とにかくCPUパッケージ温度が100℃近くまでしょっちゅう上がるので、メインPCのCPUをダウンクロックした話は以前にした。CPUはIntel Core i7-10700で、具体的には120Wだったターボブースト出力を60~70Wにまで下げた。それでも、CPUパッケージ温度は85℃付近まで上がる。
あらためて断っておくが、私はオーバークロッカーの類ではない。趣味で3DCGをやっているだけだ。が、3DCGの世界のレンダリングという作業では、特に動画を作る場合は、PCを2~3日間全力運転させることなんてざらにある。だから「趣味の範囲で」という注釈の下(つまりまずは安く)、そのようなタスク「も」そこそここなせるPCが欲しい。できるだけCPUの能力を引き出しつつ、故障や不具合発生の可能性を下げた運用が可能で、睡眠を阻害しないレベルで静かなPCだ。じゃぁ何でDellなのか・・・いやいや、先代のメインPCだったDell XPS 8700は、グラフィックボードこそは交換したが上記の私の要求を満点で満たすものだったのだ。Alienwareを買収したあたりから製品の技術的傾向に変化が見られ始めた感じがする。まぁ今回のCPUクーラーの件のようにPC性能の足を引っ張る明確なアキレス腱があって、そこに約¥4000とちょっとした作業だけでPC性能が「そこそこ化ける」・・・って展開は試されてるみたいでまだ楽しめるレベルだし、Dellのハードウェア設計の基礎部分の手堅さみたいなものは感じる・・・感じない?フルタワーケース製品以外に拡張性はもはや求めちゃダメだけどね。
さて、
「CPU温度 適正」といったキーワードでググると「高負荷時でも70℃台、80℃越えはヤバい」といった辺りの情報が大勢だが、Intelのスロットリング(上限値制限制御)のロジックからはそういう印象を受けない。という訳で「85℃でもええやんけ」と思っていたのだが、Intelの公開されている技術資料を見て考えが変わった。これが8/9の夜の話。んで8/10にはCPUクーラーを交換しちゃった訳だが、最近のエントリの内容はこういう早い展開が多いな。
従来よりIntel CPUの許容最大温度としてケース温度T_caseが用いられてきた。これはヒートスプレッダの最高許容温度であり、以前より熱暴走や破損を防ぐ上での基準となっていた。具体的に72℃付近であり、少なくとも第4世代以降のCoreではほぼ変わらない。一方、最近では、書類でかつてT_caseが書かれていた位置にはジャンクション温度T_junction_maxと呼ばれる温度が書かれることが増えた。これはコア内の接続部が破損しない(=断線しない)温度で、具体的には100℃である。Intel Core i7-10700などでコア温度が100℃に達すると、クロック周波数を下げるなどして温度を下げる制御が為されるのはこのためだと思われる。
ではCore i7-10700にとってケース温度T_caseは気にしなくても良いかと言えばさに非ず、ネット上に公開されているIntelの技術資料をきっちり読めば Core i7-10700でもケース温度T_caseが72℃程度であることははっきり書かれている。つまり、「85℃でもええやんけ」という考えは間違っている。技術屋気質を気取るなら、反省する間も惜しんで事態の本質的是正に動くべきってところだろう。
ちなみに、ネット上には「昔はケース温度T_case、今はジャンクション温度T_junction_maxが制限」といった文章もあるが、書いた当人の肩書がどうだろうがIntelが発行・公開している技術文書の記述に基づけばこれは当然間違いである。こんなんに仕事出してるようなレベルお察しな会社、経営大丈夫か。まぁ、ターボブースト運転を連続24時間とか、普通の用途では有り得ない使用条件であることは認める。
さて、メインPCはDell XPS 8940というちょっと困ったちゃんである。
まず、CPUファンやケースファンの回転数を取得するインターフェースが無い。安さの秘密だ。つまりケースファン回転数やその制御ロジックはユーザーに対してマスクされていて、BIOS/UEFIやソフトウェアでそれらを確認したり変更することができない。
次いで、ファンやヒートシンクの大きさを見る限りCPUクーラーはTDP65W級なのだが、ターボブースト時の最大出力のデフォルト値が120Wになっている。実際には色々なスロットリングの所為で100~110W動作が限界だが、それでもCPU温度は100℃を叩き続ける。このためターボブースト時の最大出力を下げて実質的にダウンクロックした訳だ。TDPが65Wだからとの主張は一見正当だが、ターボクロック動作時の性能でCPU製品の価値を位置付けている(=価格が違う)ところも実態としてあるから、ターボブースト時を考慮しないスペック上のTDPは熱設計においては参考程度の意味しかない。
更にミニタワー型の筐体は縦置き時の幅(厚み)が160mm程度しかない。これは簡易水冷どころかちょっと大きめの空冷ファンも入らない。定番どころの虎徹Mk.IIも入らない、というか背が高すぎてケースの蓋が閉じられないそうだ。まぁ、メーカーPCはそんなもんでしょ。
あ、後ひとつ、CPUクーラーは、ケースから伸びてマザーボードを貫通する4本のM3メスネジ(ポリコレ的には不味い表現)付の筒と言うか棒と言うかにそれぞれM3オスネジ(ポリコレ的には不味い表現)で固定する。これは空冷ファン取り付けに良く使われるバックプレートに相当するが、逆に言えばCPUクーラーに添付されている専用バックプレートが取り付けられない。少なくとも4本の筒なり棒なりを切断、除去しなければ無理だ。このような構造も安さの秘密かもしれないが、マザーボードへの荷重負荷をほぼゼロとしつつネジ4本でCPUクーラーなりがきっちり固定できることを考えると割と「冴えたやり方感」はある。要は同じ構造、或いは同じように使える構造、及びそれらに対応したパーツが増えれば状況は変わる訳だ。
とは言え、Dell XPS 8940のCPU高温の問題に対して私と同じような悩みを持った人が居ない筈も無い。ネットを徘徊すると、価格.comのレビュー内にそのものズバリの内容のものがあった(CPUはIntel Core i7-11700だが、マザーボードやケースは同じ)。製品はID-COOLING SE-914-XTというサイドフロー型の空冷クーラーで、メーカースペック上はTDP150W対応だ。ポイントは、M3×20mmネジを別途用意すれば、CPUクーラー添付のバックプレートを使わないどころか、PCを一切加工することなく取り付けられたという事実、実績だ。これを検討しない手はない。ID-COOLING SE-914-XT自体には特に音についてはネガティブな評価もあり、実際に使ってみて成程と思わなくも無いが、これは
「Dellユーザーなどに堕した報い」
かもしれんね。最近はちょっと部品が高いけど、使用目的が明確な場合には、構成品をきっちり選んだ自作PCに勝るツールはそうそう無いですわな。
続く!