さて、韓国の次期国産戦闘機開発計画、所謂KF-Xが相も変わらず迷走の度合いを深めている。実はこのエントリ、じっくり一週間ぐらいかけて書こうとしていたのだが、余りに情況の変化が目まぐるしく、とてもじゃないがフォローしきれないと匙を投げるに至った。
現状は、下記の通りだ。2つのコンソーシアムの入札となるというのが普通の国の有様だが、そこは韓国であり、そう簡単に事が進むとは思えない。
- 韓国の防衛関係航空機製造メーカーKAIとロッキード・マーティン社のコンソーシアムは健在。ただしロッキード・マーティン社は韓国への技術供与には全くコミットしていないとされる。
- 実は航空機製造会社でもある大韓航空のコンソーシアム・パートナーがボーイング社からエアバスD&S社に変わった。つまりボーイング社は手を引いた事になる。エアバスD&S社は旧ユーロファイター社を含むので戦闘機製造能力はある。
大韓航空とエアバスD&S社との間で了解覚書(MoUまたはMOUと略される)が結ばれたが、エアバスD&S社は覚書について「エアバスD&SがKF-Xに
参加するわけではなく、KF-X事業に参加する大韓航空に協力する」と説明している。つまり、技術供与については覚書外の協議事項となっている、っつーか
素直に解釈すれば技術供与をする気は無く、「買え」と言っているに等しい。そもそもMoUには「双方ともに独占的に交渉を始めるよ」ぐらいの意味しかな
い。
参考情報としては以下のようなものがある。
- ボーイング社が手を引いた事により、F-18サイレント・ホーネットの実用化の芽はほぼ無くなった。例外はF-35B、Cの実用化、本格運用開始に致命的な遅延が発生した場合のみと言ってい良いだろう。F-15サイレント・イーグルについては、
F-15の製造ラインをわざわざ維持までして韓国次期戦闘機入札に臨んだにも関わらずボーイング社は屈辱的なまでの煮え湯を飲まされたことになる。多少でも学習能力があれば当然の行動と言える。実はボーイング社は無人ステルスジェット機に関しては押しも押されぬ米国のトップ・プレイヤーである。
- 韓国は次期戦闘機としてロッキード・マーティン社のF-35を選定したが、米国議会による輸出承認はまだされていない。韓国は「F-35買うんだから」とロッキード・マーティン社に技術移転を迫っている訳だが、まだ「韓国が買えるかどうかは不透明」というのが実態だ。
さらに言えば、韓国はF-35の購入に、米国の軍事資金援助スキームを利用する。このスキームは開発途上国などが米国兵器を購入する際に米国が購入資金を一
時的に拠出するというもので、国が責任を持つ一種の長期ローンのようなものだ。利点は、輸出企業は入金に関して国の保証を得られるため輸出に伴うリスクを
最小限とできる、
輸入国は総体的に短期間で所定の数量の兵器を輸入、運用できるといったところにある。しかし、それは「米国の利益があってこそ適用されるスキーム」である点は重要だ。また、このスキームでの購入の場合、輸出企業から見ての顧客、或いは入金元はあくまで米国であり、韓国ではない。
さらにさらに言えば、同じスキームを用いた韓国KF-16戦闘機の近代化改修事業は、米国から管理費の上積みを要求されたり、請負企業から予算超過分を請求されたりと散々な状況にある。一部報道が正しければ、改修のために輸送されてきた機体がとても飛べる状態に無く、近代化改修の前提となる既存の筈の高価な部品が何処にも
見当たらなかったり、分解された形跡があるのみならず出鱈目に組み立てられていたりしたためとされる。つまり、「ついでに飛べるように修理してくれ」と言わんばかりにスクラップを送られてきたので修理代を追加して請求することにしたと言う事である。
- KF-Xでは部分的ではあるがステルス化を必須事項としている。エアバス社自体にはステルス機の製造実績はない。そもそも「部分的なステルス化とは何ぞや」という点は曖昧なままだ。
以下は古い、途中まで書いたエントリの中身である。
韓国の次期国産戦
闘機開発計画、所謂KF-Xが相も変わらず迷走中の模様。迷走のキーとも言える原因は、「国産」戦闘機計画なのに「核心技術」を海外から導入しなきゃ成立
しないところと、そもそも開発計画としては予算が1ケタは余裕で低いところにある。では、迷走ぶりを簡単にまとめておこう。
そもそものKF-X計画は2000年ごろに始まる。 完成予想図を描いた段階で格安での国産開発が可能と誰かが判断、
開発費用の一部をインドネシアに負担させるとともに60人規模のインドネシア技術者も受け入れての開発スタート…の筈だったのだが具体的な成果が出ないま
ま開発予算が0とされ、公式にもKF-X計画は中止となった。可哀想なのはインドネシアで、金や人を出しながら得るもの無しで終ってしまったことになる。
が、昨年になってKF-X計画が再び立ち上がる。ただし、今回はというか昨年は一応の進展があった。具体的には、「単発(エンジン一台)ではなく双発(エ
ンジン二台)とすることにした」ことが公式に韓国国防部から発表されたのだ。早速完成予想図や模型が作られたのは言うまでも無い。ただし、今回は予算以外
は総体的に現実的な判断が併せて公式に示された。「韓国内の技術だけでは国産戦闘機の開発は不可能。KF-Xに必要な『核心』技術については米国に技術移転を求める」とし、具体的な「核心」技術をリストアップしてさえ見せたのだ。
核心技術の内容はさておいても、技術移転にはお金がかかるし、先端技術が移転される保証もない。が、ここで韓国の話はとんでもない方向に向かう。韓国は昨
年、KF-Xよりも導入時期の早い次期戦闘機として米国・ロッキード・マーティン社のF-35戦闘機の導入を決定した。併せて韓国は、KF-X計画に必要
な「核心」技術の移転をロッキード・マーティン社に求める事も明らかにしたのである。つまり、「あなたのところの製品を買ってあげますから、タダで技術移
転して下さい」とロッキード・マーティン社に求める事にしたと言うのだ。
ん?
