2021/08/23

パキスタン因子

 私の妄想世界にようこそ。

 アフガニスタン・タリバン報道官が中共との良好な関係性について言及、との由。中共としてはアフガニスタン・タリバンが中共の新疆ウィグル政策に干渉してこなければ良いだけなのでおべんちゃらの一つぐらいは言っといた方が良いだろうなどと短絡的に考えてそうな一方、本気、リップサービスを問わずアフガニスタン・タリバン側には中共に仲良しアピールされても害しかない。歴史的に軍閥が割拠する時代を知っていながら、そのような状況下で起こりがちな各勢力の口先だけの駆け引きの罠にいきなり巻き込まれている辺りに、中共の劣化具合、如何にも頭の悪い感じを見てしまう。

 現パキスタン政権は中共と友好的で、中共の新疆ウィグル政策に対して特に何も言ってこなかった。また、現行のアフガニスタン・タリバンの大口スポンサーでもある。故に、パキスタンがアフガニスタン・タリバンへの強い影響力を維持している限り、中共はアフガニスタン・タリバンによる新疆ウィグル政策への干渉は心配しなくても良い筈なのだ。ならば中共の懸念事項、言わばアフガニスタン情勢に対するパキスタン因子について考えてみる。

 上でパキスタン「政権」と書いたことには意味がある。まず少なくない数のパキスタン国民が中共の新疆ウィグル政策を是としていないとされる。更にパキスタン・タリバンは明確に中共の新疆ウィグル政策に反発しており、少なくとも最近は中共融和主義的なアフガニスタン・タリバンと敵対関係にあるとされる。パキスタンは内部に反中共勢力を潜在的に抱えていると言って良く、中共からの金が切れればパキスタン政権が親中共姿勢を維持することは難しくなるし、維持する必要性も実質的に無くなる。

 一方、中共との関係が悪化した場合の仲良し相手探しは厄介だ。インドは宿敵だ。米国はインドへの接近とこれまでの経緯により反パキスタンの立場をそう簡単には翻せない。所謂テロとの戦いの初期までは、パキスタン政権は少なくとも表面的には親米路線を採っていた。パキスタン空軍が対テロ戦での運用を前提としてF-16を所有しているのはそのためである。特にパキスタン情報部はCIAに深く食い込んでいて、CIAがいかにも喜びそうな偽情報が大量に混入されていたことが後に判明するが、米国にとってアフガニスタンやアルカイダに関する情報をもたらす重要な情報源としての地位を確立していた。この辺りはCIAの歴史やパキスタン情報部の手引きも得て成功させたタリバンのCIA出先機関への自爆テロを取り扱った書籍など、複数のソースから確認できる。

 CIAはパキスタン情報部の上層部の人間の金づるにされたばかりか、少なくない数の現場上級職員をパキスタン情報部の手引きや黙認によって失っている。まぁこのころのCIAも酷いもので、テロとの戦い後のアフガニスタンの指導者候補として確保していた人物は単なる詐欺師だったしね。挙句にウサマ・ビン・ラディンはパキスタン国内で潜伏中に殺害された。このオペレーションに関して米国はパキスタンに何ら通知しておらず、パキスタンの主権侵害は明確だ。とは言え、オペレーションの成功によってまさにテロ支援国家であることが明らかになったパキスタンに対し、国際社会は基本的に冷淡だった、かなり引いた。これはしゃーない。誤魔化しはいけない。例外は中共だった。インドの敵の敵は味方という軸からみればそれなりに筋は通る組み合わせだが、この状態が醸し出すパキスタンの行き止まり感は半端ない。

 インドとロシアとの仲は悪くなく、共同開発された最新ステルス機Su-57の主要「機体」設計者15人中8人がインドからの派遣者だったとの情報もあるし、開発費の一部も負担している。因みにエンジン設計からはインド人技術者は完全に排除されている。インドはSu-57を採用していないが、これはロシア側がインド側の仕様変更要求をひとつとして受け入れなかったことが原因とされる。このため、上記のインドからの8人の派遣者は、機体完成を待たずに帰国したそうだ。インド型含む輸出型Su-57開発着手の報道もあったが、新型コロナ禍もあってか続報は無い。少なくとも兵器関連では、インドとロシアの間でこの種の話は少なくない。ロシアがこの関係性の維持を求めるなら、ロシアもパキスタンは相手にしない。

 支離滅裂なドイツや隠れ独裁国家を除く欧州諸国も親中共であるうちは組めない。英国はちょっと特殊な立ち位置になるが、米国との同盟関係を優先するだろう。トルコはイキり過ぎが祟って実質的な経済制裁下に置かれ始めており、これ以上欧州諸国ばかりでなく他のイスラム国家の機嫌を損ねるのは上手くない。あとイランだが、反アフガニスタン・タリバンぐらいしか共通点の無い集団である北部連合(連合結成自体はインドの関与があるとされるが、様々な民族、部族の集合体なので、構成勢力全てが親インドとはならない。ペルシャのアイデンティティを持つ民族、部族による勢力は、連合参加前からイランの影響や支援を受けている)のスポンサーの一角とされるので、パキスタンは敵だ。現在、アフガニスタン国内でタリバンと戦闘中なのはアフガニスタン政府正規軍と北部連合の成り行きまかせの混合体なので、反タリバンだからと言ってこれら勢力を簡単に支持する国が現れないのは当然だ。例えば米国のスタンスはそもそも反アフガニスタン・タリバンではないし、イラン影響下の勢力や地方軍閥を支持する筈も無い。

 と言う訳で現パキスタン政権は中共と仲良くするしかないのだが、内部に反中共勢力を抱えているため国内外ともに中共との親密さをアピールしないしされたくない。ところが中華人民共和国外交部は、カブール陥落前後からパキスタンとの親密アピールを強化し始めた。その影響か、単に先行するアフガニスタン情勢の影響か、パキスタン・タリバンの対華人テロの報にこの数日触れる機会が増えた気がする。ここで中共がいつもの手、警察の派遣、などやろうものならパキスタン国民の多くを怒らせるだろう。

