MAIKAはスペイン語Vocaloid3ライブラリで、ブラジル訛りポルトガル語の大部分の発音をサポートする。が、購入直後に私の病状が悪化、放置状態が続いていた・・・いや、続いている。
MAIKAの一つの魅力は無声口蓋垂摩擦音のサポートだ。この音はマッハ(Mach)の「ッハ」、イッヒ(ich)の「ッヒ」、ドッホ(doch)の「ッホ」などに当たる発音で、ドイツ語では必須の発音である。ネス湖を指すロッホ・ネスの「ッホ」もこの音で、スコットランドにも歴史的に残っている発音でもある。そんな訳で先の日曜日の夜、ふと思い立ってドイツ軍歌として知られる"Erika"の歌詞にMAIKAがどのくらい追従できるか簡単に調べてみた。
辞書などでは発音記号としてIPAが広く用いられるが、英語アルファベット以外の多くの記号を含むためコンピュータ上での処理に不向きとされた。この状況を受けて開発されたのが、英文キーボードで入力可能な文字(正確にはASCII文字)を使ってIPAを書き換えたX-SAMPAだ。Vocaloidの発音指定もX-SAMPAを使う。
"Erika"の発音をドイツ語のWikitionaryで調べると、['e: Ri ka]となる。先頭の[']はアクセントを表し、[:]は音を伸ばすことをそれぞれ表す。ローマ字読みでも「エーリカ」となりそうだが、小文字の[r]ではなく大文字の[R]となっているのが曲者だ。MAIKAがサポートしてない発音なのだ。英語Vocaloidではどうか。この場合は[e:]と[ka]の発音がサポートされない。ちなみに"Erika"をVocaloid用の英語辞書に通すと[e@ ri kV]となり、日本人の耳には区別し難そうだがかなり別物だ。
日本語の「ア」音に相当するのは[a]だが、[@]も[V]も「ア」に近い。違いは口の開きの大きさと舌の前後位置だ。他に「ア」に近い音として[{](IPAでは/æ/)があり、僕らの世代だと中学校で「『エ』の口の形で『ア』と言いなさい」と習った音だ。英語ではありきたりの音で、"cat(猫)"の発音/kæt/で使われている。またウィキによれば、名古屋弁の「うみゃあ」は[umæ]らしい。つまり、「うみゃあ」の「あ」では舌の位置はそのままに相対的に口を開かないということのようだ。まぁ、経験的に「寒い地方での発音の訛り(厳密には、NHKアナウンサーの発音との違い)あるある」ではある。
MAIKA敗北す。かなり妥協して発音をごまかさないと、"Erika"には使えない。
とは言えこのままでは悔しいので、別方面を攻めてみた。「ソ連(ロシア)宇宙軍の歌」こと"Космические войска"である。WikitionaryでのIPA表記の発音をちょっと丸めると、X-SAMPAでは[k6 s mj ts\I s kI e vo j s ka]って感じになる。ここでは2文字目の[6]が曲者だ。数字の[6]だとちょっとピンとこないが、IPA表記では/ɐ/である。アルファベットの"a"が逆立ちしていて、ちょっと違う「ア」感が伝わらないだろうか。ちなみに上述のX-SAMPA表記[R]のIPA表記は/ʁ/で、「アール」っぽいけど何か別のもの感がやはり漂う。
MAIKAも英語Vocaloidも[6]はサポートしない。困ったことに"Erika"の歌詞には頻出する、と言うかドイツ語では余りにありふれた発音のようである。歌詞冒頭の"Auf der..."→[aUf de:6...] で既にアウトだ。
MAIKA再び敗北す。かなり妥協して発音をごまかさないと、ドイツ語にもロシア語にも使えない。
あ、敗北したのは僕か。
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