2013/03/24

wired.jpの記事 「どのようにSNSは死を迎えるか」が面白い(その5)

 さて、独断と偏見に基づく論文(David Garcia, Pavlin Mavrodiev, Frank Schweitzer: "Social Resilience in Online Communities: The Autopsy of Friendster", arXiv:1302.6109v1(2013).)の読解、第4回です。文体がこれまでと違うのはご愛嬌ということで。

 前回は、OSN(Online Social Network)の「弾力性」(resilience)という概念、すなわち「メンバーが離脱した際にコミュニティが受けるダメージへの耐性」のお話でした。「弾力性」の高いことが期待できるコミュニティの特性として、下記の二点を挙げました。

 ① 利得がプラスとなっているメンバーの割合が高いこと
 ② 大量メンバーの一斉離脱が発生した場合に残ったメンバーのc/b(損失(=労力や手間)/利益)またはKが大きいこと

 では、上記の二つの特性について、実際のOSNについて見ていきましょう。下図は5つのOSNについて、ある特性を比較したグラフです。先に断っておくと、このグラフで示されている値をどうやって計算したかについての具体的な手順は論文に記述がありません。従って、このグラフ自体が正しいかどうか、妥当かどうかといった点には本稿では触れません。
  まず数字には目をつぶって、横軸と縦軸から説明します。横軸は"ks"ですからコア度(coreness)であることは明らかです。縦軸の"P(ks > K)"はちょっとやっかいなので、まずカッコ内の"ks > K"に着目しましょう。これは、以前に示した下記の式と似ています。

 K = (c/b)+1 …(6)式

 ksi ≧ K …(7)式

(6)、(7)式は、メンバーが利得を得ている(だろう、筈だ)という仮定の下で得られた関係式であることを思い出して下さい。"i"はメンバーの番号を表しますから、一般形としては(7)式中の"i"は省略可能です。つまり

 ks ≧ K …(7)'式

(7)'式の関係を満たせば。コア度ksのメンバーは利得を得られます。ならば、コア度ksが等号(イコール)を含まない"ks > K"の条件を満たすメンバーは必ず利得を得ていることになります。次いで"P()"ですが、これは確率密度関数と呼ばれる関数です。

 「はて?なんのことやら」という人が大部分かと思いますが、ここは踏ん張りどころですよ。ここでは、カッコ内の条件を満たす、すなわち利得を得ているメンバーの割合を表しています。

 さて、5つのOSNともにグラフの曲線は右下がりです。これは横軸のコア度ksが大きくなるにつれて、利得を得られるメンバーの割合が減っていくことを示しています。ちなみに縦軸の値について触れると、100が100%、10-1が10%、10-2が1%に相当します。

 「コア度が高ければ利益も大きいだろう」というのが感覚的にしっくりくる人も多いかと思いますが、それは実のところ「各メンバーの発信情報量が均等」といった特殊なケースでしか成り立ちません。実際にはメンバー毎の発信情報量にはばらつきがあり、更に言えば「情報発信量の多いメンバーは限られており、その数はコア度以下」であるのが実体ということです。グラフ中の曲線が右へ行くほど急激に下がっていくように見えるという特性は、コア度の増加に対して情報発信するメンバーの増加が追いついていないと見なすことも出来そうです。(対数グラフの見方が分かっている人には申し訳ないですが、今回は感覚的な分かりやすさを優先してちょっと不正確な表現も使います。)

 現時点でも成功していると見なされているOSNであるFacebook(赤破線)を見てみましょう。曲線は横軸が50程度の辺りから急激に低下し、さらに言えば横軸が100(102)にまで届いていません。曲線の右端の高さは10-4~10-3の間ですから、Facebookでコア度Ksが100のメンバーのうち利得が得られているメンバーの割合は10-3未満、つまり0.1%未満となります。

 次いで失敗したOSNであるFriendster(オレンジ実線)を見てみましょう。全てのコア度においてFacebook(赤破線)よりも上にあります。つまり、全てのコア度において、失敗したFriendsterの方が成功しているFacebookよりも利得を得ているメンバーの割合が高いことを示しています。

 今「あれ?」と思ったあなた、そう、「① 利得がプラスとなっているメンバーの割合が高いこと」の観点からは明らかにFriendsterの方がFacebookよりも「弾力性が高い」のです!

 さらに駄目を押しましょう。グラフには縦軸0.2(20%)の高さに水平の細かい破線が引かれています。この細かい破線より下側のメンバー全員(20%より下なので全メンバー数の80%に相当)が一斉にOSNから離脱したという危機的状況を考えてみましょう。このときの最大のコア度(横軸)は、Facebook(赤破線)で10(101)程度、Friendster(オレンジ実線)で60前後となります。そう、「② 大量メンバーの一斉離脱が発生した場合に残ったメンバーのc/b(損失(=労力や手間)/利益)またはKが大きいこと」という観点からも、Friendsterの方が「弾力性が高い」のです。

 え~~~~~~~~~~~~!!!

 初めてここまで論文を読んだ時には私も思わず大声を上げてしまいましたよ、しかも職場で、就業時間中に(つまり業務遂行上必要な資料を読んでるふりをしてサボってた…)。

 ここに至って論文の著者らは白旗をいったん掲げます。実際、こう書いています。
This means that the topology of their social network is not enough to explain their collapse...
かいつまめば、「『弾力性』という概念に至るここまでの式やモデルは、失敗したOSNの崩壊を説明するに『十分ではない』。」と明確に述べている訳です。

 え~~~~~~~~~~~~!!!

 「じゃ、ここまでの小難しい話は全く無駄になるの?」と問われればさも有らず、「『十分ではない』ということですよ」とまずは答えておきましょう。では、どうすれば「十分」となるのか、何が足りないのか?

 ここまでの議論は、OSNのネットワークが「ある状態」から「別の状態」に変化した場合の「変化前後の違い」を「変化前に成立している関係」を用いて分析してきました。実は「変化前に成立している関係」を用いるというのが曲者で、「実際のコミュニティネットワークの崩壊過程では、崩壊に伴って様々な関係が変化する」という至極当たり前の視点が欠けていた訳です。

 さて、「崩壊に伴って様々な関係が変化する」という視点を持ち込むと、Friendsterの崩壊はどのように説明できるのか?次回完結!…予定。

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