 またアフガニスタン内の今後の勢力分布の変化は不透明だが、敗走したアフガニスタン・タリバン勢力が国外脱出を図ることも今後あり得る。パキスタンへの越境は以前からあるものだが、規模の問題がある。大規模越境はパキスタン国内の治安悪化や国民の不満を引き起こす可能性が高く、パキスタン・タリバンを勢いづけることにもなりかねない。パキスタン、そしてアフガニスタン・タリバンの地獄は、敗走したアフガニスタン・タリバン勢が中華人民共和国国境付近まで追い詰められた後に始まることになるかもしれない。中共が越境を許す筈も無く、人民解放軍の銃口は敗走するアフガニスタン・タリバン勢に向けられる。敵失を狙うなら、北部連合はアフガニスタン・タリバンを中華人民共和国国境に向けて追い詰め、慈悲は一切示さず、安易に殲滅しないようにすべきと言えよう。国境警備兵を全て女性とするように、誰か中共をそそのかしておいてくれないだろうか。

 アフガニスタン・タリバンの友好勢力の繋がりはパキスタン経由で、北部連合の友好勢力の繋がりは時にイラン経由で、それぞれ中共に至る。そしてアフガニスタン・タリバンと中部連合は今まさに戦闘中である。もちろん、もし北部連合勢が中華人民共和国国境付近まで追い詰められた場合には、人民解放軍の銃口は今度は北部連合に向く。ただイランの政権基盤は堅牢で、北部連合との関係性も曖昧なので、北部連合勢が人民解放軍に殲滅されたぐらいではぐらつかない。対してパキスタンは既に対華人テロも複数発生しているなど、中共、国内ともに対応を誤ると政権基盤が揺らぐ可能性が否定できない。つまりアフガニスタン・タリバンは最大のスポンサーを失いかねないのだ。これが不確実性がいっぱいのパキスタン因子だ。

 要は中共がテキトー過ぎで、加えて人民含めて人命を軽く見過ぎているのよ、めんどくせぇ。

2021/08/21

感染者数雑感

 ある老年の主張;新型コロナは風邪だ!だから何度でも罹るぞ、何度でも苦しむぞ。

 さて、

1日当たりの新型コロナ感染者数を見続けていて得た一つの経験則があった。それは、東京都の感染者数を3.3倍すると全国の感染者数に極めて近くなることだ。以前は東京都の発表時間が突出して早かったから、その時点で全国での数字を予測する方法として使っていた。大阪で感染爆発があった時期を除き、3.3倍はつい最近まで有効だった。だが今週は約5倍付近を推移している。

 人数比が変わった理由は、東京都が感染経路の追跡を止めたことだと考えている。濃厚接触者のPCR検査を止めたので、従来なら感染者としてカウントされて医療処置の対象となった「自覚症状の無い感染者」が検査されぬままカウントされなくなったためだ。検査数限界説よりも私はこっちの考えを押す。検査を受けないまま独身者などが自宅で新型コロナで亡くなるケースが発生すれば、それだけ「自覚症状の無い(無くなる直前まで無かった)感染者」の増加の可能性は高まる。

 本日は東京都が約5,000人、全国が約25,000人で、人数比は5倍となる。現在でも3.3倍の筈だと仮定すると、感染経路を追跡しない新方針によってカウントされなくなった「自覚症状の無い感染者」の数をAとした場合に次式の関係が成立する。

 (5000+A)×3.3 = 25000+A;東京の感染者数の3.3倍が全国での感染者と一致

上式を解くと、A=3695.6・・・ ≒3700となる。ならば、旧方針での東京都の感染者数は約8,700人(=5000+3700)、全国の感染者は約28,700人(=25000+3700)となる。旧方針のままならば、東京都の感染者1日1万人も近いやに思われる。感染者数の増加は全く衰えていない。8000人越えは、個人的な直観(私の脳のディープラーニングの賜物?)とも一致する。

 「自覚症状の無い感染者」を感染検査の対象とせず、結果として感染者としてカウントしない国もある。今はどうか知らないが、かつての台湾などがそうだ。従って東京都の方針変更を良し悪しで論ずるつもりは毛頭ない。しかし、方針転換が以降で発表する数字にどのような影響をどの程度与えるかもちゃんと説明すべきだったと思う。少なくとも感染者人数について過去の数字と今の数字は直接比較できないですよ、と明言する必要、いや責任が今でもあると考える。数字が様々な意思決定に関わる以上、それを怠ることは将来的に印象操作や数字詐欺のそしりを受け得ることも覚悟しておいて欲しい。今の日本ではいきなり襲われて吊るされるようなことが無いからといって、本件に関しては東京都は首長も職員もやることが適当に過ぎる。

 何カ月にわたる東京都の感染人数を並べてみると、最近の感染者数は頭打ちっぽく見えなくもない。が、件の東京都の検査対象範囲の変更は、それを疑ってかかるに十分な影響を持つものだ。「自覚症状の無い感染者」の一部はスプレッダーとなるので、都内のスプレッダーは確実に増えている。難儀なことだ。あくまで相対的な話だが、今回の東京都の方針変更は、防疫の観点からは検査数を意図的に絞るよりも筋が悪い。この種の緩和措置は、本来はスプレッダーを無効化する施策、人流の制御、と組合せでやらないと「感染拡大施策」にしかならない。人流の制限はできないんだから、せめてワクチン接種施策に「実効的な」手を入れるぐらいしろよと言いたい。「若者の接種拡大に向けてアプリがー渋谷でー」なんてのは「やってる感」すらもはや感じられらない。

 お金だけでなく時間すら無駄にして、次に来る波の規模をただただ大きくしているだけではないか、これでは。さざ波は線形波だから、100個重なれば高さは100倍、1000個重なれば高さは1000倍だ。

 都知事の「自分のこととして考えて行動してください」という言葉の受け取り方のレベルは人様々だが、私は背筋が凍る思いがした。 この発言を私は無責任とは思わない。東京都にも知事にも弾が無い。問題は、聴き手の防疫意識によって発言の意味の解釈がきれいにばらけそうという意味も含めて言葉選びのセンスが良すぎたことだ。「上手く言ってやろう」みたいな色気を出していない時の都知事の言葉選びのセンスはエレガントだと思う。今回は合理性に裏打ちされた冷徹さといったむき出しの毒がある。「好きにするぜ」と言う人に対して「お好きにどうぞ」と答えた、なんて生易しいレベルの話では無い。「トリアージすらしないよ」と答えているような感じかな。私の解釈はこうだ。

