨界コア度は規模が安定、または拡大しているOSNでも考えることができ、これは「ネットワークの形成のし易さ」、コミュニティメンバーの視点からは「直接の友人の見つけやすさ」を反映している。

 最後に論文著者らのFriendster崩壊過程の説明を簡単に述べます。下図は、縦軸に"www.friendster.com"のGoogleにおける検索数を、横軸に時間(時期)をプロットしたものです。黒四角(□)が実際の値、赤実線が後述するシミュレート結果です。著者らはFriendsterの実際のメンバー数の時間変化を入手できなかったため、メンバー数がGoogleの検索数に比例すると仮定しています。検索をするということは活動的なメンバーの筈ですから、公式なメンバー数よりも実質的なコミュニティのメンバー数にむしろ対応しているかもしれません。

 OSNの実質的な崩壊開始は赤実線の左端、2009年8月ごろです。著者らはFriendsterのスナップショット(ウェブページのキャッシュ)に基づいて、コア度が3以上のコミュニティネットワークを作成し、臨界コア度に基づいてコミュニティ規模の減少過程をシミュレートしました。赤実線がその結果です。シミュレート結果と実際のGoogle検索数の時間変化の一致は良好です。シミュレートでは最初の臨界コア度を3とし、1ヶ月毎に6づつ増やしています。2010年6月ごろ(図中の「15%(10M)」と書かれているあたり)には臨界コア度は67に達し、もはやこのOSNにはコア度が67以下のネットワークは存在しません。そもそも臨界コア度の増加は新規メンバーの参加のし難さを反映したものですから、いったん低コア度ネットワークが消失したコミュニティが新規メンバーを獲得できるはずもありません。コミュニティの規模が小さくなることはあっても大きくなることはありません。以降は、コミュニティからメンバーが離脱する度に残ったメンバーのコア度は下がり、それが更なるメンバーの離脱の引き金となります。

 かくの如く、Friendsterの崩壊過程を説明できる「一つのアイディア」が提示されました。著者らは今後の予定としてTwitterなどの別形態のコミュニティの分析を表明していますが、まだまだFriendster崩壊すらも十分に分析できているとは思えません。ネットワークのコア度という概念の可能性に引かれてこの論文を読みましたが、門外漢ながら深みに欠ける内容です。更なる分析を切に期待するところです。

 さて、多数回に渡った論文読解は以上で終了です。興味がある方は論文に直接挑んでください。本ブログでは論文内容の20%ぐらいにしか触れていませんし、説明のし易さから独自の解釈も含めています。いずれにしても、なんとか終わらせることができましたね。正直ほっとしています。

 でわ。

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