2021/08/02

ライティングの肝は影

 PCを用いた3DCGI歴は何気に長い。最初のパッケージアプリを使い始めたのはCPUがIntel i286(16bit CPUだ)のころで、i386ネイティブレンダラー(要は32bit専用レイトレーシングレンダラー、使えるメモリが大きくなり、かつ高速)なんてものが後から別売りされたりするようなタイミングだった。モデリングは用意されたプリミティブ(球体などの基本的な三次元形状)を配置、変形、回転させるだけで、表面属性はプリミティブ単位でしか指定できなかった。大学で開発、無料配布されたMODEなんかがそうだ。

 加えてPC本体の表示可能色が4096色中16色(NEC系のデジタル16色)だったので、24bitカラー(当時言うところのトゥルーカラー)だったレンダリング結果をちゃんと見るには追加のハードウェアが必要だった。私の場合は、300×200ドットの24bit表示が可能なフレームバッファを拡張バスに追加していた、当時にして10万円也。

 プリミティブベースではモデリングの自由度の限界に直ぐ至るが、連続的かつ代数的に物体表面特定位置の傾斜が得られるため、代数的に厳密なレイトレーシング計算が可能だ。要は基本原理従った例外のほぼ無いアルゴリズムで、相対的に低い計算負荷と高精度を両立したレイトレーシングが可能となる。代表的な例外は物体の角部だろう。そのような位置では物体表面の勾配及び勾配の一次微分が定義できないから、特別扱いは必至だ。同じ理屈で光源設定の自由度も高く、厳密な点、線、面、スポットが利用可能だった。初期のポリゴンレンダラーの線、面光源が点光源の集合体であることがあったこととは対照的だ。

 やっと本題なのだが、その時点で3DCGIのライティングの肝は影のコントロールだとあっさり悟った。ここでの「肝」の意味は、ほぼ「リアリティの付与或いはリアリティの強化」と同義だ。「光あるところに影あり」とは良く言ったものだが、光源の種類の判別は光が当たっている部分よりその光の影のエッジ部を見た方が良く分かる。光が強く当たっている部分はそれっぽくても、影が「本来あるべき光源にふさわしくないもの」になっているとリアリティは一瞬で失われる。特にあるべき影が無い場合は、3DCGIで画を作ることに疑問すら感じる。早くて安く画ができるといった経済的な理由はもちろん分かった上での話である。

 影に関する考え方は当然モデリングにも反映される。レンダリング時に影を落とす必要のない構造物はモデリングせず、バンプマッピングなどで処理することになる。構造物をモデリングするか否かの判断基準は影が全てで、大小などは全く考慮しない。 

 さて、

つい先ほど、たまたまYouTubeで"OBSOLETE"を摘まみ観した。影は基本的に計算されていないし、銃器のフラッシュも点光源で処理している。厳密な点光源はこの世に存在しない点は軽んずべきではない。結果、光と影のリアリティが皆無に近い画作りになっている。個人的には魅力を感じない類のもので、むしろ手描き画で見せろと声を挙げそうになてしまう。3DCGIで、レイトレーシングは点光源を使った最小限のもの・・・安くて早いのだろうが、出来上がったものに何かが宿るということはなさそうだ。

 影が肝と信じる以上、逆の手に出る場合もある。特定の目的の下、他の表現に役割を果させることで影を最小限にする場合がそうだ。アニメ「超時空要塞マクロス」に登場するメカVF-1Aの3DCG動画をかれこれ10年程前にYouTubeに上げているが、これがそうだ。この動画はモデルのショーリール、つまりモデルの形状的な出来具合をアピールするためのものなので、画はモデル全体及び部品の形状や位置関係が分かり易いものであるべきだ。

 ここではラインレンダーを使ってモデルの輪郭や鋭角部を黒線で表示することで、影に頼らずモデル形状が把握できる画作りを目指した。ライティングは上からの白の平行光と白の環境光だけだ。前者は夏の真昼の太陽光をイメージしてもらえればよく、輪郭がはっきりした濃淡分布の無い影を生む。後者は特殊な光で、物体表面をむら無く均一に照らす。従って光の向きはどこでも物体表面に垂直であり、影は落ちない。並行光だけだと機体下面や内部構造物は完全に真っ黒な影に入って見えなくなってしまうが、環境光を使うことで影の内部でも輪郭線などが常に確認できる画となる。

 手描きアニメっぽい画となるラインレンダーを使っているためセルシェーダー(セル塗りシミュレーターの一種)も使っていると勘違いしている視聴者が国内外ともに少なくないが、画作りの意図からは不要なので当然使っていない。セルアニメ風の画作りなら別の考え方に基づいた手法の方が効率が良い(=安い早い)が、そんなことを3DCGIで何故やるのか?できるからやる、に未だ価値があったのはかれこれ25年ぐらい前の話だ。アマチュア補正も+10年が限界だ。

 なお"OBSOLETE"の画は、基本的に環境光だけ使った場合のそれに極めて近い。環境光はね、早くて安いのよ。

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