「あなたやあなたの大事な人々が感染したり、感染症状で苦しんだり、感染の後遺症で苦しんだりしないかどうかは、あなたやあなたの周囲の人々の行動次第ですからね。ちゃんとそう言いましたよ」

ん~、ちょっと違うかなぁ。

「どんなに感染防止に頑張っても、○○一人の所為で台無しになり得ます。○○と関わらないことや、○○と関わっても感染するリスクを最小化する行動を個々人の判断でしてください。この意味が分かる賢明な皆さん、感染することなくこの禍を乗り越え、○○が××された世界でまたお会いしましょう。」

何気にデルタ株の特長の本質的なところ突いた発言だと思うよ。一旦家庭に持ち込まれれば家族全員感染はほぼ必至、はそれまでの変異株と本質的に違う。感染力の強さの大小よりも、それが感染経路やスピードをどう変えてしまうかの理解の方が防疫上はより本質的だ。古めのエントリで危惧したように、妊婦さんが罹患した話はその後の展開の可能性を考えてしまってどうしても感情が動く。

 ネットには「○○発見機」なんて表現があるけど、今後ますます○○の危険行動に巻き込まれないことが罹患したくない人の行動規範の主軸になっていく。積極的に自粛生活、一般的な感染防止策を実施している人がワクチン接種まで済ませたら、もうそれくらいしかできること無いでしょ。そんな状態で「自覚症状の無い感染者」は増えてるとかね、洒落にもならない。ここでの冷徹さってのは「家族であっても○○は切れ」ぐらいのレベルのものね。

 一方、色々な資料に目を通した個人的な印象として、尾身先生は学者こそむしろ持っていそうなこの種の冷徹さをお持ちでないようだ。疫病対策の第一線を見てきた先生には、この種の冷徹さは今回の疫病の「後遺症をも残す社会的な症状」みたいに見えているのかも知れないなぁと思ったり思わなかったり。つまり東京都知事も私も新型コロナウィルスに「社会的に罹患」しているかもしれないと言うことだ。

 国語現代文の素養、大事。「国語現代文教育、大事」と言いたいところだが、最近の教師は僕らの世代のころとは違ってちゃんとしてるのかな?

モデルナ接種1回目

  性別男性、年齢は会社の定年退職も意識し始めるレベルの私もやっと新型コロナワクチン1回目を接種。モデルナ製ワクチンだ。

 ネット記事で「ワクチンの副反応のひとつとして、SNSでの副反応自慢がある」というツイートを知ってひとしきり笑わせてもらったが、まぁ「○○したけど翌朝にはおさまっていた」といった類の時間軸を含む副反応の情報は精神安定性上実に有難い。好きなことを仕事にできていたりすればパフォーマンスが下がらざるを得ない期間を推し量る手掛かりになるし、別途病気治療中だったりすれば接種後に発生した不調の原因の有りどころの推測に使える。

 1回目かつ年齢が年齢なので強い副反応は想定していなかったが、まぁそんな感じで済んだようだ。ただモデルナ製ワクチンの2回目接種後の発熱割合はやはり高いので、身体上の心配はしていないものの、接種後3日間ぐらいのスケジュールは大事を取ったものとせざるを得ない。

 さて、明確な副反応こそは出なかったが、副反応が疑われる症状や体調変化を列挙しておく。接種時間は午前11:20ごろだ。

  • 37℃前半の微熱、1時間程度(接種から24時間後程度から)
  • ふらつきを起こしそうなギリギリレベルの眩暈(と言うか、ふわふわした感じ)を伴う軽い頭痛、9時間程度(接種から51時間後程度から)
  • +50%ぐらいの食欲増維、とにかく腹が減る(接種翌日、翌々日)

 抗体生成ではビタミンCやたんぱく質が消費されるとの話を聞いていたので、食欲増進の件はなんとなく納得している。高齢者へのワクチン接種が始まったばかりのころに「うちの母/父は、熱がある/頭痛が酷いなどと言いながら、大盛の食事をバクバク食っていていつもより元気そうに見える」なんて話もネットで見た記憶があるので、全く無い話でもなさそうだ。

 ちなみに私は集団接種を利用したが、年齢制限が無いこと、接種が平日の昼前という時間帯だったこともあってか、幅広い年齢層の接種者が同じ時間帯にいた。下は恐らく男子中学生(バスケットボールか水泳といったスポーツをやってそうな体格、肩関節の動かし方をしていて、保護者と思しき同伴者が付いていた。15歳以下は保護者同伴要となっている)で、高校生~大学生と思しき男女多数(全員非スポーツ系)、そして残りはほぼ20代~50代と思しき女性だった。また接種の進捗具合や窓口類の稼働具合を見るに、2割程度の接種可能枠がまだ残っているのではないかと思わざるを得ないところもあった。最近モデルナ人気無いからね、って辺りが影響しているのかもしれない。

 ん~、選べるんなら私もファイザー製を選んだと思うんですけど、最低4週間早く接種完了できるって点は無視できなかったのでねぇ。時間や遅れはほぼ制御不能のリスク要因なので、慌てず急ぐがもう習い性となっているのです。

2021/08/20

タジキスタン因子

 要は今の私には分からん、という話。

  アフガニスタンは基本的にタリバン勢力下だが、パンジシール地方が現時点で抑えられていないとの由。全くの勉強不足で、この辺りの展開が予想できる筈も無かった。

 各種報道を斜め読みすると、この地域は実質的にタジク人の居住域で民族問題が無いこと、さらに統治を治めるマスード家は武勇に優れた人材を多数輩出してきており、求心力が強いとのこと。更に現在の当主は英、米での生活経験どころか軍務経験もあるらしく、明確に反タリバン姿勢を採っている。アフガニスタン政府軍の生き残りと言うか、そもそも精強な部隊故に当然のように未だ戦闘可能であるといった感じだ。当然、装備は米軍から得た最新式である。

  パンジシール地方は峠を含む山岳地帯で、アフガニスタン中央から見て北東部への交通路、兵站線の重要拠点となっているようだ。空軍力を持たないタリバンには迂回する以外に手が無いが、これははなはだ非効率的で、兵站部隊が側面攻撃を受ける可能性を常に抱える形となる。

 で、エントリタイトル記載の「タジキスタン因子」だ。現時点ではこれが読めない。タジキスタンは当然タジキスタン人中心の地、アフガニスタンの東北部で国境を接する。ソ連影響圏時代の清算、脱却の過程でのペルシャのアイデンティティの強調、インドや中共人民解放軍の駐留基地の存在など、どこと仲が良くてどこと仲が悪いのか勉強不足も過ぎて私には理解できていない国だ。

