先行するエントリを書きながら、ちょっと思い出したことがあったので書いて置こうと思う。ただの思い出話だよ、と言う点は重ねて強調しておく。加えて、もしかしたら同じ話を以前のエントリでも書いてるかもしれない。本ブログの存在意義はほぼブログ主の知人への生存報告だから、まぁ、そう言うこともあるよと言うことで。
で本文。
就職してから10年も経たないころ、上司命令で英語研修(初級・二週間)に強制的に放り込まれたことがあった。私の余りの英語力の無さから、社内での私の将来を憂いたものと思われる。とっつきにくいところのある静かな上司だったが、不景気な時期に仕事を探して黙々と組織、ひいては部下を維持していたなど、実は部下思いで熱いところのある人だった。定年後もその技術や知識を見込まれて働かれていたが、最近ついにリタイアされたと聞く。
さて、思い出したのは研修初日での事で、日本語で言う「シ」の発音にまつわる話だ。
8名ほどの生徒が先生の前に列を作り、列の先頭で先生と対面状態となった生徒が先生に指定された英単語を発音するということをやった。英単語自体は中学校教育レベルのものだが、おそらく発音に癖があるものが選ばれていたのだろう。私も含め、とにかくダメ出しを喰らっていつまでたっても次の生徒と代われない。行列が進まない。
私に指定された英単語は"machine"、所謂「マシーン」だ。上述の通り、ここでの「シ」の発音は日本語のそれとは全く違う。日本語における「シ」は口の開きは中くらいで、やや横に広げ、若干開いた上下の歯とそれらの直ぐ後の舌先の間の空間付近で音を出す。口の横方向をほとんど開かずに発音する人もいる。この場合は多少聞き取りにくいが、時に不愉快に感じる摩擦音が小さいため、上品に聞こえることもある。卒業式での「仰げば尊し」の歌唱は定番だが、中学生ぐらいだと自意識などが邪魔をして小声で歌うことしかできなかったりしたことはないだろうか。このような場合、「シ」の音ばかりが体育館にやたら響くことになる。
さて、20回以上のダメ出しを喰らった辺りで、先生の「私が発音する時の、私の口の形を見て」の意味が分かった。結論を書いてしまおう。まず口は思いっきり横に開く。上下の歯はむき出しとなり、上下の隙間もほぼ無くなる。ここで上下の歯の間辺りで音を出す。この音は純粋に空気が上下の歯の間を抜ける際に発生する摩擦音であり、日本語の「シ」の発声の要領で若干音を整えても良いのかもといった感じだ。むしろ「ス」や「スィ」に近い音になる。つまり、全くの別の発音なのだ。とにかく口を横に開く先生の口の形を真似たら、それだけで悪くない音が出た。更に発声を繰り返すこと数回、"Excellent"を貰って次の生徒と代わって列の一番後ろに並んだ。
この経験は、COVID-19禍下であってもマスクの使用を嫌がる欧米人が多い理由の一つを説明出るのではないかと思う。
周囲の雑音などが原因で耳で子音が区別しにくい状態での会話でも、相手の口の形が見えていれば音を特定し易いからだ。日本人と比べて、彼らは会話において口の形など視覚情報をより活用している可能性が高い。上記の「先生の口の形を真似たら、それだけで悪くない音が出た」は嘘ではない。私の例では、下手をすると口の形、歯の位置、歯の間から空気を出しているような体の素振りといった視覚情報だけで、ネイティブスピーカーレベルなら音を特定できるかも知れない。歯がむき出しになっているかどうかだけでも、結構重要な情報になり得るようなのだ。
そう言えば、ディズニーなどによる劇場アニメーション作品は元より、TV向けカートゥーン作品でも会話時の口の描画へのこだわりは日本のそれとは全く別物だ。それは母音だけでなく、子音にも及ぶ。きっと口の形と発音が一致していないと、観ていて違和感があるのではなかろうか。
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