タイトルの話をする前にちょっとCakewalkという会社のお話。
以前のエントリで触れたDAW、Project5や大好きソフトシンセZ3TA+2の開発、販売はCakewalk社でした。その後日本のRoland社がCakewalk社を買収、次いで米国Gibson社がRoland社からCakewalk社を買収します。この時期のGibson社の経営姿勢は割と攻撃的で、日本のONKYO(オンキヨー)社とも資本・業務提携し、同社の筆頭株主となった時期もあったようです。ところが、現在Gibson社はチャプター11適用中で、会社更生を前提として法的保護下で破産状態となってしまいました。そしてCakewalk社資産(明確な範囲は不勉強にして不明です)は現在シンガポールBandLab社が所有するに至りました。
そんなこともあってZ3TA+2の先行きは更に暗くなってしまい、「Z3TA+2離れ」加速は喫緊の課題となってしまいました。とは言え自作音色の他ソフトシンセでの再現は、余りの数の多さとシンセ毎の特性の違い故に頓挫しつつあります・・・っつーか、今後もきっちり生き残るソフトシンセってあるんですか!って話ですよ。
続いて、前振りです。
ほぼうつ症状が現れなくなると同時に「音楽を聴く」ことができるようになりました。携帯音楽プレーヤーも持ち歩くようになり、この2週間程はインナーヘッドホンの新調、壊した場合のバックアップ品の購入などをやっていました。
なお、ブログ主は如何なる分野においても「性能や作品の良し悪し」を判断できる能力を持っていないことを自負しており、実際に本ブログ中でも「良し悪し」には実質的に触れません。その代わり、「客観的事実や分析に基づく問題の有無」には煩く、「好き嫌い」は激しいとかなり面倒くさい性格であることを今回も明記しておきます。
さて、今回のインナータイプヘッドホン(以下のヘッドホン)の新調では、経験則に基づく理由も含めて以下の項目を考慮しました。
- 価格は¥12,000級とする
- 低音ブーストを売りとする品は対象としない
- 価格¥12,000級ならSONY社製品は対象としない
- audio-technica社製品は対象としない
まず2.は好みと聞く楽曲との関係からの制限ですね。Futureなんとか類、D&B、アシッドからクラシカル、日本民謡まで聴くような状況下では、ヘッドホン自体に明確な向き不向きがあっては困ります。
価格帯の主な選定理由は、消耗品との割り切り、地方の量販店でも購入可能であることがまず大きいです。そして、「同一設計に基づく製品の場合、さすがの私でも¥8,000級と¥12,000級との音の違いは判り、後者の方が好みであることが多い」という経験則によります。正直、上記の音の違いの原因の多くは「音場の作り」「音の広がり感の付加と調整」であり、味付け、誤魔化し(音源が携帯音楽プレーヤーなら必要悪かもしれません)に近いものです。ただ「音場の作り」がフラットで奥行方向への広がりが感じられないと、それが原音に忠実であったとしても直ぐに耳が疲れてしまうのです。
3.は、「同一設計に基づくSONY製品に限っては、¥8,000級と¥12,000級との音の違いが判らず、好みでもない。しかし¥12,000級と¥23,000級との音の違いは判り、後者の方が好みであることが多い。」という経験則に基づきます。最近は違うかもしれませんが、かつてのSONY社製品では意図的な音場は作らない方向性だったと思います。ですから、¥12,000級如きの製品で「本来のものに近い、作ったものではない音場の形成」を期待してはいけないということだったのかもしれません。実のところ、¥12,000級のSONY社製品でも300時間程度の慣らしで好みの音にできた場合もあるのですが、とにかく慣らしが失敗したり効果が無かったりしたケースが多すぎました。あ~、Walkmanで使えば¥12,000級でも良い感じになるんだろうか・・・これは確認要だなぁ。
4.についてはaudio-technica社には何らの落ち度もありません。まず量販店ではSOLID BASSシリーズの取り扱いが主で2.に抵触すること、そして「audio-technicaはレコード針メーカーである」との刷り込みに私が未だ支配されており、「え?audio-technicaがヘッドホン?」となってしまうことが原因です。業務用も含め、ヘッドホン開発・製造の歴史は長く、以前に使っていた「視聴結果だけで選んだモニターヘッドホン」がaudio-technica社製だったりしたこともあるのですが、あの"○A"のロゴマークを見るとですね・・・
結局、新調したヘッドホンはPioneer社の¥12,000級製品でした。Pioneer社製品とは我ながら驚きですが、これまで愛用してきたWoodシリーズ前の¥12,000級JVC製品に「音場の作り」が近いんですよ。Woodシリーズは¥20,000級最初期モデルに突撃したのの、余りの音の硬さにびっくり、慣らしにも失敗?した経験から今回は視聴もしませんでした。SONY社製品の¥12,000級は、現行世代もカンカンとやっぱり私の耳にはきつい音でした。
で、やっと本題です。
Pioneer社製品を買ったものの、パッケージボックスの文字表記が実に米国製っぽいのです。まぁ、製造は中国だよね・・・で、調べてみると・・・Pioneerブランドのヘッドホンの製造・販売は既にONKYOグループに移管、自社製造製品ラインナップから消えていたんですね、全然知りませんでした。なるほど、ONKYO社のウェブページのホームにはしっかりPioneerのロゴもあります。
念願のマイホームを購入した際に父が最初導入したのがPioneer社のオーディオコンポーネントシステムでした。値の張るPioneer社製システムはちょっとしたステイタスでもあったのです。しかし、そんなオーディオシステムもヘッドホン同様にONKYOグループに移管済み。
一方、ONKYO社も 結構経営が厳しいようです。東洋経済の記事「音響機器の名門「オンキヨー」が直面する危機 5期連続最終赤字で債務超過が迫りつつある」によれば、本エントリ冒頭近くで触れたGibson社のチャプター11適用が間接的にONKYO社の経営悪化に影響しているようです。ONKYO社は 相手先ブランド供給(OEM)事業を強化するとのことですが、自社ブランドが十分に確立できずにOEMにのみ頼ると三洋電機社の二の舞になる可能性もあり、楽観はできないでしょう。一方、純OEMメーカーがブランド力とそれを支えてきた技術力を強く欲し、手に入れたら・・・シャープ社の復活劇はそんな成功例に見えます。
買収したPioneer社事業の欧州での不振は力あるブランド導入の失敗(一時的ではあるかもしれなくとも)、Gibson社倒産の影響はマイナスイメージを持たれたブランドによるまるで風評被害です。自らのブランド力を高めるか、既に手に入れたブランドの力を向上するか、それとも新たな外部ブランドを手に入れるか・・・ONKYO社はOEM戦略の拡大にもつながるようなブランド力を(再)獲得できるでしょうか。しばらくワッチしてみたいと思います。
OEM界にはすでに巨人が何人もおり、一部はシャープ社を復活させたようにブランド力も獲得、それを確かなものとしています。ライバル達は強力ですよね。