 アフガニスタン空軍機の少なくない機体はタジキスタンにあるとされる。戦闘継続のための移動か、単にパイロットが逃げただけかは未だ分からないが、前者であればパンジシール地方~タジキスタン間の制空権確保や兵站線維持の役割を果すことも可能だ。これはタジキスタンがパンジシール地方のタジク人を支援すると仮定した場合の展開だが、ポテンシャルとして、アフガニスタン東北部がマスード家の影響下となる可能性を示す。この場合、アフガニスタン東北部は最低でも独立行政区、マスード家や当地の部族が望めばタジキスタン領となる可能性もあるかもしれない。

 始終支離滅裂で信用ならないドイツは別にして、英米にとってはちゃんと戦っているアフガニスタン政府軍を見捨てることは筋が悪い。英米-タジキスタン関係は今後の展開に関わる重要因子に見える。

 親タリバン国家はパキスタンで、現在パキスタンと仲が良いのが中共だ。反タリバンで知られる軍事集団として北部連合があるが、これはイランの影響下にあるとされる。中共はイランの取り込みに躍起だが、タリバンを挟むとイランとパキスタンは対立関係となり、中共は筋の悪い立場に置かれることになる。中共-タジキスタン間の関係も見直しが入るかもしれない。

 別エントリで既に書いたように、住民が支持するならアフガニスタン全域をタリバンが施政下においても構わないと考えている。要は瓦解したアフガニスタン政府が「秩序」(≒安定した暮らし)を提供してくれないのなら、ベター論として「イスラム法による秩序」をもたらすタリバンを住民が受け入れるのは合理的な選択だ。それはマスード家による秩序でも同様だ。

 タリバンが短期間にアフガニスタン全土を抑える、というのは完全に想定内で驚きも展開が早すぎるとも思わなかったが、パンジシール地方の登場で、輪をかけて先が読めなくなった。ただはっきりしていることは、米国は損切りに成功し、中共はお得意のねちねちした米国いじめの手をひとつ失ったことだ。中華人民共和国の外交部報道官とやらがやたら吠え始めているが、これこそ手詰まりの証左に見える。中共とタリバンとの接触は確かに多いが、報道を読む限りは本来絶対存在する筈の友好関係或いは相互に干渉しない関係の維持の前提条件が見えないし、実際にそのような関係が築けるかどうかも分からない。まぁ、英国辺りが地味に邪魔をしてくるのは見えている。

 タリバンは一枚岩ではないと言われるし、実際そうだとも思うが、混乱時や戦時には民族間や部族社会内での縛りや損得を超越した協調のための枠組みとして機能する。もしこの考えが実態の一端でも捉えているならば、平時のタリバンが瓦解や内紛を避けるには民族、部族の共通価値観としてのイスラム法を全面に押し出すしかない。とは言え、この種の法の先鋭化は、住民にとっては時に独裁よりも質の悪いものとなる。「正義」が振りかざされるからだ。

 現在のタリバンの体制では、エルドアン登場以降のトルコのような中途半端とも言える形のイスラム法的要素導入もできず、イランのように宗教指導者という政権と国民の間のバッファとしても機能する権威も導入できない。故に、戦闘が無くなってほどなくすれば民族間や部族間の損得調整に追われることになろう。が、この点においてもタジキスタン因子がある。タリバンが最も安定するのは敵対勢力との戦闘が継続している状態だ。だからパンジシール地方に精強な敵対勢力が居続けた方が良いし、北部連合の存在も同様だ。

2021/08/19

三万人

 米国議員が「台湾の駐留米軍三万人」とツイートし、中華人民共和国政府がそれに反応したり、その後間違いとしてツイートが消されたりとか。このあたりの話はもう何カ月も前の日本語訳もあったネット上の報道で明らかになってるのでは?とひとしきり首をかしげる。

 台湾にはトランプ政権時代に米国から一万人以上の軍事顧問団が派遣されていて、台湾の対中防衛ドクトリンを改定し、それに対応した台湾軍再編成も今年の春に完了済みで、現在は新ドクトリンに合わせた兵装の配備と習熟の段階にある筈だ。準備完了とは言えないが、事実上の援軍は欧州からもやってきている。なお別エントリに既に書いたような気もするが、英海軍船が日本に寄港する場合は(朝鮮戦争の)国連軍として振る舞うのではないかと思う。故に、米海軍が駐留する港のうち、国連軍活動での使用も割り当てられている横須賀辺りが候補だろうと見る(8/29追記:英国フリゲート艦HMS Richmondが佐世保入港の報。改めて調べると、佐世保海軍施設も国連軍が使用できることになっていました。どこで記憶違いをしたのか不覚。外務省ウェブページ「朝鮮国連軍と我が国の関係について」2-(2)-ウ)。

 防衛ドクトリンの変更の要点は想定する戦場で、90年ごろは台湾の海岸だった(兵役経験のある台湾人の同期入社がソース)が、現在は敵地攻撃、すなわち侵攻部隊の大陸海岸近くの兵力集合地が前提となっているようだ。従って、短距離砲や無反動砲主体(件の台湾人同期は対火車猟兵=対戦車兵だったとのことで、事が起きれば最前線に配置されるので戦死は必至と考えていたらしい)の待ち伏せ型の兵力構成から、長距離ミサイルと航空兵力を押し立てて人民解放軍を海へ出さないことを第一とした攻撃的な兵力構成となっているだろう。

 蔡英文政権になってから、台湾政府は「有事に備え、三峡ダムのとあるヶ所に巡航ミサイルの照準が既に合わせてある」と一度豪語している。これは三峡ダムの強度的、構造的弱点をピンポイントで攻撃するぞと言っていることになる。構造的に壊せれば攻撃として満点だが、発電機能や排水量調節機能を奪えればそれだけで十分なダメージを与えたと言えるだろう。これだけでも台湾の対中防衛ドクトリンの変更は明確だが、米国軍事顧問団の派遣後にその具体化が加速したことは想像に難くない。時が進めば、F-16V(相当品)も同様の任務に使えることになる。ソースは全く無いが、台湾空軍パイロットの米国でのF-16習熟訓練はとっくに始まっているだろう。イスラエル空軍でのF-16運用などがかなり研究されているのではないだろうか。F-35Bなどの習熟訓練で渡米している航空自衛隊パイロットや管理要員と「たまたま」会う機会もあるかも知れない。