韓国の次期戦闘機選定も迷走した。韓国は国際入札を実施、最終的に応札したのは米国・ロッキード・マーティン社、米国・ボーイング社と欧州・ユーロファイ
ター社の3社だった。機体はそれぞれF-35
ライトニングⅡ、F-15サイレント・イーグル、タイフーンだ。入札は予算超過、実体は韓国の予算不足、を理由に100回を越えたともされ、タイフーンは
応札時の提出書類の不備を理由に途中脱落、入札価格と韓国予算がついに折り合うことなく契約先が決まらない事態となった。結局、韓国はF-35導入でロッ
キード・マーティン社と随意契約することとした。国際入札って何だったのという話だし、随意契約と言う事は
F-35の価格はロッキード・マーティン社に決定権があるということで、そもそもの韓国の予算不足とは相容れない。そこで、KF-X計画と結び付けて「あ
なたのところの製品を言い値で買ってあげますから、その次の国産戦闘機のための技術移転をタダでして下さい」と言い出したということなのである。
ここで可哀想なのは実質的にロッキード・マーティン社の当て馬にされたボーイング社だ。本件の受注に備え、閉鎖予定だったF-15イーグルの生産ラインを維持していたとの報道もあった。サイレント・イーグルは名機F-15イーグルの高ステルス化バージョンである。
対レーダーステルスの基本は、照射されたレーダー波を照射方向に反射しないことである。このため、まずは横方向のどの向きから見ても垂直面ができないよう
な機体形状にする。次いで、ジェットエンジンの空気吸入口が正面から見えないようにする。
F-22などのステルス機では機体の空気取り入れ口からエンジン入口までの経路がS型に2回曲がっており、エンジン入口は機体正面からも見えないように
なっている。エンジン入口からのレーダー波反射は大きく、最近のレーダーではエンジン入口に対応したレーダー波反射強度が大きい領域の数、大きさ及び距離
から機体の特定までできるのが実態だ。最後にミサイルなどは全て機体内に収納し、発射する時以外は剥きだし状態とはしない。
サイレント・イーグルの「サイレント」は、高い対レーダーステルス化されていることを指す。F-15イーグルは名機だが、設計は1960年代であり、ステ
ルス性は全く考慮されていない。そのため、垂直尾翼は文字通り垂直に立ちあがっており、真横から見れば巨大な垂直面となっている。また、エンジン入口は正
面から丸見えで、搭載するミサイルなどは全て剥きだしだ。サイレント・イーグルでは以下のような対策を取るとされる。まず垂直尾翼はF-22やF-35な
どの他のステルス機と同様にそれぞれ外側に傾斜させる。機体の空気取り入れ口からエンジン入口までの吸気経路にはレーダー波吸収材などが配置され、エンジ
ン入口のレーダー波反射強度を下げる。ミサイルなどの搭載兵装は、全て機体側面に追加する兵装格納庫(コンフォーマル・ウェポンベイ)に格納する。
これら全ての特徴を備えたサイレント・イーグルと称される機体に飛行実績は無いが、実寸模型(モックアップ)は製作されてメディアに公開もされているし、ウェポンベイなどの個別機能を実証するための機体は実際に飛んでいる。
確かに"사일런트 이글"(サイルヱントゥ・イグル)って表記されてるよね。
1:10辺りに現れる島は正直竹島っぽくない?
実際のところ、韓国の予算規模からすれば実績のあるF-15の発展型、おそらく最後の発展型であろうサイレント・イーグルの次期戦闘機としての導入はそこ
そこ現実的だ。そして、これがボーイング社が受注を期待した理由でもあるし、一旦はサイレント・イーグルの導入が決まったという報道があった理由でもあろ
う。が、結局はロッキード・マーティン社が受注となった。何故だろうか?
色々と理由は取りざたされたが、実はサイレント・イーグルには避けられない特性、と言うか、運用方法によっては重大な欠陥があった。作戦行動可能範囲が従
来のF-15と較べても狭いのである。要は搭載可能燃料の量が少ないのである。F-15イーグルが長距離ミッションに投入される場合は、機外燃料タンクを
翼や機体の下に搭載するのが前提となる。空爆目的で用いられるストライク・イーグルと呼ばれる機体では、機体側面に取り外し可能の大型燃料タンク(コン
フォーマル・タンク)が既に取りつけられている。が、サイレント・イーグルではステルス性を損ねるために機外燃料タンクは搭載できず、追加大型燃料タンク
(コンフォーマル・タンク)も追加兵装格納庫(コンフォーマル・ウェポンベイ)が既にあるために取り付けられない。とある報道では、サイレント・イーグルでは朝鮮半島の空軍基地から竹島まで往復できないことを理由に、とある人が採用に駄目出ししたとされる。
ああ、韓国らしい話になって来ましたね。
KF-X計画は再び