 で

現在、台湾に駐留する米軍は事実としていない。だから、「間違い」を理由に米軍の駐留兵数に関する件のツイートが削除されたのは妥当だろう。軍事顧問団がもう三万人規模になってるってことなんだろうかね・・・ならば派遣規模はベトナム戦争よりも既に多いことになる。

バッジエンジニアリング

 今回はふと思い出した昔話。

  バッジエンジニアリングと言う言葉は元々自動車業界で生まれたと昔人から聞いた記憶があるのだが、真偽は不明だ。例えばダイハツが製造した軽自動車を、別の名前と自社のバッジを付けてトヨタが販売するような状況を指す。新車発売だが、エンジニアリングと呼べる作業は自社のバッジの製造と取り付けだけだ。

 OEM商品も似たところがある。今は無き三洋電機は、一時期OEM生産での儲けが余りに大きくて自社ブランド製品が無くとも会社は安泰と言われた。色んな会社の白物家電のデザインが似ていると思ったら、製造は皆三洋電機だったというオチだ。日本の家電製造会社のシェアがあった時代の末期近くは、相互に得意製品をOEM供給し合うようなこともあった。が、OEM供給元が国境を超えるようになると、三洋電機の製造部門は急激にOEM顧客を失った。家電品は今や販売(ブランド)、設計、製造が別会社に分離されるまでに至っている。例えば鴻海は色んなものを製造するが、自社では設計も販売もやらない。

 で、本題。

 三洋電機が未だ大儲けをしていたころは、多くの企業グループで社員に対する「グループ企業の製品を買おう」という圧力は本当に強かった。旧財閥系で顕著だったろうことは想像に難くない。以下は、グループ内に自動車会社を持つ大企業に就職した先輩から当時聞いた話だ。

 キーワードは「〇菱インテグラ」だ。

 先輩の就職先の独身寮の駐車場には〇菱自工の車しか置けないルール、一方寮監さんは車に全く詳しくない。そのため〇菱自工のバッジを付けたホンダ・インテグラとかが現れる。しかも何台もだ。寮の近くの自動車修理工場は〇菱自工のバッジを常に用意していて、小遣い稼ぎとばかり手ぐすね引いて寮生が車を持ち込むのを待っている。当然ハンドルのバッジも交換する。寮監さんは「自工は本当に色んな車をつくってるんだなぁ」といつも困惑半分、感心半分な表情で言っていたそうだ。本来の意味とは違うが、話を聞いた時にはまさにバッジエンジニアリングだなと心底呆れた記憶がある。

 ただそのような圧力、空気も21世紀には基本的に持ち込まれなかった。業務に関わる調達作業の過程で、会社自体がグループ内企業を特別扱いしなくなったのだから当然だ。

2021/08/15

新型コロナ対策の和歌山モデル?

 掲示板まとめ記事から跳んだ和歌山県の「知事からのメッセージ 令和3年7月21日」を一読してふむふむ。まとめ記事は「和歌山モデル」の1項目である「国にさからう」を取り上げたものだが、メッセージを読めば実質的にそんなことではないことは明確だ。マスコミ向きの餌に過ぎない。

 メッセージ内では、そんなマスコミが清々しいまでに徹底的にdisられている。どこまでが計算なのか分からないが、知事は実に上品にdisっている。「・・・と言ったら呼ばれなくなりました」といった表現の破壊力は実はデカい。また別の部分では、「濃厚接触者を追わない」という東京都の新方針を全否定している(とは言え、もう東京にはそのためのリソースが無い)。あ、何を持って日本一とするかは難しいが、依然として都道府県単位のワクチン接種率の高さがトップクラスであることは歴然とした事実だ。

 メッセージの内容を信じる限り、知事自身が持った疑問は自身で解決しようと実際に動くタイプであることも分かる。これを和歌山県全体に敷衍することの愚かさは承知だが、「国にさからう」と表現した知事や和歌山県の動きの本質は「考えることをやめるな」である・・・という主張や意見に説得力を与えるものぐらいは言ってもバチは当たるまい。とは言え、和歌山県にあっても現行の対策体制は脆弱である、リソースに余裕が有る訳ではない、ことは認めている。

 さて、マスコミがどう表現するか、取り上げるかどうかに関わらず、「科学的、データに基づき論理的に」を是とする「和歌山モデルと呼べるもの」はある。そして、「和歌山モデルと呼べるもの」の是非は、やはり「データに基づき論理的に」実績ベースで判断されるべきであろう。進行中の事態なので現時点での評価、判断は置くが、指摘しておきたいことが一つある。「COVID-19 JAPAN 新型コロナ対策ダッシュボード」によれば、和歌山県は8/14段階で「もしかしたら『入院治療を要する者』の数がピークアウトしつつあるのかも」と思わせられる数字の挙動が見られる唯一の県(8/17追記:石川県もそうでした)なのだ。今後の展開を地味に気にしている。

米軍のやる気?本気?

  米軍が自国内で高速道路を使った軍用航空機運用の訓練を始めた。やる気?本気?を垣間見た気がした。自軍航空基地が攻撃され、使用不能となった際の空軍に対応訓練とのことだが、自軍基地があるのが敵国内か敵国に隣接する国である想定であろうことは想像に難くない。

 注目点は幾つかあるが、目立つのはフェアチャイルドA-10攻撃機の運用だ。A-10は陸軍地上部隊の支援が仕事で、活動地域は地上戦の最前線となる。よって、高速道路を使った臨時航空基地はやはり戦線の直後方であると考えるべきだ。空軍・陸軍合同の敵地侵攻を前提とした訓練に見えなくもない理由がここにある。

 直近で、鉄道やら自動車道路やらの整備を自国内で急ピッチで進めている国はどこだろうか。自国軍の侵攻、兵站のために整備した交通輸送網は、そのまま戦争相手国の侵攻、兵站経路となる。北京を出た列車がラサに至るが如く、ラサを出た列車は北京にも至る。台湾の高速道路は最初から長い直線区間を多数持つ。

 実のところ、このような地上と空の兵力連携は米海兵隊の十八番だ。湾岸戦争でその真価は発揮され、橋頭保の直ぐ後方を基地としてVTOL攻撃機を運用することの威力のほどを示した。米海兵隊は海軍、空軍、陸軍のそれぞれの機能のうち必要なもの全てを有し、他軍の支援が無くとも戦力を投射、確保した橋頭保を維持できることを意図した自己完結的な特殊な軍組織だ。今回の訓練は、海兵隊が担ってきた戦闘行動を、陸軍と空軍の共同運用でも実現する意図を反映したものと見る。

 では海兵隊はいらない子かと言うと、状況は逆でむしろ大規模で重要な役割が与えられそうだ。要は、本来海兵隊に任せていた多くの仕事に海兵隊の手が回らないから、陸軍と空軍が共同してまるで海兵隊みたいなことを始めたのではないかと思えるぐらいだ。

 現在太平洋では、海軍と海兵隊の共同訓練が実施されている。初ではないが、何十年かぶりの面子での共同訓練なのだそうだ。しかもオリンピック期間中に被っての軍事訓練実施は米国では異例だ。こちらの訓練の内容は島嶼への戦力投射と橋頭保確保とされる。従って想定される作戦の主体は海兵隊であり、強襲揚陸艦、F-35Bやオスプレイが最大限活用される。私が読んだニュース記事では海軍の位置付けが良く分からなかったが、空母打撃群が参加していないことから、海兵隊の支援が主任務と思われる。ここは完全に私の妄想だが、作戦が実行に移された場合には、英国の国籍マークを付けたF-35Bが米海兵・海軍艦隊の上空を飛んでいるのではなかろうか。想定される作戦海域の先には香港がある。面子に敏感なのは中共だけではない。むしろ面子のみを追求する勢力よりも、実益の為に面子には「いったん目を瞑れる」勢力の方が怖い。「面子にいったん目を瞑る」と言う状態は、いずれは面子を取り戻すという強い意志や決意の存在の裏表だ。

 こうなると米国の空母打撃群はほぼフリーハンドとなる。海軍の持つリソースは別の場所に投射可能だ。特に海峡部での日本海への出入りを封じ、日本海を実質的な内海状態とできれば、空母打撃群の配置の自由度は増す。日本海に入らなければ空母打撃群の受ける脅威は長距離核ミサイル攻撃にほぼ限定されるが、日本海にもイージス艦は配置されているだろう。このような時点で、前線支援を除く米空軍、宇宙軍が何もしていない筈が無い。

 因みに一部報道が事実なら、クイーン・エリザベスを中心とする英海軍空母打撃群は国籍不明の原子力潜水艦(推進音は人民解放軍・商級原子力潜水艦並みに五月蠅かったらしい)の追跡を探知、音紋等のデータ収集をした上でピン(ピコーンってやつ)を打ち込んで「お前が居ることは知っているぞ」をアピールまでしたらしい。文字通り、水面下では色々始まっているようだ。

2021/08/11

メインPC、CPUクーラー交換!(その2)

 前段の話は先行するエントリで。大まかに流れをまとめると、

  • Intel Core i7-10700搭載のDell XPS 8940では、CPUパッケージ温度がすぐ100℃まで上がる。要はCPUクーラーの除熱性能が足らない。
  • CPUパッケージ温度をを下げるために、ターボブースト時の最大CPU出力の設定を120Wから60Wまで下げた。連続・高負荷時のCPUパッケージ温度は85℃以下となったが、CPUのピーク性能は2割ほど下がった。
  • CPUクーラー交換を検討して候補を絞り込んだが、「85℃でいいっしょ」と高をくくって暫く放置。連続・高負荷運転30時間など、長時間の85℃運転を10回程度繰り返した。
  • Intelの技術文書を改めて丁寧に読むと、制限最高温度の一つであるケース温度はIntel Core i7-10700でも72℃前後であることが分かった。つまり「85℃運転はヤバい」。以前の検討に基づいて、CPUクーラーとしてID-COOLING SE-914-XTの導入を決心するに至った。ファン径92mmが決め手、120mmだともうミニタワーケースには収まらない。これが8/9の夜。

となる。 

 で、翌8/10は都内の病院への月一の通院日だったので、その帰りに秋葉原に寄った。「こんな時期になんだ」と言われそうだが、中途半端な田舎住まいには逃し難い機会だ。その規模故に密になりにくそうな大店舗を選び、ID-COOLING SE-914-XTとM3×20mmネジを購入して早々に帰宅した。

 元々付いているCPUクーラーはネジ4本を緩めるだけであっさり取り外せた。かつて動画で観た「AMD CPUのすっぽん」の光景が頭をちらついてやや恐る恐るの作業となったが、ネジを緩める過程でネジ部のバネの力だけでCPUとは分離した(私がPCを盛んに自作、改良していた時代は、CPUクーラー無し~リテールクーラーで十分なころ。つまりCPUクーラーをCPUから外すのは生まれて初めて)。グリスは乾いておらず、接触面全体に広がっていたため、CPUクーラーの性能は十分に発揮できていたと思われる。CPUクーラー自体は、少し昔風の言い方をすると「リテール品よりもヒートシンクが厚いトップフロー型」とでも言えようか。埃の付着はファンの最先端部に僅かにある程度で、ヒートシンク内も綺麗だった。

 SE-914-XTの取り付けについては特に述べないが、CPUクーラー固定用のステーとステーとマザーボード基盤との間に挟む樹脂製スペーサを固定するネジは、マザーボード基盤高さにあるネジ穴が全く見えない状態で、上から挿入して締めることになる。私の場合はネジの代わりにつまようじを使って仮組みし、つまようじを1本ずつ実際のネジに置き換えていく方法をとった。なお、CPUクーラーの交換はケースカバーを外しただけの状態で実施した。ただマザーボードのファン電源ピン周りは狭いので、既存のCPUクーラーを外した時点で新しいファンの電源ケーブルを接続しておくのが吉かと思う。

 あ、何故ステー固定が面倒臭いのか、そもそもどうして別途購入のネジなんかで固定するのかについては先行するエントリ(その1)を参照されたい。これは附属品ではSE-914-XTがXPS 8940に取り付けられないというXPS 8940の構造が原因だ。更に言えば、今回の取り付け方法ではマザーボードをケースに組み込んだ状態での作業が必須となる。ステーはマザーボードではなく、マザーボードを半ば貫通している「ケースの一部」に固定するからだ。

  さてID-COOLING SE-914-XTの性能だが、まず冷却力は私の想定には十分ミートした。良くも悪くもミニタワーケースに入るコンパクトな空冷クーラーである。以下、具体的なCPUパッケージ温度が表れるが、これらは全てCinebench R23のマルチコアテスト(10分)の終盤に得られた値だ。

 まずはターボブースト時の最大出力を150Wに設定した場合のCinebench R23の結果だ。150WはSE-914-XTの最大対応TDPになる。

 ベンチマークの数値自体は「あ、ふ~ん。それっぽい数値出てるね」ぐらいでの受け取り方で良い。このベンチの過程で得られた大事な知見は、CPUパッケージ温度は83℃とケース温度を超えたが、コアクロックは全て最大値の4.6GHzが維持されたことだ。つまり、CPUの計算能力としてのパワーが100%引き出せている。逆に、ターボブースト時の最大出力を150W超とすることに意味は無いことになる。

 ターボブースト時の最大出力を出荷時設定の120Wとした場合はどうか。CPUパッケージ温度は72~74℃とケース温度付近、コアクロックは全て4.4GHzが維持された。コアクロックは最大値に及ばないものの、ケース温度の観点からはこの辺りがターボブースト時の最大出力設定の候補となる。が、さすがにファン音が大きい。ブーンという音が乗って、機械的な不具合発生の不安を感じる一歩手前ぐらいの感じの音だ。

 続いて95W。この出力ならコアクロックが4.0GHz以上とできることが予測され、日常的に使えると嬉しい設定点だ。従来の60W設定時に対してコアクロックが+20%以上となる。CPUパッケージ温度は68℃でケース温度未満、コアクロックは4.0~4.1GHzと狙い通りだ。ファン音にブーンといった音が無くなり、如何にも高速回転中といったサーといった音だけになる。音量は8畳向けエアコンの低風量時よりやや大きいぐらいだが、ノイズ多めなので耳障りで隣で寝るのは無理っぽい。

 60Wならファン音が認識できない静音状態で、アイドル時と変わらない。CPUパッケージ温度は63℃、コアクロックは3.5GHzで、旧CPUクーラーの84℃、3.3GHzとは本質的に違う。なお、アイドル時のCPUパッケージ温度は60℃台から40℃まで下がった。コアクロックの違いは自動制御されているコア電圧の違いを反映している。ファン音が聞こえ始めるは70W、「これは隣では眠れないかも」感が出始めるのが75Wだ。睡眠時も運転することを考えると70W、CPUパッケージ温度64℃、コアクロック3.7GHzでほぼ決まりだ。

 まとめると、連続・全力運転を前提したターボブースト時最大出力は、睡眠時70W、日中不在時は95Wぐらいが良さそうだ。冬場は部屋を温めておいてくれるだろう。

 SE-914-XTのファン回転数制御は、意地でもCPUパッケージ温度を70℃未満としたいかのようだ。ファン音が気になり始めるのが63~64℃、100W以下の広いCPU出力範囲でCPUパッケージ温度のブレの上限が68℃となる。これはIntel Coreのケース温度(ヒートスプレッダの許容温度)が72℃付近であることを考えると納得の設定だ。半面、CPUパッケージ温度が60℃前半の段階からファン回転数を上げ始めるので、静音運転に拘ると思っていたよりもCPU出力が上げにくくなっている。この辺りはこのサイズのケースに収まるコンパクトさとの兼ね合いというのが実態だろう。ただしケース温度制限を考えなくとも良い、という点は精神衛生上実に好ましい。また、CPUパッケージ温度が低くなれば電圧を上げやすくなるので、同じCPU出力でもコアクロックは僅かではあるが上がる。

 で、別のまとめ方。

 価格.comのレビューなど、他の人によるネット上の情報とも矛盾しないし、値(特にキーとなるCPUパッケージ温度68℃)の一致具合も高い。繰り返すけど、高回転時のファン音はノイズ混じりで、個人的にはやや不安感を煽るものだ。コンパクトさの代償だね。CPU出力70~80Wの範囲でCPUパッケージ温度の変化勾配が上がるが、その上昇はいったん68℃で止まる。つまり80~100Wの範囲内に、CPU出力に依存せずCPUパッケージ温度が68℃一定となる範囲がある。

 なおBIOS/UEFIが既に第11世代Coreに対応しているので、実用性を担保しつつ最低でも一世代はCPUアップグレードできる見通しが立っている。が、現時点ではコストパフォーマンスが悪いからやらないけどね。

 んん?高出力時のこの騒音は実はケースファンからかな?(続くかもしれん)

 雑談。

 今回のCPUクーラー交換の検討段階でCPUクーラーの性能比較や性能紹介動画を多数見た。が、CPU出力を「100%」としか紹介しないものが少なくなかったのが頭痛の種だった。私の観点だと、最高出力を20Wに設定すれば20W出力で100%だし、150Wに設定したら150W出力で100%だ。上のグラフの全ての点が「CPU出力100%におけるCPUパッケージ温度及びコアクロック」の測定結果になるのは明らかで、「100%」と言う表現は付加条件が無いと意味がない。

 3DCGレンダリング時(≒実際の使用時)の負荷は、ターボブースト時のCPU出力設定に使っているIntel Extreme Tuning Utility(Intel XTU)のストレステストの負荷よりも明らかに大きいようだ。CPU出力が同じでも、XTUストレステスト時の方が CPUパッケージ温度は低い。より具体的には、XTUストレステストではCPUパッケージ温度が上下するが、3DCGレンダリングでは上限値に貼りつく。

 ちょっと似た話で、DAWはCPUパワーを要求するため昔からCPU使用率表示が行われてきた。今でもそんな表示は残っているが、パワー要求(デマンド)に対して制限範囲内で計算能力が追従する昨今のCPUに対して意味あるんですかねぇ。

メインPC、CPUクーラー交換!(その1)

 とにかくCPUパッケージ温度が100℃近くまでしょっちゅう上がるので、メインPCのCPUをダウンクロックした話は以前にした。CPUはIntel Core i7-10700で、具体的には120Wだったターボブースト出力を60~70Wにまで下げた。それでも、CPUパッケージ温度は85℃付近まで上がる。

 あらためて断っておくが、私はオーバークロッカーの類ではない。趣味で3DCGをやっているだけだ。が、3DCGの世界のレンダリングという作業では、特に動画を作る場合は、PCを2~3日間全力運転させることなんてざらにある。だから「趣味の範囲で」という注釈の下(つまりまずは安く)、そのようなタスク「も」そこそここなせるPCが欲しい。できるだけCPUの能力を引き出しつつ、故障や不具合発生の可能性を下げた運用が可能で、睡眠を阻害しないレベルで静かなPCだ。じゃぁ何でDellなのか・・・いやいや、先代のメインPCだったDell XPS 8700は、グラフィックボードこそは交換したが上記の私の要求を満点で満たすものだったのだ。Alienwareを買収したあたりから製品の技術的傾向に変化が見られ始めた感じがする。まぁ今回のCPUクーラーの件のようにPC性能の足を引っ張る明確なアキレス腱があって、そこに約¥4000とちょっとした作業だけでPC性能が「そこそこ化ける」・・・って展開は試されてるみたいでまだ楽しめるレベルだし、Dellのハードウェア設計の基礎部分の手堅さみたいなものは感じる・・・感じない?フルタワーケース製品以外に拡張性はもはや求めちゃダメだけどね。

 さて、

 「CPU温度 適正」といったキーワードでググると「高負荷時でも70℃台、80℃越えはヤバい」といった辺りの情報が大勢だが、Intelのスロットリング(上限値制限制御)のロジックからはそういう印象を受けない。という訳で「85℃でもええやんけ」と思っていたのだが、Intelの公開されている技術資料を見て考えが変わった。これが8/9の夜の話。んで8/10にはCPUクーラーを交換しちゃった訳だが、最近のエントリの内容はこういう早い展開が多いな。

 従来よりIntel CPUの許容最大温度としてケース温度T_caseが用いられてきた。これはヒートスプレッダの最高許容温度であり、以前より熱暴走や破損を防ぐ上での基準となっていた。具体的に72℃付近であり、少なくとも第4世代以降のCoreではほぼ変わらない。一方、最近では、書類でかつてT_caseが書かれていた位置にはジャンクション温度T_junction_maxと呼ばれる温度が書かれることが増えた。これはコア内の接続部が破損しない(=断線しない)温度で、具体的には100℃である。Intel Core i7-10700などでコア温度が100℃に達すると、クロック周波数を下げるなどして温度を下げる制御が為されるのはこのためだと思われる。

 ではCore i7-10700にとってケース温度T_caseは気にしなくても良いかと言えばさに非ず、ネット上に公開されているIntelの技術資料をきっちり読めば Core i7-10700でもケース温度T_caseが72℃程度であることははっきり書かれている。つまり、「85℃でもええやんけ」という考えは間違っている。技術屋気質を気取るなら、反省する間も惜しんで事態の本質的是正に動くべきってところだろう。

 ちなみに、ネット上には「昔はケース温度T_case、今はジャンクション温度T_junction_maxが制限」といった文章もあるが、書いた当人の肩書がどうだろうがIntelが発行・公開している技術文書の記述に基づけばこれは当然間違いである。こんなんに仕事出してるようなレベルお察しな会社、経営大丈夫か。まぁ、ターボブースト運転を連続24時間とか、普通の用途では有り得ない使用条件であることは認める。

 さて、メインPCはDell XPS 8940というちょっと困ったちゃんである。

 まず、CPUファンやケースファンの回転数を取得するインターフェースが無い。安さの秘密だ。つまりケースファン回転数やその制御ロジックはユーザーに対してマスクされていて、BIOS/UEFIやソフトウェアでそれらを確認したり変更することができない。

 次いで、ファンやヒートシンクの大きさを見る限りCPUクーラーはTDP65W級なのだが、ターボブースト時の最大出力のデフォルト値が120Wになっている。実際には色々なスロットリングの所為で100~110W動作が限界だが、それでもCPU温度は100℃を叩き続ける。このためターボブースト時の最大出力を下げて実質的にダウンクロックした訳だ。TDPが65Wだからとの主張は一見正当だが、ターボクロック動作時の性能でCPU製品の価値を位置付けている(=価格が違う)ところも実態としてあるから、ターボブースト時を考慮しないスペック上のTDPは熱設計においては参考程度の意味しかない。

 更にミニタワー型の筐体は縦置き時の幅(厚み)が160mm程度しかない。これは簡易水冷どころかちょっと大きめの空冷ファンも入らない。定番どころの虎徹Mk.IIも入らない、というか背が高すぎてケースの蓋が閉じられないそうだ。まぁ、メーカーPCはそんなもんでしょ。

 あ、後ひとつ、CPUクーラーは、ケースから伸びてマザーボードを貫通する4本のM3メスネジ(ポリコレ的には不味い表現)付の筒と言うか棒と言うかにそれぞれM3オスネジ(ポリコレ的には不味い表現)で固定する。これは空冷ファン取り付けに良く使われるバックプレートに相当するが、逆に言えばCPUクーラーに添付されている専用バックプレートが取り付けられない。少なくとも4本の筒なり棒なりを切断、除去しなければ無理だ。このような構造も安さの秘密かもしれないが、マザーボードへの荷重負荷をほぼゼロとしつつネジ4本でCPUクーラーなりがきっちり固定できることを考えると割と「冴えたやり方感」はある。要は同じ構造、或いは同じように使える構造、及びそれらに対応したパーツが増えれば状況は変わる訳だ。

 とは言え、Dell XPS 8940のCPU高温の問題に対して私と同じような悩みを持った人が居ない筈も無い。ネットを徘徊すると、価格.comのレビュー内にそのものズバリの内容のものがあった(CPUはIntel Core i7-11700だが、マザーボードやケースは同じ)。製品はID-COOLING SE-914-XTというサイドフロー型の空冷クーラーで、メーカースペック上はTDP150W対応だ。ポイントは、M3×20mmネジを別途用意すれば、CPUクーラー添付のバックプレートを使わないどころか、PCを一切加工することなく取り付けられたという事実、実績だ。これを検討しない手はない。ID-COOLING SE-914-XT自体には特に音についてはネガティブな評価もあり、実際に使ってみて成程と思わなくも無いが、これは

「Dellユーザーなどに堕した報い」

かもしれんね。最近はちょっと部品が高いけど、使用目的が明確な場合には、構成品をきっちり選んだ自作PCに勝るツールはそうそう無いですわな。

続く!